第30話


「おい、ボールそっち行ったぞ!!」


「任せろっ!!必ず決めるっ!!!」


「「行けぇえええええ!!!」」


「させるかっ」


「馬鹿!止められてんじゃねーか!!」


「なにやってるんだ!!」


グラウンドに怒号が飛び交っている。


真山を異世界に案内した、その翌日。


午前中最後、昼前の授業は体育だった。


種目はサッカー。


あっちへこっちへと飛んでいくボールを目掛けて、男どもが凌ぎを削っている。


俺はその様子を、コートの隅っこのあまりパスの来ない場所で傍観していた。



サッカーは確かに人気種目だが、流石にいつもここまで白熱した試合が行われているわけではない。


男共が今日一段とやるきをだしているのは、いち早く授業を切り上げた女子が、見物に来ているからだった。


「きゃあああああ!!」


「頑張れえええええ!!」


「鷲崎くぅううん!!!」



黄色い声援がここまで届いてくる。


それにより、男たちはこの機会にいいところを見せようと張り切る。


「必ず勝つぞおおお!!」

「なんとしてでも点を決めるんだ!!!」


試合は終盤に差し掛かるに連れてどんどん盛り上がっていき、ラフプレイも増えてきた。


残り時間は5分ちょっと。


現在は両チームともに3点と同点であり、時間的に次に点を決めたチームが勝つと思われた。



スポーツの苦手な俺は、相手コート側のなるべくパスの来ない方へ陣取って授業が終わるのを待っていた。



「「「きゃあああああ!!!鷲崎くぅうううううん!!!」」」


一際大きな声援が上がった。


クラスの人気者の鷲崎がドリブルで相手陣地に切り込んでいる。


部活生でないにも関わらずスポーツ万能な鷲崎は、俺と同じチームであり、得点全てに関わっているチームの要だ。


今も、ボールを奪おうと次々に迫ってくる相手チームのメンバーを巧みなボール捌きで交わしている。


やがて鷲崎は、敵チームの最後のディフェンスを抜いて、ゴールの前に立った。


「鷲崎くうううん!!決めちゃってぇええ!!」


「きゃああああ!!」


女子からの声援が大きくなる。


「絶対に止めてやる!!こい鷲崎!!」


ゴールキーパーは両手を広げて意気込んでいるものの、あの距離から鷲崎がシュートを外すことはないだろう。


これは勝負アリだな、と俺が思った矢先のこと。


「西野!パスだ!!」


「!?」


鷲崎がありえない行動に出た。


なんとゴールを目前にして、自分でシュートを打たずに真横にいる俺へとパスを出したのだ。


俺は意味がわからず、ボールを受けながら、鷲崎を見た。


その口元に、一瞬ニヤリといやらしい笑みが浮かんだ。


それで、鷲崎の魂胆が透けた。


「なるほど。大勢の前で恥をかかせようってか」


この状況であえて俺にパスを出し、そしてシュートを外させることで、女子やチームメイトからの非難が殺到する。


鷲崎はそういう展開を狙っているのだ。


きっとプライドの高い鷲崎は、嘘告の件で俺にやり込められたことや、この間のシャトルランで俺に負けたことを根に持っているのだろう。


正面から勝負を挑むと力でねじ伏せられると考え、こういう姑息な手段に出たということだ。


なるほど面白い。


買ってやろうじゃないか、その喧嘩。


「ナイスパスだ、鷲崎!任せろ!」


俺はわざとらしく大きな声でそんなことを言うと、足を振りかぶり、思いっきりシュートを放った。



俺の放ったシュートはゴールのど真ん中へ向かってまっすぐ飛んでいく。


「馬鹿め!正面だ!!」


ゴールキーパーが、体を張ってボールを胸で受け止める。


「はっ、運動音痴が…」


隣で鷲崎が小さくつぶやいているのが聞こえた。


が、しかし。


「うおおおお!?」


キーパーは真正面から受け止めたにも関わらず、ボールの勢いを殺すことが出来ずに、その体ごと背後のネットへと突っ込んでいった。


「は…?」


鷲崎がぽかんと口を開ける。


「「「うおおおおおお!!!」」」


背後で歓声があがった。


俺のチームメイトたちが、どどどどどと走ってこちらへと駆け寄ってきた。


「ナイスだ西野!!」

「よく決めたな!!」

「俺らの勝ちだ!!」


皆に囲まれて口々にそんなことを言いながら、俺はちらりと鷲崎を見る。


「くそっ…なんで…っ」


そこには、下唇を噛みながら悔しげにこちらを睨んでいる鷲崎がいた。

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