Chapter8

【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス ラグランジュポイント付近 難民船団】


 ♢ ♢ ♢



 アルベルトアイツとの出会いはちょうど一年前。


 転属でアサヒに来たアルベルトアイツは珍しい黒髪で黒い瞳であったが見るからに冴えない男だった。


 パープル小隊の所属になると聞いた時正直ハズレだと思ったのを覚えている。


 まあ、カイルからしてみれば女性ライダー以外は基本ハズレなのだが……。


 いつかの非番の事だった。


 アサヒが珍しくエデンに帰港していた時と自分の非番が重なり「今日はハメを外すぞ!」と息巻いたのは良いものの、そう言う時に限っていつもの馬鹿騒ぎする連中は当番だったり、予定が入っていたりで誰一人捕まらない。

 仕方なく暇そうにしていたアルベルトを誘ったのが事の始まりだった。


 アルベルトは誘ったカイルに対して「それはガーランドの奢りか?」と聞いてきたのだ。


 不器用というか愛想がないというかともかく面白い奴だと思った。


 カイルはもちろん奢るつもりでいたし、今まで誘った連中に一銭も出させた事はないし奢られるのも嫌いなのだ。


 奢ってもらったそいつに借りが出来る様で嫌だったし、何より財閥の息子であるカイルにとってお金を気にして飲むこと自体ない。


 上手く言葉では言い表せないがあの日、カイルオレアルベルトアイツは今までのヤツとは違い 対等な人間友達になれると思った。


 財閥の長男として生まれ、学校の成績や軍人になってからの戦闘訓練はいつも首位、生まれた瞬間から特別だったカイルは何をしても周りから「彼は天才だから」「特別だから」と言われ、関わる前から対等ではない存在。


 カイルの周りに群がるのは利権欲しさに下卑た笑顔を振りまく大人か、親に仲良くなってこいと命令された女子供ばかり。


 そんな中アルベルトだけは些細な事でも対等であろうとしてくれた。


 カイルにとってそれが嬉しかったのだ。


 それ以来カイルが飲みに誘う奴は“アルベルト・アダムス”だけであったが、親友であり仲間である存在があの一件ファーストコンタクトで対等ではなくなった。


 あの空間でカイルは初めて他人に負けたと感じ、命がかかっている状況でこんな感情が芽生えるのはカイルにとっても意外であったが確実に“悔しい”と感じた。


 生きて帰って来てからはその感情が大きくなっていき、艦長室に呼ばれ小隊長になる様に打診された時、気が付いたらカイルは隊長になる事を辞退して、アルベルト・アダムスを推薦していた。


 そしてカイルにとってアルベルト・アダムスは“対等友達”ではなく“特別ライバル”になった。


 今回パープル小隊を抜けてイエロー小隊に合流するという判断をしたのも特別な親友に負けたくないという、幼稚な考えから来ているのかもしれないとカイルは思った。



 ♢ ♢ ♢



「中佐、指揮官失格かどうかはこの後の行動で決まります。無念に散った同胞達を救えるのはこの先にある未来だけだ。」


 その言葉を聞きドミニクは呆けた表情を浮かべるが、メガネを直しながら微笑む。


「その通りだな、すまない。少し弱気になってしまった様だ、奴等が体制を立て直しつつある!総員戦闘準備!!これ以上の被害を出させるな!!」


 ドミニクの掛け声に通信を聞いていた者たち全員が息を吹き返し返答する。


「ド、ドミニク艦長!船団後方より熱源接近!来ます!!」


 先ほどの若い通信手からの通信を聞きカイルは表情を引き締めてモニターを見る。


 分散していたダスト共が密集陣形を取りイナゴの大軍の様にして船団後方に突き進んで来ていた。


「こちらパープル2!イーサン大尉!アルが使ったもう一つの戦法を使いましょう!」


 イーサンはその通信を聞きモニター越しに肯くとドミニクに対してもその戦法を説明する。


「ドミニク中佐!近接信管とホーミングを無効にしたミサイルをありったけ奴等の中心に向けて撃ってください!」


「どういう事だイーサン大尉?」


「うちの中隊にいるヤツが編み出した戦法です!ダスト共に近接信管は効果が薄い、時限信管にした方が奴らを多く巻き込める!」


 ドミニクは少し思考した後肯くと護衛艦隊に指示を出した。


「全艦、ミサイルを近接信管から時限信管に切り替えろ!目標は船団後方ダスト集団中心部!時限信管の起爆時間を集団の中心部に設定しろ!!」


 総員刻々と近づくダストに焦りを感じながら、自身に課せられた任務を着々とこなし、無線からは徐々にミサイルの準備が出来た艦から準備完了の報告が上がる。


 全艦準備が出来るとドミニクは静かに肯き暫し沈黙の後、号令をかけた。


「全艦ミサイル発射!!」


「ミサイル発射了解!1番から4番対艦ミサイル発射!!続けて多目的ミサイル全ハッチ解放!5番から35番シェル発射!」


「ファイア!ファイア!!」


 護衛艦隊から一斉に放たれた数百本にも及ぶ鋼鉄の矢はダスト集団の中心部に猛スピードで向かう。


 ダスト共は飛んできたミサイルを警戒し右へ左へと避けるが爆発しないことを確認するとそのまま船団に向けての突進を再開した。


 そんなダスト達を尻目に、数百本にも及ぶ鋼鉄の矢は推進剤を使い切り、そのまま無重力空間を惰性で進み、ダスト集団の中心部にたどり着くと一気に爆発する。


 艦船にしか積めない大型の対艦ミサイルや多目的ミサイルの爆発はBTに搭載されている小型ミサイルの爆発とは違い、数百匹のダストを道連れにして行った。


「ダスト集団の中心部に命中!効果は絶大な模様!」


「よし!!護衛艦隊はダスト前方に火力を集中!やり損ねた個体は艦載機とBT部隊に対処させる!」


 ドミニクは間髪を入れず指示を出し周りの艦船は生き物の様にして目まぐるしく動く。


 イーサン率いるイエロー小隊はドミニクの指示を受けオリンピックの周囲を警戒しつつ防衛線を抜けていきたダストに対処していった。


 残党を排除し、一区切り着いたところでカイルはホロモニターに映されるレーダーを見つめると今攻めて来ているビートル型ダストの集団とは反対方向にあたる場所からダストの反応を示す赤色の光点が一瞬明滅し、まさかと思い目を凝らすが、BTに搭載されているレーダーでは出力が低いせいでノイズが酷く反応は一瞬で消失してしまう。


 妙な胸騒ぎを感じたカイルはドミニクに対して通信を送った。


「こちらパープル2、先ほどレーダーに一瞬ダストと思われる反応が映った!今、護衛艦隊を集結している方向と真反対の方向に!そちらで確認しているか?」


「こちらスターレットそれは本当か!」


「確証はありませんが一瞬反応した後ノイズが走り消えてしまったので!」


 ドミニクはその通信を聴きレーダー班に確認を取るがレーダー担当の士官は首を振る。


「こちらでは確認出来なかった、見間違いではないか?」


「それならいいんですが、ダストのジャミングでレーダーの効きがよくありません。レーダー範囲外からの狙撃の可能性は?」


「反応がないとはいえ気になるな。わかった、こちらの護衛艦を一隻偵察に向かわせ…!!」


 カイルとドミニクが通信していた刹那、光の束がカイルの真横を掠めて行く。

 光の束はイエロー小隊の守っていたオリンピックに被弾すると、当たった場所には粒子が拡散し、その刹那被弾した場所が融解し爆発を起こした。

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