第33話
ケノスさんから大都市アストリオに関する資料と魔導書をもらった俺は、村を後にして『始まりの小屋』まで戻ってきた。
本当ならすぐにでも帰ってアストリオに関する書物を読もうと思ったのだが、予定変更だ。
俺は小屋の中で魔導書を広げて、読み込んでいく。
『クゥウウン…』
「おー、ウルガ。何咥えてるんだ…?」
『ワフッ』
座って魔導書を読んでいると何かを加えたウルガが近づいてきた。
それはうさぎのような小動物だった。
餌を自分で取ってきたようだ。
「おお、偉いぞウルガ。自分で取ってきたのか」
『ガウッ!』
「向こうで食べてこいよ。俺はここにいるから」
『ワフッ』
ウルガは返事をするように一声なくと、小屋の外に出て小動物を食べ始めた。
咀嚼音が聞こえてくる。
やがて食べ終わったのか、再び小屋の中へと戻ってきて、魔導書を読んでいる俺の隣に寝そべって物欲しそうな顔で見つめてくる。
「わかったよ」
俺は片手で魔導書のページをめくりながら、もう片方の手でウルガを撫でる。
ウルガは俺が撫でると、『ゴロゴロゴロ…』と気持ちよさそうに喉を鳴らした。
どちらかといえば犬のくせに、猫みたいなやつだ。
可愛い。
俺はウルガを撫でながら、魔導書を読む。
魔導書を読むのにそう長い時間は掛からなかった。
たくさんの情報がそこには記載されてあったが、重要なものだけをまとめると以下のようになる。
まず魔法を発動させるには、体内魔力とイメージ力が必要である。
体内魔力は、生まれた時からあらかじめ総量が決まっており、使い切ると魔力欠乏症という症状を引き起こす。
この状態になると、倦怠感や吐き気が襲ってきて最悪の場合、嘔吐したり衰弱死することもあるらしいので、魔法の使用はほどほどにしたほうがよさそうだ。
また、魔法は初級、中級、上級の三種類があり、多くの魔法使いが、中級あるいは初級魔法止まり、上級魔法を使える者は、魔法使いのほんの一部ということらしかった。
また、魔法には属性という分け方も存在して、一流の魔法使いは、戦う相手に合わせて使う魔法の属性を自由自在に変化させるのだとか。
魔導書に書かれてあったことを大雑把にまとめると、そんなところだ。
「さて、全部読んだことだし、ひとまずモンスターと戦ってみるか…」
習うより慣れろ、という言葉がある。
魔導書には一応、修行方法なども書いてあったのだが、ひとまず実戦で使えるかどうかを試したい。
「ウルガ。行こう。モンスターと戦いにいくんだ」
『ワフッ!!』
俺は魔法を試すために、ウルガと共に小屋を出た。
モンスターを探して、草原を練り歩く。
「お…あれはスライムか?」
地面に、液状の何かが動いているのが見えた。
グリーン・スライム
種族:モンスター
レベル:5
攻撃:30
体力:120
防御:20
敏捷:8
「雑魚だな…」
雑魚モンスター筆頭格のスライム。
この世界でもちゃんとスライムは雑魚モンスターだった。
倒してもあまり意味はなさそうだが、しかし、動きが鈍いので的としてはちょうどいい。
俺はスライムに対して魔法を放ってみることにした。
「ファイア・ボール!!」
ケノスさんの家でやったように、聞き手を前に突き出して、もう片方の手を添える。
それから、頭の中で火球をイメージし、技名を口にした。
ボッ!
ジュワアアアア…
『キュイッ!?』
火球は狙い通り、スライムに命中。
スライムは炎に溶かされ、やがて蒸発して亡くなった。
後には、見えるか見えないかぐらいの小さな魔石が残った。
「倒せたけど…まだ威力が足りないよな」
おそらく俺の使った魔法は初級に該当するんだろうが、この程度の威力だとゴブリン一匹すら倒せなさそうだ。
俺は、威力を上げる工夫をすることにした。
「もっと大きい火球をイメージしてみるか」
俺は頭の中に、直径1メートルぐらいあるどでかい火の玉をイメージした。
「コロナ・ボール!!」
腕を前に突き出し、勝手に命名した名前を口にしてみる。
ゴオオオッ!!
「うおおおお!!!」
出た。
ものすごい大きな火球を生み出せた。
直径1メートルとはさすがに行かなかったが、しかしその半分程度の大きさはありそうだ。
「これなら殺傷能力はありそうだな…」
この大きさで放てば雑魚モンスターは一発で倒せそうだ。
火球は地面に落ちた後も、しばらく消えることなくメラメラと燃えていた。
『ワフッ!!ガウガウッ!!』
すげぇ!と言わんばかりに、ウルガが興奮している。
「一応消化しとくか…ウォーター・ボール!!」
俺は今度は、頭の中に水球をイメージして魔法を使った。
バシャッ!
ジュゥウウウ…
ドッジボールほどの水球が出現して、火球の炎を打ち消した。
「かなり万能だな、魔法。イメージすればなんだって出来たりするのか?」
俺は魔法を使ってどの程度のことが出来るのか、試してみることにした。
「たとえば…拳銃を生成することとか出来るかな?」
俺は頭の中に銃をイメージして、魔法を使う。
「クリエイト・ピストル!!」
シーン…
「まぁ、さすがに無理だよな」
何も起こらなかった。
まぁ、これはあらかじめ予想できたことだ。
本物の銃を手にしたことのない俺の乏しい想像力で、銃を生成するってのはさすがに無理があるだろう。
それか、生成魔法には莫大な魔力を消費するために、俺の体内魔力が足りなかったって線も考えられるな。
「これはしばらく、魔法に関して調べる必要がありそうだな…」
俺はその後も、さまざまなことを試して、魔法でできること、出来ないことの境界線を確かめていくのだった。
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