Chapter4
【強襲揚陸艦アサヒ ブリッジ】
「艦長、ドライブ準備完了、いつでも行けます。」
大統領の演説から数回のドライブを経て、アサヒとスターフォースワンは惑星フラウまで後ドライブ一回分の距離まで来ていた。
このドライブが成功すれば惑星フラウとの交信圏内に入りこの無謀な旅にも一区切りつくといった所であるが、エデンの惨状を知るブラッティにとって今後、人類側が圧倒的に不利であることに疑いの余地もなく、気が重い事に変わりがなかったのであるが、ブリッジの雰囲気はやっと落ち着くことができると安堵のため息を吐くものが大半である。
アステロイドベルトでの任務からすでに1ヶ月弱が過ぎており、四六時中ダストからの襲撃に警戒していたブリッジクルー達の心情を鑑みれば気持ちが緩むのも無理もないのだが、ここで気を抜けるほどダストという敵は生易しい相手ではないとブラッティは考えていた。
「馬鹿者!まだ任務中だ!!気を抜くでない!!」
ブラッティの内心を読み取ったかのように隣に居た先任曹長が怒声を飛ばす。
ブリッジ中に響いた声はブリッジクルーの緩み切った気持ちに喝を入れるのに十分だったようでそれぞれの持ち場に戻りいつも通りの雰囲気に戻る。
「すまんな先任。」
「なーに、あなたがわざわざ声をあげるほどのことでもありませんので。」
褐色肌の顔をニヤリとさせる戦友に無言の礼をいい「先任マイクを」と短く伝えると先任曹長がマイクを手にとり渡してくる。
マイクのスイッチを入れるとブザーが一度二度と艦内全体に鳴り響きその音を聞いた全員が耳を傾けた。
「こちら艦長のブラッティだ、ただいまよりフラウ星系に向けて行う最後のドライブに入る、このドライブを抜ければフラウまでは目と鼻の先といっても過言ではない。エデン陥落の報を受けて尚、皆ここまでよく頑張ってくれた、あと少しでこの航海も一区切りつけることだろう。だが気を抜くな、スターフォースワン襲撃の一件以降ダストとの交戦は起きていないが油断はできない。何があっても対応できるように気を引き締めてかかってくれ、以上だ。」
マイクを先任曹長に渡してマジメンを見る。
するとマジメンは敬礼をして頷き「スターフォースワンに打診、ドライブ航行に入るカウント合わせ!」
マジメンの声に操舵手と航海長、通信担当が返事を返しブリッジの正面に浮かび上がるホロモニターにドライブまでのカウントダウンが表示される。
「目標座標にワームホール展開完了。カウント、5、4、3、2、1、0!B粒子開放30%!ドライブ開始!!」
あたりは青白い光に包まれ時が一瞬止まったかと思うとブリッジに映し出されたのは眩い光が所々集まり瞬く慣れたドライブ空間の中であった。
「安定領域に到達完了です、残り30分で目的地フラウ星系外縁に到達します。」
「ご苦労、イーサンにBT隊と早期警戒機のスクランブル待機を命令、修理中の機体を除いて全機発艦できるようにしておけ」
「アイアイ艦長!」
マジメンは敬礼をしてその場を去り、その姿を見送る。
ブラッティは懐から電子タバコを取り出し一服すると先任曹長が話しかけてきた。
「艦長ドライブアウト後、ヤツらは仕掛けてくると思いますか?」
「ああ、奴らに戦術を理解する脳みそがあると分かった以上その確率は高かろう。」
「ダストがあの演説を傍受した場合を考えると頭が痛いですな。」
先任曹長は難しい顔をして腕を組む。
先日大統領が行ったパープル小隊の授章式と演説は無線通信で銀河中に発信されているのだが、ブラッティと先任曹長、その他幹部はこの演説を放送する事に反対だったのだ。
反対する理由として一つ目は無線通信という方法にある。
高度に暗号化されていない無線通信は発信源を辿るのも容易くなってしまい、ダストが銀河連邦中を包囲出来る程の知能があるとすれば傍受も容易い為、我々がダストに捕捉される可能性もあったのだがダストはスターフォースワンの襲撃以降現れていない。
それがブラッティにとって最大の疑問であったのであるが、他にも思い浮かぶ問題点は多かった。
とても専門的な話になるが、ダストのジャミングが行われる前に人類が使っていた銀河連邦ネットワークはB粒子時空通信によって銀河中の人とほぼタイムラグなく通信出来たりクラウドを利用して多くの情報を発信できるシステムなのだが、無線通信となるとタイムラグが大きく、さらには1世代前の技術な上マイナーな通信方法であるため、
現在普及している通信機器では受信出来ず、今受信出来る物といえば軍艦の通信傍受装置か少し前の宇宙船に設置されている非常用無線機のどちらかといった所なのだ。
また、この無線通信という物で送信出来るデータ容量はかなり小さく送れる物といえば音声と画質の荒い動画程度である。
例えば、演説を聴いた人類が惑星フラウを目指すとする。
運良く宇宙船に乗り発進出来たとしてドライブすることも一苦労であろう。
そもそも宇宙船で銀河を航海するというのは推進剤を使った通常航行ですら死と隣り合わせの行為であり、ドライブ航行となると専用の航路図と莫大な計算式を解く事が必要となる。
今までは銀河連邦ネットワークのクラウドにアクセスして航路図を確認し目標を指定するとクラウド上で全て計算してくれる為、数字をドライブ航行装置に入れるだけで済んでいたが、ネットワークにアクセス出来ない現在、航路を割り出すとなると宇宙船に搭載されたAIを使い宇宙波やデブリ(宇宙ゴミ)、小惑星の位置、惑星の自転、様々な要因を考慮し、やっとの思いでドライブ座標の計算をしてそれを入力する。
ここまでの工程で通常よくて一日中、旧型のAIを積んでいたら三日はかかるであろう。
ちなみにアサヒの様な軍艦やスターフォースワンの様な政府専用クルーザーには高性能AIと超高性能演算装置が付いておりドライブ座標の割り出しには半日程度で済むのだが、アサヒには超高性能演算装置より正確で速い「マジメンロボ」が搭乗していることにより数時間で計算してくれるという裏技がある為、通常よりも三日は早くフラウ星系に着けたという裏話があった。
話が脱線してしまったが、大統領の演説に反対したとしてもう一つは我々がフラウを目指している事を発信するとなると、それを知った難民がフラウ星系に殺到して混乱を招く可能性があり、受け入れ態勢が整っていないフラウ政府に負担をかけることとなる。
さらに考えたくない最悪な状況としてすでにフラウ星系も侵略されていた場合それは無意味に民間人を奴らの餌にしてしまう事と等しくかなりのリスクである事も付け足しておく。
ブラッティは起きていないことを考えてもしょうがない事だと割り切ろうとするのだが、どうしてもこの後起きる出来事を想像してしまう。
ブラッティは電子タバコを吸い込み溜め息がわりに紫煙を吐き出す羽目になるのであった。
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