第34話


「あぁ…学校ダリィ…」


魔法が使えるようになった、その翌朝。


俺は重い体を引き摺るようにして、登校路を歩いていた。


全身が鉛のように重い。


睡眠時間が足りていないせいだ。


昨夜、異世界で魔法についてあれこれ試していたら、気づけば何時間も経過していた。


家に帰ってきたら、すでに明け方であり、ほとんど睡眠時間を取ることが出来なかったのだ。歩きながら、俺は誰も見ていないことを確認しつつ、亜空間に手を突っ込んだ。


エナジードリンクを取り出し、ぐびっと一気に飲んで、空となった瓶を亜空間に放り投げる。


「…うぷっ」


ちょっと目が覚めた気がする。


そんな調子で、ノロノロと歩みを進めていると。


「せーんぱいっ!!!」


「うおっ!?」


背後からいきなり突進をかまされた。


振り返ると、悪戯っぽい笑みを浮かべている真山がいる。


「よお、真山…」


「おはようございます先輩…って、なんか元気ない?」


「あまり寝てなくてな」


「夜更かしですか。ひょっとして異世界絡みです?」


「よくわかったな」


俺は、真山に昨日異世界で魔法を使えるようになったことをしゃべった。


「ま、魔法!?」


真山が大声で驚く。


通行人の何人かがこっちを見てきた。


真山は慌てて声を潜める。


「ほ、本当に魔法が使えるようになったんですか…?」


「見たいか?」


「…っ」


コクコクと頷く真山。


俺は真山を人気のない裏路地へ連れ込むと、前方に向かって火球を放った。



「ファイア・ボール」


ポンと小さな火球が、前方に向かって打ち出された。


「わああ!!すごいっ!!」


興奮した声をあげる真山。


「他にも使えるが、グズグズしていると遅刻するからな。今度見せるよ」


「は、はい。必ずですよ、先輩」


「おう」


俺と真山は路地を出て登校路に戻る。


それから十分後、俺たちは高校の校門を潜っていた。


たくさんの生徒とともに、校舎を目指してグラウンド横の道を歩く。


「先輩先輩。今度三連休があるじゃないですか」

「あるな」


目前に迫った三連休。


俺はこの日に、大都市アストリオへ赴こうと考えている。


「あの、出来ればその日、異世界に連れて行ってもらえないかなー、って…」


周囲に聞こえないよう、真山が小さな声で頼んでくる。


「あー…ええと」


俺は返事に困る。


また真山を異世界に連れていくと約束した手前、簡単には断れないが、しかし、この機会を逃すと、アストリオに行く機会を逸してしまう。


いっそのこと、真山と一緒にアストリオまで行くか…?


しかし、まだ異世界に慣れていない真山を連れていくのは危険すぎる気もする。


そんなことを考えていた矢先、俺たちの目の前に一つの影が立ち塞がった。

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