Chapter3
【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ソル平原 】
どうにもできないことはこの世に沢山ある。
地震、雷、台風様々……。
これもそうだ……。
あたりは血の海、周りには仲間だったはずの死体……。
雄叫びをあげる漆黒の有機物なのか無機物なのか、彼なのか、彼女なのかはたまた性別なんてものがあるのか解らない化け物があたりをウヨウヨ這いずり回り見つけた死体を食い千切り運よく虫の息だったはずの仲間を見つけては命を弄び絶命させていく。
「化け物めお前らが居なければこんな事にならなかったのに!!」
仲間は虫の息で呟くと声にならない悲鳴を叫びながら、手に持っていたアサルトライフルを化け物に向けてバラ撒く。
その化け物はこの星で言うところの昆虫のような形をしていて、甲殻類のような手足を持ち、目は肉食獣のように野蛮で、闇夜に抗して赤黒く光り輝いていた。
瀕死の仲間が放った弾丸はその化け物に向かい、1匹の頭部にブチ当るとその化け物は力なく崩れ落ちる。
「はははっ!やった!……やったぞ!!見たか伍長!!」
「や……めろ!……っ!!」
こっちを見てそう言う仲間に対して動かない身体を必死に動かし、なんとか危機を伝えようとするが、仲間は一矢報いた事に安堵して、弾切れしたアサルトライフルを倒れた化け物に投げつける。
その瞬間、背後から近づいていた化け物に腹部を鎌のような形状をした腕で貫かれ絶命した。
そして伍長と呼ばれた“彼女”は動かない身体から力を振り絞り、右の腰に付いているホルスターから拳銃を抜いた。
今死んだ仲間を食い終わったら次は自分だと察していたからだ。
無駄な足掻きだと笑うかもしれないが、そうするくらいしか頭の中に浮かばなかった。
化け物の方に銃口を向けて1発、2発3発と発射するが、1発目は手前の地面に当たり泥が仲間の腹わたを貪っている化け物の頭部付近にかかる。
2、3発目は化け物をすり抜けていく。
化け物は食事を邪魔された事に腹を立てたのか鋭い視線をこちらに向けて奇声を発するとゆっくりとこちらに移動し始めた。
その後も射撃を続けるが銃口を敵に向ける事がやっとの彼女には化け物に当てることすら出来ず、拳銃は弾を撃ち切り、ホールドオープンすると銃口と薬室から白い煙を放ち動きを止める。
「くっ!、射撃は得意科目だったはずなのに……。」
奇声を上げ近寄ってくる化け物になんとも締まらない捨て台詞を吐くと、拳銃を投げ捨て身をよじり化け物からなんとか距離を置こうとするが、必死の抵抗も虚しく化け物は彼女の前で大口を開けた。
その姿は昔映画で見たことのあるエーリアンのようだった。
彼女はその時、司令部から彼女たちに届いた最後の命令を思い出す。
「兵士たるもの最後の一兵になるまで奮戦し、戦場を死守せよ?ふざけないでよ!後方から口出すしか能のない連中め!」
近寄ってくる化け物はその大口を彼女に近づけ今にも頭から丸飲みしようとするが彼女は最後の力を絞り、手榴弾のピンを抜き左腕を目一杯化け物の口に突っ込むと手榴弾から手を離す。
突然口に突っ込まれた腕に化け物は驚いたのか反射的に彼女の腕ごと口を閉じ、牙が腕と身体を無理やり切り離すため力を入れると“バギィィィ!!”と今生の別れの音を立てて、彼女の左腕は化け物の腹の中へと消えていった。
想像以上の痛みを感じた彼女の身体はアドレナリンやらなんやらを分泌し、その瞬間をスローモーションで流れているように感じさせる。
「こんな、人生……クソ喰らえよ!!」
そう彼女が言い放つと同時化け物の身体の中が膨れ上がり内側から破裂した。
飛び散る残骸に当たるまいと身体を丸くして身を縮めるが化け物の破片は彼女の腹やらなんやらを切り刻んだり、刺さったりと左腕を使った特攻は散々な結果に終わる。
仰向けになり身体中から吹き出る自分の血の温かみを感じつつ「くそっ……ザマァない。」と強がりを見せた。
死ぬのか?
そう死ぬんだろう。
どうにもできないことはこの世に沢山ある
地震、雷、台風様々……。
これもそうだ。
受け入れるしか方法はない、ここで自分は死ぬ。
あそこで倒れ伏す、他の仲間からしてみれば自分が死ぬのは気楽なものだと思った。
そこの右足はダニー軍曹のだ、あのタトゥーの自慢話を何度も聞かされた。
あそこの左手はライル二等兵のものだ、恋人とお揃いの指輪だった。
あそこのゴリラ顔の頭はムサシ大尉の頭だ、散々イビられ続けたからいい気味だと思ったが、昨日酔いながら生まれたばかりの娘がいるといっていた。
そう考えると大尉も災難だったなと思い直す。
幸いな事に自分には身寄りはないし、故郷に置いてきた恋人もいない。
正直ホッとしている自分がいる。
これでやっと終わりにできる。
彼女の人生は散々だった。
「こんな死体まみれの平原で、締まらない人生の終わりを迎えるなんて……。」
ため息を吐きながら血溜まりの中、短いのか長いのかわからない数十年間の走馬灯を見ながら、遠退く意識の隅で音が聞こえてくる。
「銃声……。」
まだ生き残っていた仲間が居たのかと、音の方向に視線だけ向けるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ククッ、クアハハハッ!!見なよブレイズ!正規兵ってのはなんでこんなに情けないん
「うるさい、レベッカ。黙って害虫駆除に勤しんでくれ。」
レベッカと呼ばれた女性兵士は、
「ブレイズ……コイツ生きてる。」
ブレイズと呼ばれた兵士は彼女の元へ近づき、しゃがみ込むと吹き飛んだ腕と破裂した化け物を交互に見て頷く。
「ほほう、自爆特攻とはなかなか見どころがある兵士のようだね?……それで?君の左腕をbedして手に入れた数分間は、君にとって割りに合う賭けだったのかな?」
優しく、そして深みのある笑顔を向けられ、彼女はゆっくりと首を振る。
首を振る姿を見たブレイズは大口を開けて笑いながら「だろうねぇ!」と言い放つと、もう一度彼女を見て言葉を続けた。
「だが、君は分の悪い賭けに勝った。我々が来るまで持ち堪えた。それならば我々は君に報わなくてはならない。それが我々ブラッドウォーター社の社訓だからな。」
ブレイズと呼ばれた兵士が何を言っているのか分からなかったが、返事を出来るような状況ではない彼女は、静かにその様子を見つめる。
「君の名前は?」
「……セナ…ワトソン……伍長です……。」
名前を聞くとブレイズは右手を差し出して言う。
「セナ、君は生き恥を晒し、現世に縋り付いた。その功績を讃え君に生きて敵を殺す猶予を与えよう。」
差し出された手に縋り付くかのように残された力を全て使いセナは右手を差し出すと辛うじてブレイズの手まで届いた。
ブレイズはセナの手を取ると「契約成立だ。」と言い、懐から医療用のナノマシーンの注射器を取り出しセナの胸へ突き刺す。
すでに痛みなど感じる余裕のないセナは朦朧とした意識を手放し深い眠りに付いた。
「……よし!野郎ども撤収するぞー!ゴールデンパッケージはここには無い!アナグラに戻る!」
そこら辺中で化け物を狩っていた傭兵達はブレイズの掛け声を聞き「へぇーい」とやる気の無い返事をする。
「これで撤収ってことは、今日のブービー賞はブレイズに決定って事でいいよな?」
「なに?!俺は人命を最優先に考えて!!」
「女にうつつ抜かしてるブレイズが悪い!って事で!今日の酒代はブレイズ持ちで!」
レベッカの声を聞き雄叫びをあげる戦闘狂共は素早く支度をしてアナグラへと引き返すべく歩きだし、ブレイズの言い訳など聞く耳を持っていない。
「まったく、経費で落ちるかなぁ?」
「ブレイズ……本社の連中はもう死んだ、経費落ちない……。」
ダイズは眠りに付いたセナをガタイに似合わない手つきで慎重に抱き抱えながら、追い討ちをかけるとブレイズは肩を落としながら皆に続いて歩き始める。
「クソッ!!全部ダストが悪い!!あのクソ虫共絶対根絶やしにしてやる!!」
曇天の空に木霊する声がダストに伝わる事はないが、曇天を映す
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