疾風迅雷詔先生

いかんいかん。この人は初対面の生徒の前に、メイド服姿で現れるような人なんだぞ。

落ち着け自分。


「そうだったんですか、わかりました。えっと、先生って今携帯持ってますか?」

急に菖蒲さんがそう聞くと、先生はきょとんとした顔で彼女の方を見る。

「よければ貸してもらえますか?かけたいところがあるんで」

彼女そう言ったら先生は疑ったりもせず、笑顔でいいよと言って、携帯を出してくれた。

ちなみに、先生の携帯は朝CMでやっていた新しい品番のやつだった。

「えっと、菖蒲ちゃん?どこにかけるの?」

そう聞いてきた先生に彼女は打ち込んだ番号を見せた。

「1、1、0って…、警察じゃないの!何でそんなとこにかけるの?」

 そう慌てて尋ねる先生に彼女は親切に解説を始めた。

「えっとですね、生徒に『メイド服は自分の趣味だ!』っていうような大人は警察のお世話になるべきです」

「そのくらいにしときなよ、菖蒲」

そう言ったのは百合さんだった。

「先生はうちの顧問になってくれるかもしれないんだから、やさしくしなよ」

そう言ったら百合さんの目は穏やかだった。

まるで日本の仏陀。

「そんな〜。百合さん、それって、顧問になったら優しくしなくてもいいって言ってるのとおんなじじゃないですか!

先生泣いちゃいますよ。生徒にいじめられたって言って。」

「すみません、先生。いつもこんななんですよ。この二人。

 あとで、厳しく言っておきますから。」

 そう言ってこの会話に終止符を打ったのは百合さんだった。

「ありがとぉ〜。そう言ってくれるのはあなただけだよ百合ちゃん。

 とりあえずじゃっ!ひとまず今日は帰ります。下校時刻に遅れないようにね。

 じゃあ、また明日〜」

そう言い残して先生は教室を出ていった。

そのとき、この場にいた全員が思ったことは同じだろう、

「一体何だったんだ」

 そして、そのまま、各自荷物をまとめて下校した。

 

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