第20話


「た、助けてくれえええええ!!モンスターだぁああああ!!」


村中に響くような絶叫が外から聞こえてきた。


俺とソフィアは急いで外に出る。


「なんだ?」


「モンスター?」


「どうかしたのか?」


村の住人たちが、怪訝そうに家から出てきている。


彼らの視線は村の入り口の方に向かっていた。


「俺は様子を見に行ってくる」


「わ、私も行きますっ!」


俺は尋常ならざる気配を感じて村の入り口へと走って向かう。


背後からニーナもついてきた。


「「あれは…!」」


『ガルルルル…』


果たして、村の入り口にたどり着いてみると、見覚えのあるモンスターが人々に向かって唸り声をあげていた。



ブラック・ウルフ

種族:モンスター


レベル23


攻撃:480

体力:390

防御:400

敏捷:650



「うそっ…モンスターが村の中にっ!!」


ニーナが悲鳴のような声をあげる。


黒い毛並みの犬型のモンスター。


ブラック・ウルフがそこにいた。


鑑定でステータスを確認してみると、以前俺が戦ったブラック・ウルフよりかは弱いようだった。


レベルも俺の方が上だ。


みたところブラック・ウルフは1匹のみで、群れではなかった。


これであれば、勝てそうだ。


「ど、どうしましょう…!!モンスターと戦える村の人たちは狩りにでてしまってます…このままじゃ…」


「任せろ」


ニーナがアタフタとする中、俺は亜空間からミスリルの剣を取り出してブラック・ウルフと相対した。


『ガルルル…』


ブラック・ウルフの眼球が細められる。


前に進んできた俺を獲物と見定めたようだ。


地を駆けて正面から突っ込んでくる。



「ふっ」


レベルが上がって動体視力が上がったからだろうか。


以前は圧倒的に素早く感じていたブラック・ウルフの動きも、今では遥かに遅く感じる。


俺は上半身を逸らしてブラック・ウルフの突進を交わしながら、すれ違いざまにミスリルの剣で斬りつける。


『ギャイン!?』


ブラック・ウルフの悲鳴が上がった。


すれ違いざまの一撃が、後ろ足にヒットしたようだ。


『くぅううん、くぅううん』


ブラック・ウルフは、血を流しながら、頭を伏せて地面に蹲っている。


「すごい…」


ニーナのそんな呟きが聞こえてきた。


俺はトドメを刺そうとブラック・ウルフに歩み寄っていく。


一気に仕留めるつもりで、ブラック・ウルフの首筋に刃を振り下ろそうとした…まさにその時。



「待つのだ、君!!」


声が響いた。


俺は寸前で剣を止める。


声のした方をみると、そこには杖をついた白い髭の老人が立っていた。


「長老…!」


「長老様…!」



村人たちが老人を見て、その場に膝をついた。


この村のお偉いさんだろうか。


「殺してはならぬ」


俺の下まで歩いてきた老人は、ブラック・ウルフと俺を交互に見ながら言った。



「なぜです?」


「見るのじゃ。このモンスターは貴様に屈服しておる」


「屈服?」


意味がわからず聞き返すと、老人が話し始めた。



「モンスターは、自分よりも強い者に殺されそうになった時、このように平伏して忠誠を誓うことがあるのじゃ。滅多にないことだが…しかし、忠誠を誓ったモンスターはテイムして、使い魔とすることができる。殺すのは勿体無い」


「テイム?」


老人の言葉に俺が首を傾げいていると。


パンパカパーン!!


頭の中で例のファンファーレが鳴り響いた。


<使役>スキルを獲得しました!!


ブラック・ウルフ一匹を、<使役>しますか?


YES or NO


「おぉ…」


ウィンドウに選択肢が現れた。


これは…YESを押せば、このブラック・ウルフを使役できると、そう言うことなのだろうか。


『くぅううん、くぅううん…』


ブラック・ウルフはもう完全に敵意を喪失して、物欲しそうな顔で俺を見つめてくる。


不思議だ。


先ほど牙を剥いていた時は恐ろしいモンスターだったのに、こうして見つめられると、なんか途端に可愛く見えてくる。


「使役したモンスターが裏切ることはないのか?」


俺は老人に尋ねる。


「ない。使役したモンスターは決して主人に牙を剥かない。むしろ命の危機になれば、全力で味方してくれるだろう。また、どんな命令にも従うようになる。死ねと言う命令にすらも、簡単に従うだろう」


「なるほど」


老人の話を聞いて、俺はブラック・ウルフを使役することにした。


メリットの方が多いと判断したのだ。


「イエスっと」


俺はYESの選択肢を選ぶ。


すると、ブラック・ウルフがすくっと立ち上がり、俺の足に向かって頭を擦り付けてきた。


「おぉ…可愛いな」


俺が頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めている。


「おぉおおお!!」


「すごい…ブラック・ウルフをテイムしてしまうなんて…」


「何者なんだ、彼は…」


一部始終を見守っていた村人のそんな呟きが聞こえてきた。


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