Chapter13

【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ラグランジュポイント付近 】


 強襲揚陸艦アサヒはモス級のエネルギーシールドを一時無効化することに成功すると一度戦線を離れ、損傷を負った奇襲部隊の回収と難民船団の援護に回っていた。


「周辺の艦載機の収容完了!イエロー小隊、パープル小隊は作戦通りセクター12、ポイント18453に向かっています!」


 マジメンから奇襲部隊の収容が完了した旨報告が上がるとブラッティは頷き、スターフォースワンに連絡を入れる。


「艦長、そちらの状況は?」


 通信が開くとホログラムスクリーンに映ったのはムラサメの顔であり、敬礼しながら神妙な面持ちでこちらを見据え、ブラッティはムラサメに敬礼を返しつつ「作戦は順調に推移している。」とだけ返すが、ムラサメの表情は冴えずただ押し黙った。


「ムラサメ少佐、報告は追ってマジメン大尉から送る。今は任務に集中しろ。」


「……そうですね……わかりました。」


 ブラッティがそう宥めるとムラサメは何かを噛み締めながら頷く。


 その表情を見てムラサメは自分が出した作戦で少なからず被害が出ていることに対して負い目を感じているのであろうとブラッティは推測する。


「もっと上手く出来たのでは無いか」「自分が命令を下さなければみんな死ななかったのでは無いか」そう思ってしまうのも無理はない。


 歴戦の古強者であるブラッティ自身ムラサメの気持ちがわからないわけではないし、この場にいる誰よりもムラサメの心情を知っていた。


 だが、上に立つものは決断する為に存在しており、決断しないので有ればそもそも上に立つ意味がないのも事実だ。


 だからこそ上に立つものは判断基準を単純にしなければならない。


 人それぞれ基準はあるがブラッティが一番重視しているのは“この犠牲は次に繋げる為の犠牲であるか?”という一点であり、今回ムラサメが提案した作戦はそれに値するとブラッティ自身が判断したから行った作戦であるのだが、今のムラサメに何を言っても安い慰めにしかならないと思いブラッティはそれ以上何も語らなかった。


「……ブラッティ艦長、お見事でした。流石は不死鳥ブラッティです。」


 お互い何も語らないまま、沈黙が支配する通信画面をムラサメの横で見ていたのであろうグレースは状況を見かねてホログラムスクリーンに割って入り、ブラッティに礼をしながら語りかける。


「光栄ですグレース大統領。ですが、作戦はまだ終わっておりません。」


「えぇ、その通りですわ。スターフォースワンは難民船団と合流しました。先程から難民船団はそちらのマジメン大尉が出したドライブポイントに準備ができた艦からドライブに入っております。全ての艦が脱出するまで残り10分……我々にとってここが正念場になりますね。」


「えぇ、まさしく正念場になるでしょう……アサヒは手筈通り、難民船団がある程度離脱するまでこの場を死守し、離脱が確認され次第モス級に対して攻撃を仕掛けます。その後この宙域を離脱、難民船団のいる場所まで合流する予定です。」


「……ブラッティ艦長、お気を付けて……あなたはまだ死ぬべきではありません。必ず生きてください。」


「……イェスターニエ仰せのままに。では、グレース大統領ムラサメ少佐後ほど。」


 敬礼をし、通信を切るとブラッティは艦長席から一望できるブリッジクルーを見渡す。

 この場にいる誰もが作戦成功を信じ、一人一人に与えられた仕事をこなす姿を見てブラッティは良い部下を持ったと改めて実感しつつマイクを手に取った。


「総員に告ぐ、これより作戦の最終フェーズに取り掛かる……この作戦、並びに今までの戦闘で散って行ったともがら達の献身に酬いるために……。そしてこの一撃が人類反抗の一手となる!!害虫どもに女神の鉄槌を!!」


「「「イェスターニエ仰せのままに!!」」」」


 クルー達は怒号に似た歓声を上げ、船内に活気が宿る。

 歓声鳴り止まぬ艦内を見渡しながらブラッティはマジメンに目配せするとマジメンは頷き、操舵手に発進する様に伝えると600メートルの巨艦は動き出した。




 ◇  ◇  ◇ 




 遠くの方に映っていたモス級の姿は数分も立たずモニターを覆い尽くし、辺りにいたダスト共もアサヒに対して攻撃を加えるが、正面から突撃してきたダストは前面に展開したシールドに打ち当たり叩き潰され、側面や後方に攻撃を仕掛けてきたダストに関しては近接防御用の機銃や短距離ミサイルが撃ち抜き爆散する。


「エネルギーシールドの損耗率34パーセント!」


「側面及び後部機銃の残弾50パーセントを切ります!このままですとダストに取り付かれる可能性が……!!副砲での迎撃を開始してみてはいかがですか?」


「今は最大戦速で、主砲のチャージにもリアクター出力を回している!副砲に回してる余力はないんだよ!実弾兵装でなんとかしろ!」


「先任曹長、艦内に潜入されることを見越してダメコン班と陸戦隊を待機させますか?」


 判断を委ねられた先任曹長は静かに頷き、質問を投げかけたクルーは敬礼をして担当部署に通信を入れる為その場を後にした。


 強襲揚陸艦アサヒは単艦での制圧力に長けた船である為、戦艦並みの主砲を持ち、機甲戦力及び航宙戦力運用能力まで付与された所謂“万能艦”として設計されている。


 ありとあらゆる作戦行動全ての実行を想定されている為、作戦行動中のCDCコンバット・ディレクション・センターは様々な情報が錯綜しており、それを処理する為に配属人数は艦内部署で2番目に多い訳であるが、そこを任されている先任曹長は、周囲の状況が映し出されているホログラムモニターを鋭い視線でみつめていた。


「艦長から主砲発射命令来ました!発射タイミングは先任曹長に任すとの事です!!」


「ブラッティめ、責任ある仕事ばかり任せおって。」


「それだけ先任曹長を信頼しているという事ですよ!」


 CDCのクルーにそう言われ、悪い気はしない先任曹長であったが、ここ数時間戦闘で年甲斐も無くはしゃいでしまった為ガタが来ている体を労りつつ声を上げる。


「火器管制班!!照準合わせ!!」


「照準よし!!」


「主砲エネルギー臨界!120%!いつでもどうぞ!!」


「打ち方始め!!」


 先任曹長の号令を聞いたCDCクルーは命令を復唱し砲撃を開始する。


 主砲の一斉射は目下に広がるモス級胴体部分を貫き爆散すると同時、アサヒはモス級の真横を通り過ぎると一気に加速して爆炎を掻い潜った。


「敵損害多数!!モス級沈黙!!」


 クルーから発せられた言葉に艦内は歓声や拍手が上がるが先任曹長は「まだ作戦行動は終わってないぞ!」と一喝し、イエロー、パープル小隊の待つポイントへと舵を切る。



 ◇  ◇  ◇ 



「アサヒの主砲がモス級に直撃!周りのダストが撤退していくぞ!!」


「やったぜ!!俺たちの勝利だ!!」


「ザマァみろ虫けら共め!!これが人間様の底力だ!!」


 イエロー小隊とパープル小隊の面々はダスト達が撤退していく様を見つつ歓声を上げる。


「こちらイエローリーダー、目標地点に急ぐぞ!みんな解っていると思うがアサヒは俺たちを待ってくれない!機体を加速させてアサヒの速度に合わせつつの着艦だ。少しでもミスってアサヒに擦りでもしたら機体ごとバラバラになって宇宙そらの藻屑だぞ!」


 イーサンの通信を聞き機を引き締め直した面々は返答して機体を加速させていき、アサヒとの合流ポイントまであと数分の所まで近づいていた。


「アサヒ接近!8時の方向!」


「よし、時間通りだ。アサヒとの相対速度を合わせるぞ!」


 イーサンの駆るYZF R-1は大型機なだけあり、リアクターの出力に余裕があるが、他の面々は中型機のYZF R-25である為リアクターを限界まで回してやっとのことで加速していく。


 レブリミットまで回したリアクターは聞いたこともないような甲高い音を響かせ、Gで機体がバラバラになるのではないかという一抹の不安がよぎるが真横まで近付いたアサヒを見てアルベルトは腹を括り、着艦ビーコンへと接近した。


「こちらアサヒCDC、イエロー小隊は右舷デッキ、パープル小隊は左舷デッキにて着艦せよ!この航路を維持できるのは3分間、それまでに着艦できなかった場合この場に置き去りになる……全員心してかかれよ!」


「こちらパープルリーダー、了解した!……パープル3アイリスから着艦してくれ!」


「パープル3了解、お先に失礼するわ。」


 スムーズに機体をデッキに近づけて危なげなく着艦したパープル3アイリスに続いてパープル2カイルが着艦する。


「イエロー小隊収容完了!残りはパープル1、お前だけだ。しっかり決めてくれ!」


「生憎ブービー賞には慣れててね、期待されてもオチに使われるのは勘弁だ。」


「“堕ち”ると“オチ”をかけてるのか?こんな状況で冗談言えるなら大丈夫だな。………!!なんだ!?!!」


 アルベルトが着艦シークエンスに入ると同時、視界に赤黒い閃光が走った。


 閃光は高速航行中のアサヒに直撃し、後方にある推進機関が爆発する。


 アルベルトは突然の出来事に目を見開くが、被弾したアサヒの針路が変わり、アルベルトの機体に近づき始め、機体とぶつかると察した瞬間、深層心理に隠れていた感覚が蘇る。


 咄嗟に操縦桿を操作してアサヒとの衝突を掻い潜るとゾーンに入った感覚が周りの景色が一瞬止まったように感じ、視界には粒子の道が見え始める。


“このままでは死ぬ”そう脳裏に過った時、アルベルトは信じられない速度で操縦桿を操作して愛機はBS LINKを超えた速度でアサヒとの衝突を回避した。


「レーダーを確認……。あのダストは……新型?」


 レーダーに映るダストの方を見るとそこに居たのは今までのダストとは違い、遠目に見ると“人型”をしている。


 モニターに映る人型は手に持った遠距離攻撃用の武器をアサヒに向けており、アルベルトは咄嗟に機体を翻すと人型のダストへと針路を向けた。


「うぉぉらぁぁぁ!!!!」


 アルベルトはアサヒをこれ以上やらせる訳にはいかないという一心で、腰部のバトルナイフを取り出し投げつけると、人型ダストの構えていた遠隔攻撃用の武器に突き刺さり、攻撃を受けた遠距離攻撃用の武器を咄嗟に手放すと同時に誘爆する。


 人型ダストは攻撃があった方向を見定めると近寄ってきたアルベルトに向かって威嚇するかの如く口を開けた。


「その視線……!見てるだけでムカつくんだよ!!虫けら風情がぁぁぁ!!!」


 アルベルトは勢いそのままに、人型ダストに体当たりをかますと、無重力空間をグルグルと錐揉きりもみ状態になってしまう。


 BTと比べても全長は人型ダストの方が大きく、アルベルトごとBTを丸呑みする為、大口を開ける人型ダストだったが、アルベルトもこのままやられる訳にいかないと体にかかるGに耐えながら投げつけた方とは逆の腰部に手を伸ばし、もう一つのバトルナイフを取り出すと人型の左目に向けて一突きを繰り出した。


 一直線で左目に突き刺さったバトルナイフに悶え苦しむ人型ダストは、思いきっきりアルベルトの機体を前蹴りで押し出すと、コックピット内に衝撃が走りアルベルトは気を失ってしまった。

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