Chapter9
【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ラグランジュポイント付近 難民船団】
急遽のことに暫し唖然としたカイルは正気を取り戻すと光線の来た方向に向けて機体の望遠機能をフル活用して発生源を調べた。
その方向には望遠機能を使ってギリギリ見える距離に赤黒く歪な物体を視認する。
「あれは!?データにあったクラブ型か!!」
「クソッ!!よりにもよって対艦型ダストが…!!時間が経ち過ぎたようだ、オリンピックの艦長に繋げろ!通信手はその他被害報告をまとめて報告!」
カイルの呟きと同時、ドミニクはモニター越しに苦虫を潰したような顔をして自分の座っていた椅子の肘置きに拳を当てる。
対艦型とはマジメンがクラブ型と呼称する前から使われていたダストの名称で、今まで戦ってきたビートル型とは比べ物にならない火力をもち粒子ビームを両碗から放つ。
先日聞かされたマジメンとムラサメの分析結果には、クラブ型の粒子ビームは銀河連邦軍の巡洋艦クラスであれば一撃で葬るほどの威力であるが、報告によると足は遅いらしく、ビートル型で相手を削り、クラブ型でトドメを刺す戦法を好んでいるようである。
好む理由に関しては定かではないが、単純にクラブ型の移動範囲が狭いのと足が遅い為、遅れて参戦しているか、もしくは待ち伏せの様にしてクラブ型を使っている可能性があると報告書には書いてあったが、この状態を鑑みるに、間違いなく後者の方であるとカイルは結論付けた。
「あの蟹を何とかしないと全滅するぞ!!」
「イエロー小隊各機!あの蟹を黙らせる!ついて来い!!」
「「了解!!」」
イーサンの機体が一気にブーストしてイエロー小隊の面々はそれに続いた。
遠ざかっていく船団を背にして一直線にクラブ型の討伐に向かうイエロー小隊だったがそれを探知したのかビートル型が数十匹群れを成して追撃してくる。
「イエローリーダー!船団の攻撃をしていた連中が追ってきた!しかもこっちの最大速度より早い!」
「チッ!追いつかれるか!イエロー2と3は俺と一緒に追っかけの迎撃に移る!パープル2!とイエロー4は先に行け!」
「パープル2了解!」
イーサンとイエロー2、3は加速していた機体を減速させて宙返りをすると追ってきたビートル型の迎撃に向かう。
残されたカイルとイエロー4はイーサン達を横切るとさらに機体を加速させ、クラブ型に向けて一直線に進むが、先程までレーダーで視認できなかった反応が3体出現し、数的不利な状況を察したカイルの額を汗が伝う。
今更減速する訳にもいかず、カイルは光点を目掛けて機体を進めるが、
「パープル2!回避行動を!!」
「いや、どのみち打たれるんだ!ギリギリで躱した後カウンターでミサイルを全弾撃ち込む!」
「クソッ!お前もイーサン大尉と同類だったか!」
イエロー4はカイルに向かって余裕のない嫌味を言ったと同時にクラブ型の両腕が光ると粒子ビームがカイル達を襲った。
カイルは人型兵器の長所である緊急回避機動を使い機体を捻るようにして翻すが避け切れなかった右脚に激痛が走る。
BS LINKにより肉体の反応と機体の反応速度に殆どラグがないとはいえあれだけ大きい攻撃範囲を避け切るにはあとワンテンポ足りなかったようだ。
機体をモニター越しに確認すると粒子ビームが当たった場所は高温で溶かされたような装甲と人工血液を送る為に内部を通っている管が破けて血液が宇宙空間を漂い、フレームの金属が無残な姿を見せている。
「クソッ!被弾訓練の時より五百倍痛えじゃねえか!!」
BS LINKをしている機体が破壊されたとしても肉体に傷がつくわけではないが、副産物として機体が食らったダメージはBS LINKを介して痛覚や精神的なダメージをライダーに与えるのだ。
カイルは被弾訓練と称して先輩にタコ殴りにされたことがあったがその時に感じた痛みとは比にならないレベルの痛みを感じ、脂汗を額に浮かべながら隣にいたイエロー4を見る。
イエロー4はカイルと逆の方向に機体を翻した為か左脚が同じように溶け落ちていた。
イエロー4から苦痛に歪む吐息が漏れているが歴戦のライダーなだけあり何とか正気を保っている。
その姿を見て、カイルは今しかないと判断すると痛みや怖気を振り解くかの如く怒鳴った。
「ミサイル発射!!」
「食いやがれ!!蟹野郎!!!」
二機のBTから放たれたミサイルの一斉発射は一直線にクラブ型に向かって行き、クラブ型は回避しようと後退するがその鈍足が仇となり二体のクラブ型に直撃する。
「やったか!?」
イエロー4の通信を聞きカイルは言葉にするより早くまだ倒し切れていないと直感してしまい苦虫を潰したような表情を浮かべ、ミサイルの爆発がおさまり晴れていく視界から見えたのは片腕が吹き飛んだ状態で生き残ったクラブ型が粒子ビームを発射する直前の映像。
カイルは直感的にあの攻撃を避けることができないと感じ、表情をさらに険しくしながら射程圏外である事は知りつつガンポットをクラブ型に向けて放つ。
案の定悪足掻きで放たれた弾丸はクラブ型に当たることはなく四方に逸れて行き粒子を収縮し終わった片腕のクラブ型がビームを発射しようとした時、クラブ型の残された腕が爆散し中途半端に放出された粒子が宇宙空間に瞬いた。
その刹那一機のBTが両手にバトルナイフを構え、クラブ型に突き刺さり満身創痍のクラブ型は息絶える。
「カイル!無事か!?」
通信から聞こえてきたのは聞き馴染みのある声だった。
「くそ、いいとこ取りしやがって!」
カイルが呆れ顔で薄く笑って見つめる先にいたのはアルベルトが駆るYZF R-25だった。
アルベルトは通信越しに皮肉を吐くカイルを見据えて安堵の息を漏らす。
「これでもかっ飛ばして来たんだ、文句言うなよ。」
「それで?アサヒは救援に来るのかよ?」
「ああ、まだ少し時間が掛かるそれまで踏ん張るぞ、動けるか?」
「右脚部が丸々なくなってるから機動戦闘は無理だな、できて味方艦の援護くらいだろう」
カイルは被弾した衝撃を思い出し自分の右足を触ってみる。
もちろん傷ついた跡などは無く、足を組んで長時間座った時と同じ様な痺れはあるがだんだん感覚が戻って来ているようであり安心した。
そんな事を気にしていると背後からイエロー4に肩を貸す形で近寄って来たのはアイリスの機体だった。
「さっきの狙撃はアイリスちゃんだったか道理で正確なわけだ。」
「思ったより元気そうで残念ですパープル2、命令違反した挙句被弾して情けなさから泣き言でも言ってると思ったのに」
「そりゃあないぜぇ、アイリスちゃん。」
カイルはいつも通りの毒舌王女様に苦笑いを浮かべながら、どこか居心地の良さを感じていた。
「パープル2・3、馬鹿話はあとでにしよう。とりあえずイーサン大尉に合流する……!!」
アルベルトがそう言葉を発したと同時のタイミングでマーズアイからの緊急通信が入って来る。
「緊急通信!!この宙域に馬鹿デカイ時空変動が発生中!!何かがドライブアウトして来るぞ!!」
その通信を聞きその反応がある方向を確認すると人類が使うドライブ技術とは明らかに違う反応をして、深淵の中に時空の歪みと共に紫電が疾る様なエフェクトが何度も起きては消えており、その歪みが荒々しい動きを見せるとその紫電が浮き上がる様にして現れたのは巨大な人工物とも有機物とも取れる個体というには大きすぎる物体が顕現する。
「デカすぎる!なんだあれは?!情報にあったダストボックス?!」
「いや、データで確認したダストボックスはもっとデカいはずだ、新型か!?」
アルベルトは顕現した大型ダストを望遠モードで見据える。
その姿は海洋生物のサメに似た形をしており、大きさは銀河連邦の巡洋艦クラス程であるが赤黒い装甲を刺々しくして鱗のように配置していた。
「第二、第三次の時空変動確認!まだ来るのか?!」
マーズアイの焦った声が通信機から聞こえるとドライブアウトしたサメ型のダストの後ろに同じ形をした個体と、その後ろには羽を広げた蛾の様な個体が禍々しいエフェクトをあげながら顕現する。
「データベース照合!未確認個体2、その後ろのはエデンに居たモス級だ!」
モス級と呼ばれる個体がドライブアウトするとすぐさま羽を広げ鱗粉を周りに展開すると一種のエネルギーフィールドを張り、フィールドの内側でダストの大群を放出し始める。
船団の防衛をしていた数隻の護衛艦がモス級に向けて主砲で砲撃をするがその鱗粉に接触した瞬間霧散した。
実体弾であるミサイルの攻撃も鱗粉に触れると爆発する。
「くそっ!粒子砲も実体弾も無効かよ!?反則だぜありゃ!?」
次々と放出されたダストが前線から突出していた護衛艦を数隻食い千切り、爆散。
パープル小隊の面々はその状況を見守る事しか出来ないでいると、そこに護衛艦隊の司令官であるドミニク中佐からオープン回線が繋がる。
「こちらスターレット艦長ドミニク中佐だ。残存艦艇及び残存部隊に継ぐ……これより我々は全勢力を持って民間船団の退避を支援する為、船団後方に防衛線を引き遅滞戦闘を行う!」
「なっ?!そんな無茶な!そんなことしたら民間船団が丸裸になるぞ!」
「パープル2に同意します!仮に民間船団がこの宙域から脱出出来たとして、その後無事にフレアに辿り着ける可能性は極めて低い!!」
普段は噛み合わない、カイルとアイリスの意見がこの非常時に限って噛み合っていることにアルベルトは驚くが、状況が逼迫していることを思い出し、何か打開策がないか思考する。
「パープルリーダーより全機、話は後にしよう。まずはイエロー小隊と合流する。」
全機から了解の旨返答が返ってくるとアルベルトとアイリスがカイルとイエロー4を牽引する形でイーサンの反応に向けてスラスターをふかした。
「パープル1、2お前らはマーズアイの護衛だったはずだろ?なぜ戻ってきた!アサヒはどうなっている?!」
そう発言したイーサンのあきれ返った表情と裏腹にこの非常時に動かせる駒が増えたことを喜んでいるようにも感じられる。
アルベルトはアサヒに通信を送りアサヒはこちらに急行していること、マーズアイが早期警戒機のレーダーを使い民間船団の誘導を手伝っていることを伝えるとイーサンも仕方ないといった感じでため息を吐いた。
「こちらスターレッド艦長ドミニクだ、アサヒのBT部隊聞こえるか?」
部隊通信に割り込んできたドミニクに対してアルベルトとアイリスは略式の敬礼と軽い挨拶をするとドミニクは敬礼を返し「君が噂のファーストトリガーか。」とアルベルトを見つめた。
「アルベルト少尉、こんな状況で無ければ君たちの武勇伝でも聴きながらティータイムと洒落込みたいところだが生憎そんな暇もなくてな。」
「とんでもありません中佐、それよりも先ほどの命令ですが本当に民間船だけ逃すおつもりですか?もしもダストの別働隊がいた場合民間船団のみでは対処できないと思うのですが。」
「わかっている。だが、目の前に巡洋艦級ダストと母艦級が現れた時点でこの戦は負けているのだ。」
「あのサメのような個体は巡洋艦級と言うのですか」
イーサンの言葉が割って入るとドミニクは険しい表情で頷き「君たちはまだ戦っていなかったのか」と驚く。
割って入ったイーサンがアサヒは単艦で特別任務を行なっていた為、通信封鎖、データリンクも切っていた事を伝えるとダストの巡洋艦級について説明してくれた。
あの巡洋艦級は主に母艦級の周りに1体から2体程度配置されており、母艦級を守る盾となっている。
火力も高く、銀河連邦の巡洋艦程度の装甲と艦首と言うのかダストの口にあたる部分というのか定かではないが、その部分から巡洋艦クラスの粒子ビームを発生させるらしい。
粒子ビームは対艦型と呼ばれているクラブ型の火力と同じだが、次弾へのインターバルが短く、クラブ型より厄介な存在であるそうだ。
「残念だがあの個体群がこの宙域に現れた以上、我々の恒星系ダマスカスも落ちたという事だろう。そうなると次の進軍対象はこの恒星系フレアとなる。だが、裏を返せばこの恒星系はまだ銀河連邦の勢力圏内という事だ。……それもダスト進行が報じられた瞬間、恒星系全体に警告を出し、民間人をフレア本星に疎開させ、銀河連邦方面軍とフレア諸侯軍を統合。新たにフレア防衛軍として編成する事でダスト侵攻に備えたローズマリー国王の手腕といったところか……。」
この星系を束ねる惑星フレアの王家「ローズマリー家」の長女であるアイリスはその言葉に何とも言えない表情を浮かべる。
「先ほど、アサヒのブラッティ艦長とも連絡が取れて伝えたが、君たちアサヒの部隊は民間船団と共にフレアに向かってもらう。そしてスターフォースワンとアサヒと共にフレアまで逃げ延びるのだ。」
「ですがそれでは!!ドミニク中佐の護衛艦隊は全滅してしまいます!」
「それは覚悟の上だ……。第一我々の任務はこの星系についた時点で半分成功している。あとの任務は護衛艦隊に乗っている若者をオリンピックに送り届けるだけだ。殿はロートルに任せておけ、……出来るだけ時間を稼ぐつもりだ、後を任せるぞ英雄諸君。」
そう言ったドミニクは少し微笑み先程の険しい表情から一転して清々したような表情で敬礼をすると通信を切る。
「イエローリーダーより各機、これより民間船団の前方に展開して警戒を行う。」
「隊長!!我々も銀河連邦の軍人です!!味方が戦っているのに我々だけ逃げるなんて!!」
「パープル2!!言葉を慎め!!」
イーサンはカイルの言葉に語気を強めるがモニターに映る顔を見ると自身もこの命令に納得がいっていないといった表情を浮かべている。
「民間船団の護衛も
モニターに映っている全員が心痛の表情を浮かべ、
「クソッ!まだ敵の増援がくるのか?!」
「違う!!……この反応は……まさか?!」
マーズアイが操作するレーダーに表示されるIFFには“LBTD-51”と表示されており、その方向を確認する。
宇宙空間に淡い光が瞬くと同時に見慣れた台型のフォルムが顕現した。
「おいおい!!この短時間に短距離ドライブの計算をしたってのか?!全く、優秀すぎるぜマジメンロボ!!」
「だが計算をミスってるぞ!!敵艦の真横にドライブアウトするなんて!!
「あれだとダストの集中砲火が!!」
イエロー小隊の連中が騒ぎ立てるがアルベルトはその言葉を否定する。
「いや、あれはもしかしたら……座標を間違えたんじゃないかもしれません。」
「アルベルト少尉?どういう事だ?」
イーサンはアルベルトに聞き返すがアルベルトは首を振る。
「いや……あのブラッティ艦長が通常航行でも辿り着ける距離を、わざわざリスクを負ってまで近距離ドライブに踏み切ったのか、理由が見当たらないんです。……だからあれはわざとなんじゃないかと。」
「おいおいアル!そんな事でミスじゃないって何で言えんだよ!」
カイルの言葉が最もなのはアルベルトにもわかっていたが、人間にはオカルトの類ではなく第六感というものがあると言われている。
今回もそれに近い感覚であったが、この感覚はダストと初めて戦った時やスターフォースワンの救出の時も感じた感覚であり、アルベルトはこの感覚に従って外れたことはなかった。
「わからない!でも……イーサン大尉!!今すぐアサヒに合流しましょう!!」
「何をいっている?!さっきも言ったろ、任務の遂行が最優先だ!」
そんな問答をしているとアサヒのCDCからイエロー、パープル小隊に連絡が入る。
「こちらアサヒCDC、イエロー、パープル小隊応答願います。」
「こちらイエローリーダー、アサヒCDC!一体どうなっている?!」
イーサンの発した言葉にアサヒの管制官は一呼吸置くと命令を発した。
「イエロー・パープル小隊各機はアサヒと合流補給を行い再度出撃、民間船団が離脱するまでの間この宙域でダストの足止めを行います。」
全員が唖然とその命令を聞いていたが、イーサンが「オヤジさんがこの状況で尻尾巻いて逃げる玉じゃねえか」と微笑み通信に返答すると各機はアサヒに針路をとった。
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