Chapter11
【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ラグランジュポイント付近 】
「敵ダスト正面!主砲射程圏内です!!」
「モス級をアルファ、巡洋艦級二隻をブラボーとチャーリーに設定!」
「新型ボストーク砲エネルギー臨界点突破!先任曹長!いつでもどうぞ!!」
「よし!主砲1番から2番撃ち方初め!!」
アサヒがドライブアウトした瞬間、格納していた主砲を展開すると間髪入れず、先ほど現れたダストの艦隊に向けて一斉射を放つ。
二発の粒子ビームは一直線にダストに向かい、一発はモス級から発進していたビートル型集団を直撃し数百匹のダストを粉々に粉砕するが、残りの一発は巡洋艦級の脇に逸れてしまう。
「主砲目標に命中せず!」
「クソ!外したっ!」
ブリッジクルー達は奇襲時に1番アドバンテージが取れる一発目の主砲を外したことに落胆するが、それをブラッティは大声で制した。
「落ち着け!たかが一発目を外しただけだ!それに我々の目的は陽動であり“
ブリッジクルーはブラッティの言葉を聞き平静を取り戻すとそれぞれに与えられた仕事を着々とこなしていく。
「敵ダスト艦隊に動きあり!ブラボーとチャーリーが針路をアサヒに向けます!」
「狙い通りだ。さぁムシケラ共とチキンレースと洒落込むぞ!最大戦速!!」
ブラッティの号令を皮切りにブリッジクルー達は統制の取れた動きで次の攻撃に備え始めた。
◇ ◇ ◇
その頃アルベルト達はというとダストと人類双方の攻撃を掻い潜り、なんとかアサヒに帰還して補給を受けていた。
「パープル2とイエロー4の機体は損傷が激しい!予備機を回せ!」
「作戦は第二フェーズに移行!弾薬と推進剤の充填を急がせろ!」
アルベルトは着艦すると指定されたハンガーに向かい、機体を待機姿勢にしてコックピットを出る。
通常であればハンガー内も人工重力で1Gに設定されているが、エネルギーリソースを他に割く為、戦闘行動中は艦内の殆どが無重力になっており、アルベルトは周りの手すりなどにつかまりながら浮遊して待機姿勢をとっている機体の真後ろにある足場に立つと、この後長丁場になる可能性を考えてポケットから携帯食料を取り出した。
忙しなく動く整備兵達を横目に、大して美味しくない携帯食料を頬張っていると後ろの方からいつもの騒がしい声が聞こえ、振り返るとアルベルトの目の前まで飲料ボトルが迫ってきており、驚きながら目の前まで飛んできたボトルをなんとかキャッチする。
「アルは無事のようだな。」
「ジェンか、なんとか無事に帰還できたが、この状況ではゆっくりもしてられない。またすぐ出撃する羽目になりそうだ。」
「だろうね。整備の方も大変さ、こんなことになるなんて出港前は思ってもいなかったから部品のストックが心許ない、幸い稼働している部隊が少ないからなんとかなってるけどこの戦闘が終わった後が心配だよ。」
整備主任であるジェン・ブローニングは人工血液やらなにやらで汚れたつなぎの上半身を脱ぎながらタンクトップになると肩を回してため息を吐く。
「整備主任がこんなところでサボっていても大丈夫なのか?」
「たった今イエロー小隊の連中を送り出して来たところだ、一服くらいしてもバチは当たらないよ。」
そんなたわいの無い会話をしていると先ほどの戦闘で被弾してメディカルチェックを受けていたカイルがこちらに気が付き、無重力空間にブロンドの髪の毛をたなびかせながら「ジェン、俺の予備機の準備は?」と言うとその言葉を聞いたジェンはさらに大きなため息を吐きながら肩を落とす。
「今準備中だよ、仕事をふやしやがって。予備機まで駄目にしたらタダじゃおかないからね!!」
「相変わらずジェンの仕事が早い所とBT馬鹿な所は好感が持てるね、それにもう少し女性らしさを身につけてくれたら最高なのに。」
カイルの余計な一言を聞いたジェンはポケットからスパナを持ち出しカイルに向けて投げつけ、額にぶつけると、スパナは無重力空間をヨーヨーの様にしてジェンの手元に戻って来ていた。
無重力空間でスパナを投げること自体そもそもあってはならない事だが、その達人的な技術を見たアルベルトは目を見開きながらジェンに向けて拍手を送る。
死んでしまったのか気を失っているのか定かでは無いが、無重力空間を漂うカイルを尻目にジェンだけは本気で怒らせないようにしようと心に決めたアルベルトだった。
「隊長、こんな所でなにしてるんですか?……後、あの金色ゴキブリを駆除してくださった方は誰ですか?できればアサヒに乗っている女性クルーを代表してお礼を言いたいのですが。」
アルベルトは突然ひょっこりと現れたアイリスに驚きつつ、ジェンを紹介する。
「あなたが噂のブリザードクィーンね、私はジェン・ブローニングよろしく!」
「アイリス・ハート・ローズマリー准尉です、はじめましてジェン軍曹。」
二人は敬礼を済ますとジェンは「堅苦しいのは無しにしましょう」と言い右手を差し出すとアイリスも戸惑いながらその手を握った。
「アイリスちゃんの機体をさっき見たけど、やっぱり女性ライダーは飛ばすのが丁寧でいいねぇ。中でもアイリスちゃんは操縦が上手い方だね、これからもちゃんと機体を大切に扱ってくれよ!」
「当然です、私の機体なんですから。傷でもつけられたら、ソイツを見つけ出してケツに鉛玉ぶち込んであげますよ。」
物騒な言葉を吐くアイリスに引く事なく笑って「そうしてやってくれ!」と言うジェン。
なぜか意気投合する女性達に挟まれアルベルトは苦笑いを浮かべているしかなかったが、不意にハンガー内をアラートが鳴り、パープル小隊の機体整備が終わったと報告が流れる。
「休憩時間は終わりのようだね……。」
「そのようだな……。」
「あそこに浮いてる金色
「助かる!ドリンクありがとな、行ってくる。」
ボトルをジェンに投げ返しそれをキャッチしたジェンは「あぁ、行って来い。」と短く言う。
アイリスもジェンに軽く挨拶をして、それぞれのコックピットへと向かった。
◇ ◇ ◇
ブリッジに居るブラッティはブリッジクルーの戦況報告を聞きつつ、中央スクリーンを睨みつけているとマジメンから「スターレッドから入電、中央スクリーンに出します。」と報告が上がる。
映ったドミニクはスクリーン越しにブラッティを睨みつけ「これはどう言うことか説明していただきたい」と詰め寄るが、ブラッティは艦長帽子を直しながら笑う。
「ドミニク中佐状況が変わった、我々の事は構わず、引き続き君の艦隊は難民船団の護衛を続けてくれ。」
「……失礼ですが、状況がどう変わったのか説明を願います。」
「……。」
「先程も申し上げましたが、彼我の戦力差で現状を打開出来る可能性は限りなく低い!!従って、難民船団を護衛するのは我々ではなく、アサヒに引き継いだ方が難民船団の損耗が低くなると考え、作戦を立てました!」
ドミニクの言葉を聞いたブラッティはこれ以上話す事はないと言わんばかりに沈黙を貫く。
刻一刻と動く戦況と不釣り合いな沈黙に割って入ったのは先任曹長であった。
「中佐、申し訳ない。うちの艦長は説明するのが下手なのだ……この偏屈ジジィの代わりに私が説明したいと思いますがよろしいかな?」
偏屈ジジィと呼ばれ、眉間に皺を寄せながら先任曹長の方を向くブラッティだったが「言わない美学なんて古臭いもんで片付く時代は終わったんですよ艦長。」と先任曹長に諭され、ブラッティは不貞腐れたように目線を艦長帽の鍔に隠した。
その光景にブリッジクルー達は「またか」とため息混じりで苦笑いを浮かべるが、祖国の英雄であるブラッティが言い負かされる光景を初めて見たドミニク中佐は、スクリーン越しに面食らったのか、事の経緯を黙って見ている。
「ゴホン……あー、中佐の考えた作戦は被害を最小限に抑える上で最も優れた策だと考えます。」
「その通りだ…上級先任曹長。」
階級章を確認したドミニクはただの“先任曹長”ではなく“上級先任曹長”である事を確認して少し驚くが、すぐに表情を戻し先任曹長の言葉を待った。
「……最小限の損害を民間人ではなく、我々軍人、まして自身で受け持とうという自己犠牲の考えは立派でありますが……それでは、“
先任曹長はニヤリと笑い褐色肌の奥で眼光を光らせながら言葉を続けた。
「貴方もダマスカス出身なら、このブラッティ・フォン・ビルドが“不死鳥”と呼ばれている理由を知っているでしょう?」
先任曹長に質問されたドミニクは訝しみつつ頷き、先任曹長は話を続ける。
「どんな戦場でも生きて帰ってくるから“不死鳥”だと一般的に思われているでしょうが……長年連れ添っている私から言わせてもらうと“
「……負け戦が嫌い?……そんな事で!被害を抑える貴重なチャンスを無駄にするというのですか?!」
ドミニクは怒りを露わにするが、その表情を見てブラッティは鋭い眼光を中佐に向けると言い放った。
「ドミニク中佐、母星から民間人を守り抜き大きな被害を出さずにここまで来た君は、確かに優秀な指揮官なのだろう……だが、君には足りない“経験”が一つある。」
「……足りない経験でありますか?」
「“
ブラッティが目で合図すると先任曹長は頷き、手元の端末からスターレット宛にムラサメが作戦内容を記したファイルを送り、作戦書類を読み進めるとドミニクは目を見開き驚きを露わにしつつブラッティを見た。
「マジメン時間は?」
ブラッティの問いにマジメンは「オンタイムです!」とサムズアップをして見せるとブラッティは頷き、隣に居る先任に顔を向けると「主砲準備完了、いつでも行けます。」と不敵な笑みを見せる。
「目標ブラボー、チャーリー発砲!!攻撃来ます!」
「シールド前方に展開!!損耗率50%!次、直撃したらシールドが剥がれます!」
「ビートル型集団接近!イエロー小隊とパープル小隊が迎撃に入ります!」
ブリッジクルー達の戦況報告が次々に上がってくるがブラッティは微動だにせず、反撃の時を待つ。
ブリッジに映し出されている宇宙空間に目を向けると、ダストのものか味方のものか定かではない爆発や閃光が瞬いている。
正面には巡洋艦級二体が真っ直ぐアサヒに向かって来ており、後数分間もしないうちにアサヒは両舷から挟撃されると思われた。
「操舵手!バレルロール開始!!」
ブラッティの号令を聞いた操舵手は頷き、操縦桿を目一杯回すと、アサヒは鈍い音を立てながら回転を始める。
全長600メートルを越す巨艦が回転する様は端から見れば鯨がジャンプしているように見えた。
「主砲誤差修正!ロック完了!ブラボー目標に1番2番チャーリー目標に3番4番!撃ち方初め!!」
バレルロールすることによって、死角に入っていた主砲の3番と4番が打てるようになり、アサヒは砲撃を開始し、一発目がブラボーの船首部分に命中し爆散、チャーリーには二発とも直撃することによって完全に沈黙させることに成功し、ブリッジに歓声が沸くがブラッティは落ち着いて次の命令を出す。
「次弾の粒子圧縮充填開始、全主砲!照準を目標アルファへ!」
危険を感じたのか、モス級から飛び出してきたビートル型や、クラブ型のダストはアサヒの前進を止めようと攻撃を集中させるが、直掩に着いているBT部隊がしっかりとインターセプトに入り、ダストは思うように攻撃できない。
アサヒは勢いそのままに眼下に見えるモス級に近づき、主砲の射程圏内に入ったところで主砲の一斉射をモス級に向けて放つ。
一発、二発、三発とシールドに阻まれてしまうが、四発目の粒子ビームがモス級に当たると、今までシールドに阻まれていたはずの粒子ビームがモス級のシールド発生装置と思われる羽部分に当たり派手に爆発する。
「目標アルファに損害確認!!」
「よし!!次弾充填いそ––––!!」
先任曹長が息巻いたのも束の間、船体に衝撃が走り先任早朝は言葉を止め状況を確認する。
「目標アルファから発進したクラブ型が集結してこちらに攻撃を!––––二射目来ます!!!」
モス級の周辺に展開するクラブ型は腕部にある砲塔をアサヒに向けて発射態勢を取っておりブリッジクルーはその光景に騒然とする。
「目標アルファ頭上にドライブアウト反応!!」
「来たか!!」
発射態勢をとっていたクラブ型の頭上が瞬き、ダストに降り注いできたのは鉛玉の嵐であった。
「スターフォースワンから入電!艦載機部隊全機発進!これより離脱を開始アサヒの奮戦に期待する!!」
「スターフォースワンに打電、
突如として現れたスターフォースワンは艦載機部隊を放出し、モス級の元へ飛来する。
ムラサメの作戦でアサヒがドライブする直前、スターフォースワンに移動していた艦載機部隊の面々はこれまで活躍の場がなかった鬱憤を晴らすかの如く、ダストに攻撃を仕掛け、戦況を有利に進めていった。
「イエローリーダーよりパープルリーダー!現時刻をもって直掩任務終了!俺たちも祭りに加わるぞ!!」
アルベルトは、民間人が乗っているスターフォースワンを簡易的な輸送船として利用し、モス級の頭上から奇襲をかけると言う奇想天外の作戦に驚愕するが、イーサンからの通信を聞き、気持ちを切り替えて機体をモス級に向け発進させる。
「なあ、この作戦ムラサメ少佐が発案したらしいぜ。どんな神経してたらこんなリスキーな作戦思いつくんだか……。」
カイルからの通信を聞いたアルベルトはムラサメの顔を思い出し、こんな大胆な作戦を取る人物だったのかと驚きつつ、
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