第48話


「ふわぁあああ…これがご主人様の住んでる世界…」


興味津々と言った風に室内を見渡すソフィア。


冷蔵庫やテレビ、ピアノ、ソファなどいろんな家電や家具などをじっくりと観察している。


「あー、うん…ちょっと散らかってるけど」


俺はそんなことを言いながら、なんだか頭が痛くなりそうだった。


なんだこのミスマッチ感。


現代の日本の自宅に、長耳のエルフの少女が居る。


なんというか場違い感が半端ない。


なんか成り行きで連れてきてしまったけど、大丈夫だったのだろうか。


「えーっと、まぁ、うん、とりあえず飯にするか…」


一通り感慨に耽った俺は、ふと空腹を思い出し、夕食を取ることにした。


時刻は午後の8時。


今日が三連休の最終日であり、明日からはまた学校に通わなくてはいけない。


疲れも溜まっていることだし、今日は早いところ寝たほうがいいだろう。


「うーん…何もないな…」


冷蔵庫を開けてみるが、特に食べられそうなものはなかった。


俺は仕方なく、カップ麺を食べることにする。


「ソフィア。すまないが夕食はカップ麺でいいか?」


「かっぷめん…です?」


「あー…その、この世界のあんまり手のかからない料理のことだ」


「はい。私はなんでも構いません」


「そうか」


言質も取れたことだし、俺は早速カップラーメンの準備をした。


お湯を沸かし、カップの注いで3分のタイマーをセット。


時間が経ったら、お箸を用意してソフィアと共にダイニングテーブルに座る。


「ほわぁ…湯気が出ています…魔法で温めたのですか?」


「いや、文明の力ってやつだ」


「文明…この世界は私たちの世界よりも発展しているのですね」


「まぁ、魔法とかレベルとかスキルとかは存在しないから、遅れてるところもあるけどな…ま、食べよう。いただきます」


「…?ご主人様、今なんと?」


俺の食前の挨拶に、ソフィアが反応した。


「ああ、すまんすまん。今のは食べる前の挨拶みたいなものだ。その…この国の文化でな。食べ物と作ってくれた人に感謝するんだよ。『いただきます』って言って手を合わせるんだ」


「わかりました…やってみますね…『いただきます』…どうでしょう?」


「初めてにしては様になってるぞ」


「やりましたっ!」


無邪気に喜ぶソフィア。


俺は微笑みながら、カップラーメンをお箸で食べる。


「なるほど…そんな風に…」


ソフィアは俺のお箸の使い方を真似て、自分でも一生懸命箸を使おうとしている。


「こう、でしょうか?」


「おぉ…うまいな…」


器用なもので、ソフィアは、たった数十秒のうちに箸の使い方を心得てしまった。




「美味しかったです…ご主人様の世界では、こんなに美味なものが一瞬で作れてしまうのですね」


「まぁ、作るというか…あらかじめ出来たものにお湯を注いだだけなんだけどな」


カップラーメンの味は、ソフィアの口にあったようだ。


しっかり汁まで完食したソフィアは、ご満悦と言った表情をしている。


「さて…腹ごしらえはしたけど…どうしよう」


すぐにでも寝ようと思ったのだが、熱いものを食べたせいか、眠気はすっかり覚めてしまった。


俺はせっかくなので、地球のことをソフィアに教えることにした。


「ソフィア。今からこの世界のことを必要最低限、教える。よく聞いてほしい」


「はい、わかりました」


俺はソフィアに、子供でも知っているような基本的なことを教えた。


『地球』という惑星の名前。


存在する様々な大陸や、過去に2度起きた世界大戦。


そして、現在俺たちが住んでいるところは日本という世界でも有数の経済大国で比較的治安の良い法治国家であること等々。


ソフィアは終始俺の話に、真面目な表情で耳を傾けていた。


「それからこの世界には奴隷制度がない。昔はあったんだけど…200年ぐらい前には廃れてるから、安心してくれ」


「ど、奴隷制がないなんて…すごいです、まるで天国のようなところです…」


ソフィアはすっかり感心している。


「まー、ざっとこんな感じかな。何か質問とかあるか?」


「ええと…聞きたいことがありすぎて…その、何か歴史をまとめた書物でもあれば話が早いのですが…」


「本か…あることにはあるが、日本語で書かれてるしな…」


「あ、ご主人様。それなら私、解読スキルを持っていますので」


「えっ、そうなの?」


それなら話が早い。


俺は自分の部屋から、歴史の教科書や地理の本など、基礎的な知識が詰まった本をリビングへと持っていった。


「わぁ、こんなに…!これ、全部借りてもいいのですか!?」


「ああ、もちろん。何かわからないことがあったら聞いてくれ」


「はいっ!では…」


早速世界史の教科書を開いて黙々と読み始めるソフィア。


すごい集中力だ。


彼女なりに、この世界のことについて学ぼうとしているのだろう。


「ふむ…俺も何かしようかな…そういや、もう時期定期テストか…」


俺はそう遠くないうちに定期テストがやってくることを思い出した。


「この際だし、ちょっとやっとくか」


世界史の教科書を読み込んでいるソフィアの隣で、俺も数学の教科書を開いて問題を解き始める。


室内ではしばらく、ソフィアのページを繰る音と俺のノートにペンを走らせる音が響いた。



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