第二章-2

 大学生といえば遊びまわっているイメージがあるが、実質、大学生というものを経験した人なら知っているだろう。

 そんな奴は馬鹿だ。

 とね。

 いや、まぁ、それは言い過ぎなんだけどね。でも、実際には授業があるし、単位という問題やレポートの提出なんかもある。だから、そんなに遊ぶ暇がある訳ではない。という訳で、そんな奴は馬鹿だ、と思う。


「相変わらずの根源殺しっぷりやなぁ。というか、そりゃお前が授業を入れまくるからや」


 いつも通りのお昼休み。すっかりと有名人になってしまった僕は食堂なんかに行けるはずもなく、こうして梧桐座と人気のないベンチでパンをかじるのが日課となってしまった。人目につかないのは良いのだが、寒いのが辛い。時折冷たくなってしまった指先を暖めなければ食事も続けられやしない。


「いや、最初に単位とりまくれば後が楽だと思って」


 僕の予定は月曜から金曜までビッシリと授業で埋まっている。まぁ、所々は穴が空いていて、そこでサークル活動や休憩をしていた。


「程度があるっちゅうねん。そのゼロかイチみたいな極端なんは最初っからか」

「最初ってどこだよ?」

「オカンのお腹の中かオトンの袋の中や」


 うわぁ、食事中にそういうネタは止めてほしい。


「なんやその顔。ええやん、関西人でもタマには下ネタ言うてもええやん!」

「いや、別に僕は関西人にそこまで求めてないけど……」

「ちなみに今のはタマをかけてみたんやけどな。ほれ山田、座布団一枚もってこーい」


 もちろん、僕達の友人に山田なんていう座布団運びの人は居ない。むなしくも中庭に梧桐座の声が響くだけだった。


「あぁ、それで、昨日もメイムに会ったよ」

「スルーかよ!」


 はい、スルーします。


「メイムは自分の事を貧乏って言ってたけど、住んでる場所はすげぇマンションだった」

「すげぇって?」

「どう見ても金持ちが住んでるマンションだ。オートロック的な?」


 まぁ、あのシステムが良く分かってないので、オートロックと名付けているが。実際、あれは何なんだろうな。暗証番号で開くのだろうか? 近づいた事もないので分からない。


「あれか、もしかしてマンションの入り口が自動ドア的なやつか」


 梧桐座も良く知らないらしい。とりあえず、それそれ、と返事しておいた。


「よう分からんなぁ、それ。親が金持ちで子供が貧乏? 逆はあっても、それは無いやろ」


 逆はいいのかよ……


「育児放棄でお金を貰ってないとか?」

「あぁ~、それか。その可能性がデカいなぁ。なんや胸糞悪い話やな……」


 いや、そもそも育児放棄事態が胸糞悪い話だ。親だけがお金使ってようが、それは関係ない。


「しかし、ほんまに育児放棄か?」

「違うのか?」

「仮やけど、そんだけ良いマンションやったら、それこそ仕事が忙しいとか? 忙しいて家に帰られへんから、そういう風に成っとるとか」

「それも育児放棄……になるんじゃない?」

「あぁ~、なるほど。どっちにしろアウトやな。メイムちゃんが可哀想なのには違いが無い」

「結果は同じ、という事か」

「そやけど、事情が違うと児童保護団体みたいなんが手を出せへんとか?」


 そうか……そうなると、結果は同じでも過程のせいで状況が変わってしまうのか。そういう理由で手が出せないんだとしたら、厄介だな。


「まぁ、あくまで予想の話や。ただの最低な親かもしれへんからな」

「そうか。そうだよな」

「マンションまで行ったんやったら、中にまで入ってったらええやん。どうせ親とかおらへんねやろうし。ちょっと調べて来い。探偵や探偵」

「おう」

「えっ!?」


 梧桐座が驚いた声をあげた。こっちがビックリなんだけど。


「どうした、何かあったのか?」

「いやいや。お前がそこまで本気やと思わんかったんでな。まぁええわ。通報されんように気ぃつけて行けよ~」

「僕はロリコンじゃない」

「知っとる知っとる。彼女が画面の中から出て来うへんねやろ?」

「お前の彼女も平面なんだろうが」


 まったく。僕はロリコンでも二次元コンプレックスでもない。ましてや脳内彼女もいない。彼女いない歴=年齢だけど、現実を諦めてはいない。まだ。


「はぁ~……まぁ、いい。ところで、この辺で髪留めとか結うゴム? みたいなのってどこに売ってるんだ?」

「あぁ、髪をどうにかする訳か。それやったら雑貨屋やろう。駅前にあるで」


 ふむ。授業後の予定は決まったな。

 昼食であるパンを食べ終え、僕は午後からの授業に向かう。どうやら、梧桐座は午後からフリーの様だ。暇を持て余しているらしい。サークル活動が出来なくなったから、まぁ、仕方ないよなぁ~。僕のせいじゃないけど、僕のせいか。良く分からない。まったく。


「はぁ~」


 ジロジロと感じられる視線が痛い。まぁ、噂なんてのは七十五日だっけ? そのうち消えるだろう。じゃないと、死にたくなってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る