第47話


「んみゅぅ…」


翌日の朝。


俺は耳元で囁かれる可愛らしい声で目を覚ました。


「むふふぅ…」


寝言は一定のリズムで耳朶を打つ。


意識がだんだんとはっきりしてきた。


それと同時に腕に感じる、柔らかな感触。


「…ええと」


嫌な予感が脳裏を駆け抜けた。


まさかな、と思いつつも、俺は毛布を捲る。


「うぇへへ…」


そのまさか、だった。


「…っ」


いつの間に潜り込んだのか、ソフィアが俺の隣で寝ていた。


俺の腕に縋りつきながら、幸せそうな表情を浮かべている。


さらに、服がはだけて大事な部分が見えそうになってしまっていた。


「…っ」


俺はさっと目を逸らして、急いでベッドから出る。


『キャウンッ!』


「うわっ、ウルガ!!すまん!」


『くぅううん…』


「ごめんって…」


そういやウルガの存在を完全に失念していた。


俺は起き上がる拍子に蹴飛ばしてしまったウルガに謝ってから、洗面所へと向かった。




「ご主人様、どこに向かっているのですか?」


「俺の家だ」


「なるほど、ご主人様の根城ですね。それはどこにあるのですか?」


「ええと…アストリオにはなくてな、ここからかなり離れば場所にあるんだ」


「そうですか。どんなところなのか、楽しみです」


そう言って表情を綻ばせるソフィア。


今朝のハプニングから1時間後。


朝食をとった俺たちは、宿を引き払い、アストリオの出口に向かって歩いていた。


<捜索>スキルのナビ通りに、街を進んでいく。


アストリオの入り口までは、あと30分ほどでつくらしかった。


「ふぅ…」


俺は深呼吸をする。


この都市を出る前に、大切なことをソフィアに話さなくてはならない。


タイミングを見計らい、俺は意を決して話しかけた。


「なぁ、ソフィア。ちょっと聞いてくれるか?」


「何でしょう?」


キョトンとするソフィアに、俺は一気に喋ってしまう。


「突然で悪いんだが…驚かないで聞いてほしい。実は俺な、この世界の住人じゃないんだ。地球っていうところにある日本って場所からきた、いわば別世界の人間なんだ」


「なるほど、異世界人、というわけですね。わかりました」


「そうそう…俺は異世界人…って、ええ!?」


あまりの理解の速さに思わずソフィアを二度見してしまった。


「どうされました、ご主人様?」


「い、いや…その、なんだ、いやに理解が早いなって思って」


「なんとなく、そうじゃないかな、と思っていました。立ち振る舞いや、お召し物が、明らかにこの世界の住人と違いましたから。それに、買取屋で売ったものも、この世界のものではないようでしたし…」


「なんだ、気づいていたのか…」


「はい。確信があったわけではありませんが…詮索はしたくなかったです。もしそうなら、こんなふうにご主人様の方から言ってくれるかなと」


「なるほど、そうかそうか。いやぁ、緊張した」


かなり動揺されることも視野に入れていたのだが、ソフィアは存外にすんなりと受け入れてくれた。


「もしかして、俺みたいな異世界人ってあまり珍しくないの?」


ふと疑問になったので聞いてみた。


「珍しい、と思います。ですが、私は過去に一度、ご主人様以外の異世界の方にあったことがあります」


「へぇ、そうなのか」


「はい、150年ほど前に、ですが」


「150年!?」


俺はソフィアをマジマジと見つめてしまう。


どうみたって俺より二、三歳は歳下の見た目だ。


だが、今の話が本当ならソフィアは少なくとも百五十歳以上…


「な、なぁ、ソフィア。お前、今何歳なんだ…?」


「ええと…300は超えてると思いますけど…」


「さ、300…」


「エルフの中ではまだまだ若造扱いの歳ですけど…精一杯仕えさせていただきますのでよろしくお願いします」


「あ、うん、よろしく…」


なるほど。


エルフ種といえば長寿で有名だが、それはこの世界でも同じか。


三百歳で若造扱いとは…一体この世界のエルフの平均寿命ってどのぐらいなんだ…?


聞いてみようとも思ったが、どうせ気の遠くなるような数字を告げられること請け合いなので聞かないでおいた。


「あぁ、それから、まだ話は終わってないんだった…」


俺は本題を思い出す。


「なんです?」


「ええと…ソフィアのこれからについてだ。選択肢は二つ。俺と一緒に俺の世界に来るか、それともこの世界に残るか、だ。後者を選ぶなら、俺はソフィアを解放する。どちらでも好き」


「ご主人様にお仕えします!!」


「早いなおいっ!」


即決するソフィアに俺は突っ込んだ。


「い、いいのか…?もう少しじっくり考えても」


「いいえ。初めから答えは決まっています。ご主人様にお仕えさせてください」


俺の目をまっすぐにみながらそんなことをいうソフィア。


意思は硬そうだった。


「わかった。じゃあ、…これからよろしくな、ソフィア」


「はい!!よろしくお願いします!」


ソフィアが顔を綻ばせた。




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