Chapter12
【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ラグランジュポイント付近 】
「パープル3エンゲージ!!」
「パープル2!GUNS!GUNS!!」
「敵の数が多い!密集して一点突破するぞ!続け!!」
母艦機能を持つモス級の周りには今までと比べ物にならないほどのダストが群れを成しており、味方の攻撃なのかダストの攻撃なのか区別がつかない程戦場は混沌としていた。
「こちらアサヒCDC!、アサヒ艦載機部隊に告ぐ!これよりアサヒ主砲によりダスト前衛に穴を開ける。艦載機部隊は主砲発射後、モス級のエネルギーシールド発生装置と思われる羽の付け根部分に攻撃を集中してください!」
「イエローリーダー了解、全機聞いたな?主砲発射後フルスロットルで突っ切るぞ!」
イーサンの通信に各自返答を返し、主砲の発射タイミングに合わせて機体を加速させる。
側から見れば、BTや戦闘機が吐き出すバーニア、アサヒとダストが打ち出す粒子兵器の光が混じり合い、ダンスホールの演出のように見えているが、戦場にいる兵士たちからしてみれば、あの閃光に当たってしまったらただでは済まない事がわかっている為、必死になって機体を操り、通信から漏れ聞こえてくるのは悲鳴にも似た吐息。
「こちらブルー2!被弾した!!」
「待っていろ!今助け––––!!」
奇襲部隊に選ばれたブルー2の被弾報告がヘッドセットから漏れてくるが、アルベルト達を含め、その場にいる全員が自分の身を守る事で精一杯であり、たまたま近くにいたのであろう味方機が助けに行くが、数秒経たずにレーダーに映っていたブルー2ともう一機の反応が消えてしまう。
レーダー越しにではあるが、一部始終を横目で見ていたアルベルトは“次は自分かもしれない”と脳裏を過ぎるが心情とは裏腹、極限状態に追い込まれた精神は集中力を増していきアルベルトを“ゾーン”へと
言語化し難いこの感覚はスターフォースワンを護衛した時と同種のモノであり、その感覚が蘇ると共にアルベルトの視界に見え始めたのはB粒子が見せる“道”。
機体を粒子の道に乗せると宇宙空間に敷かれているレールの上を滑走していくかの如く、アルベルトの機体は他の味方を追い抜いて行き、ダストの前衛を抜けてモス級の元まで辿り着いた。
接近するアルベルト機に気がついたモス級が、近接対空防御用の粒子砲で迎撃してくるがアルベルトは機体を翻し全て避けると羽部分に近づきガンポットとバックパックにあるミサイルランチャーを展開させた。
アサヒの船体より大きいモス級の羽部分をよく観察すると、先ほどの粒子の道と同じような反応が羽部分にも見え、アルベルトはその反応が強い三箇所がエネルギーシールド発生装置だと感覚的に理解できる。
「くそっ……手元の火力じゃエネルギーシールド発生装置を破壊できない。」
「パープルリーダー応答しろ!!……おい!!アル!いい加減正気を取り戻せ!!」
不意にヘッドセットから聞こえてきたカイルの声にゾーンに入っていた意識がアルベルトに戻って来るが、以前までと違い、目の前の粒子の道は見えたままであり、集中力も保っているという不思議な感覚に違和感を覚えつつ、アルベルトはカイルに向かって静かにいう。
「……カイル、アイリス、今から送る
「??……お前……なんか変だぞ?」
いつもの雰囲気とは違うアルベルトに対して訝しむカイルであったが、そこに割り込んで来たアイリスは短く返事をしてアルベルトの機体に続く。
「こちらパープル3、イエローリーダーに
いつも通りの毒舌を吐くアイリスに対してカイルは不満げな目線を向けるがアイリスは言葉を続ける。
「パープル2、こうなった隊長は止められないですよ。それに、“こうなった”隊長に着いていって失敗した事ありますか?」
「……あぁ!クソッ!!……わかったよ!“ナイト”がキングとクィーンに逆らう訳にはいかないからな!!」
「……パープル2、自分でナイトとか言っちゃって……虚しくなりません?」
アイリスの毒舌も腹を括ったカイルの耳には届かず機体を翻し、パープル小隊は目標に近づくと機体に積んでいる火力を全てロックした場所へと叩き込んだ。
「パープル3より各機!中央エネルギーシールド発生装置がまだ健在!火力を回して!」
「……こちらパープル2残弾なし!パープルリーダーは?!」
「こちらも残弾なし……だが、まだ終わりじゃない……!」
そう言うとアルベルトはバトルナイフを引き抜き機体を前進させようとするがモス級の集中攻撃を受け、思うように進めずアルベルトは歯噛みする。
その瞬間、突如レーダーに味方機の反応が映り、誰の機体かを確認する間もなく、一機のBTがパープル小隊の真横を猛スピードで追い抜いて行く。
「アルベルトの言う通りだ、“まだ終わりじゃない”!!」
すれ違い様に言葉がヘッドセットに響き、紫電の如く通り過ぎた機体がイーサンの駆るYZF R-1だとパープル小隊の面々は気が付くが、目前に広がるモス級に激突するのではないかという勢いで突撃するイーサンを固唾を飲んで見守った。
イーサンはモス級の攻撃を大胆なスロットル操作でブレイクダンスを踊るかの如くステップを刻むと、背部のハードポイントに格納している粒子ブレードを引き抜き、最後のエネルギーシールド発生装置に向け一閃。
次の瞬間、粒子ブレードの通った跡から粒子が漏れ出し、誘爆し始めると同時にイーサンは機体を翻しその場を後にする。
「……スッゲェ。なんだあの機動……。」
「あれが“大型乗り”の機動ですか……。」
驚きの表情を浮かべるカイルとアイリスをモニター越しに見つつ、アルベルトもイーサンの人間離れした戦闘機動に感嘆のため息を漏らした。
そもそもBTには大きく分けて小型、中型、大型という種類があり、それぞれ運用方法が異なるのだ。
小型BTは主に基地内や艦船の内部で人の手で運べない様な荷物を移動させる重機として民間企業にも導入されているが、中型以上のBTは基本的に軍の主力兵器として使用されている為、民間人がお目にかかる機会は限られており、中型乗りや大型乗りはBTライダーを目指す者達からすれば憧れの的だったりする。
中型機と大型機の違いは、ざっくり言うとリアクターの出力の違いであるが、大型機は基礎スペックが高く、扱える武器が多くあり、エースライダーが駆るBTはまさしく一騎当千の活躍を見せるが運用コストが中型機に比べ倍以上かかってしまう。
一方、運用面においてコストパフォーマンスに優れている中型機は使い勝手が良くルーキーでも扱いやすいという一面がある為出力の大きい大型機が1番いいとは一概に言えない。
一時期、スペック面で中型を圧倒する大型を目の当たりにした軍上層部では“中型機不要論”が囁かれていたが、現実問題として予算の関係上、数を揃えられない大型機を補う為には中型機の存在は必要不可欠であると結論が出た為、銀河連邦軍では現在“ハイローミックス”運用が主流になった。
アルベルト達が乗っている“YZF R–25”は十年前に採用された新鋭中型BTであり、1世代前のBTとは比べ物にならないスペックであるが、新鋭大型機である“YZF R-1”の動きを目の当たりにすると、ここまで違うものかと感心するほか無い。
「こちらアサヒCDC、戦闘宙域にいる全軍に通達。現在、機関部が故障していた貨客船オリンピックの修理が完了。10分後、難民船団が惑星フラウを目指して集団短距離ドライブを行う。イエロー小隊、パープル小隊はセクター12、ポイント18453に急行、高速航行中のアサヒに着艦、現宙域を離脱する。」
エネルギーシールド発生装置を破壊したとはいえ、本体に損傷がないモス級や数が少なくなってきたとはいえ、馬鹿の一つ覚えで突っ込んでくるビートル型の攻撃を
「パープル2よりアサヒCDC、高速航行中のアサヒに着艦すると言ったか?」
「そうだ、難民船団を安全に離脱させる為にはモス級を倒す必要があり、現在ムラサメ少佐と艦長が考案した作戦が進行中だ。」
「またムラサメ少佐の作戦か……嫌な予感しかしないな。」
「現在アサヒの近くにいる艦載機部隊は収容中だが、イエロー・パープル小隊はモス級に近すぎる為、収容を待つ暇がない。よって君達をこの場に置き去りにするか高速航行中のアサヒに着艦してもらうしか方法がない。」
高速航行中のアサヒに着艦するという命令を例えるのであれば、ハイウェイを100キロで進む車にパラグライダーで乗り移るようなものであり、はっきり言って無茶苦茶な命令なのだが、それができないと言うのであればこの宇宙空間に取り残されるだけである為、イエロー小隊とパープル小隊はため息を吐きながら指定された宙域に機体を進ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます