第2話 戦地メンタルジャーニー

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【パープル小隊 BTブラッドトルーパーコックピット】



 アサヒとスターフォースワンは補給終え二週間、一路フレアを目指し船を進めている。


 アサヒのクルーはスターフォースワンとの合流を果たした事によりエデンの現状を知り衝撃を受け混乱するが、そこは流石は歴戦のアサヒクルー達であり、表向きではあるが混乱は最小限だった。


 そんな中、アルベルトたちパープル小隊はというと、今回のスターフォースワンの救出が評価され表彰されることになり、辞退しようとしたのだが、大統領経っての頼みと言うこともあり、断ることも出来ず自分たちのBTでスターフォースワンの格納庫へと向かっている。


「おいおい、俺たちが勲章持ちになるとか想像してたか?俺はしていなかったぜ!何せ平時だと勲章一つ貰うにも何年かかるかわからねぇし、功績あげるのにも職場戦場がないしな!」


「パープル2、やかましいのは顔だけにしてくださいあまり煩いとハエと間違えて叩き潰しちゃうかもしれません。」


 いつも以上に虫の居所が悪いのか、機体のホロモニター越しにカイルの顔を睨みつけるアイリスを宥めてアルベルトはため息を吐く。


「パープル1より各機、スターフォースワンに着く、いつも以上に丁寧に降りろよ、クィーンスターフォースワンの背中に傷ひとつつけてみろ、臨時政府で1番キツイ部署のデスクワークに推薦してやるからな。」


「なんだよアル、ここ数日で隊長も板についてきたじゃないか、やっぱり可愛い子には苦労させろってことだな」


 そんなことを宣うカイルをぶん殴りたい衝動に駆られ、拳を握りしめるがBS LINKコントロール中である自機の右手が拳を作っている事に気がつき、BTの中であったことを思い出す。


 今すぐBTを翻し、カイルの機体をぶん殴っても良いが軍の備品である機体を傷付けた場合、隊長であるアルベルトが始末書を書くことになる為、奥歯を噛みしめながらこの感情が過ぎ去るのを待った。


「カイル、それを言うなら“かわいい子には旅をさせろ”だ、誰のせいでこんな目にあってるとおもってんだ!……ったく!!」


 アルベルトがぶつぶつと呟いていると前方に白とスカイブルーのカラーリングが特徴的な船体が見えて来る。


「こちらスターフォースワン、パープル小隊歓迎する、後部ハッチに降りてください。」


「スターフォースワンこちらパープル1、了解した、歓迎感謝する。」


 デルタ陣形でスターフォースワンに接近すると後部ハッチが開き、誘導ビーコンに従って着陸すると機体を待機状態にしてコックピットから降りた。


 降り立った先には臨時政府閣僚数名と代表であるグレースが待っておりアルベルトを含め三人は直立不動で敬礼をするとニコリと笑い左胸を押さえて腰を折る。


「お待ちしておりましたパープル小隊の皆さん、現在臨時大統領をしておりますグレース・ケラーと申します。先日は助けて頂きありがとうございます」


「隊長のアルベルト・アダムス少尉です。いえ、当然の事をしたまで、、、と言いたい所ですが、お互い運良くキリギリで生き残れたと言ったところでしょうか」


「全くです、とはいえこの状況です、貴方たちは評価されて然るべきと私は考えております」


 アルベルトは軽く礼をしてグレースの前から一歩下がるとグレースは肯き隣に立っていたカイルに目を向ける


「貴方がガーランド財閥の息子さんね、軍の広報誌でよくお見かけしますが実物の方が男前ですこと。」


「私などをご存知とは、お褒めに預かり光栄です。大統領こそ映像で観るより嶺麗しい。よろしければ事態が収拾した後、是非ご一緒にランチなど如何でしょう?」


「まぁ、お上手ね。その際は是非ご相伴に預からせていただこうかしら。」


 隣で聞いていたアルベルトは仮にも大統領相手にランチを誘うなど正気の沙汰じゃないと思うがグレースの微笑みを見るとカイルなりに堅苦しい雰囲気を和ませようとしたのだろう。


 カイルがいつかの飲み屋で言っていたことだが「どんな相手であれ女性を見たら口説かないと失礼に当たる」らしい。


 この小隊を率いる者として胃が痛くなるがこれはこれでカイルの持ち味なのだろうと思う。


 カイルはアルベルトの気持ちなど露知らず、「是非、その際はエスコートさせていただきます」と腰を折り一歩下がる。


 グレースが次に目をやったのはアイリスの方だがアイリスはバツの悪そうな顔で目線を彷徨わせ、グレースがアイリスに近づき声を掛けると観念したのかグレースに向き直り敬礼した。


「アイリス殿下、お久しゅうございます。最後にお会いしたのはフレア城の勉強部屋でございましたか。」


「はい、お久しぶりですグレースせん……大統領。」


「そんな堅苦しい呼び方はやめてください。昔のようにグレース先生とお呼びくださいな。」


 ニコリと微笑むグレースに対してアイリスはバツの悪そうな顔に戻り返事を返す。


「私は銀河連邦の軍人です。最高指揮官である大統領に対してそのような口を聞くわけには参りません。」


「まぁまぁ、あのおてんば娘がねぇ。あなたのお父様国王陛下も気苦労が多くて大変ね」


「……なぁ、アルあの二人どう言う関係だ?」


「……噂話の類でカイルが知らないのに俺がしってるわけないだろ。」


 話をしている二人を横目にアルベルトとカイルは「いつも以上に機嫌が悪かったのはグレースに大統領との確執があったからか?」などと、どこかの誰かさんが好きそうな噂話をヒソヒソと話しているとグレースがこちらを向きその答えを教えてくれた。


「私が銀河史の学士だった頃フレア王室の家庭教師をやっていてね、アイリス姫は私の生徒第一号なのよ。」


 そう微笑むグレースに対してアイリスはため息混じりに「アイリス姫はやめてください、私は今連邦軍の准尉としてここにいるのです」と呟く。


 それに対してグレースは「はいはい准尉さん」と優しい眼差しを向けていると大統領の護衛である黒服の男がグレースに耳打ちをして目を瞑り、一呼吸置くと次の瞬間には先程の柔らかな雰囲気を隠していた。


 グレースはアルベルトの前に戻ってくると底知れぬ穏やかな表情で手を差し伸べ、アルベルトはその手を握るとグレースはもう片方の手でアルベルトの手の甲を包み込んで強く握る。


 この握手はエデンで最大級の敬意を表するもので一兵士にする事では無い為、周りにいた臨時政府の閣僚は驚き目を丸くする。


「これは大統領としての言葉です。今から始まる式典はただの授与式ではありません。あなたたちにはこれからこの“災厄の英雄”として式典に出ていただきます、これはエデン政府が健在である事をこの艦に乗船している民間人、そして無線通信で全銀河に放映します。」


 その言葉を聞きアルベルトとアイリス、カイルはポカンとした表情で思考がどっかに行ってしまいそうになる。


 アルベルトも今回の式典はある種、停滞した空気を払拭する為、スターフォースワンの民間人とアサヒのクルーに表彰式を放映するのは想像していたが、目の前の大統領は予想を遥かに上回る規模の事を構想しており、要約すると、全銀河に向けてアルベルトたちを英雄として祀ると言っているのだ。


 無線回線は一昔前の通信方法であり、銀河連邦ネットワークを通じたB粒子ネットワークとは違い、単純な無線通信の一種である為、情報自体の発信は出来るがタイムラグが大きく、ジャミングを受けている以上受信が出来るのか怪しい上に無線通信には欠点があるのだ。


「大統領それは、少し話が飛躍しすぎておりませんか?!しかも暗号化もされていない無線通信を銀河中に発信するなど、ダストに無線通信が理解できるのかはわかりませんが、相手はB粒子ネットワークをジャミングできる技術を持っている連中です!もし回線を何かしらの方法で辿ってダスト共が我々を追ってきたりしたら!!」


 アルベルトと同じことを疑問に思っていたのか、カイルがそう呟くとグレースは深く肯き言葉を返す。


「その心配はもっともです、ブラッティ艦長も同じくその点を心配しておられました。ですが、曲がりなりにも私は銀河連邦政府の大統領になってしまった。その手前、銀河連邦政府が健在である事を人々に知らせなければなりません。」


 グレースは瞼を開き、強い意志の宿った目でアルベルト達を一瞥し、言葉を繋いだ。


「皆さまも知っての通りですが、現在銀河連邦はすでに有って無い様なものです……。おそらく、多くの人々は寿司詰め状態の箱船で宇宙を漂流しているか、ダストの侵攻を必死に食い止めている星もあるでしょう。……だからこそ、銀河連邦という組織を維持する為には今回の放送を一人でも多くの人に見てもらう必要があるのです。……絶望の中、弱い人間が多くの困難に立ち向かうためには希望が必要です。人類が生存を諦めてしまわないように何か“象徴”が必要なのです……。私の我儘に付き合ってもらうことになり申し訳ありませんが、あなた達には希望の英雄象徴になっていただきたい。」


 アルベルトたち三人はその言葉を聞いて目を見開きながら顔を見合わせるがこの後に及んで辞退するわけにもいかないため、このまま成り行きに任せる事にした。

 アルベルトたちの反応にたいしてグレースは心なしか申し訳なさそうに「すでにスターフォースワンに収容されている怪我をしていないまたは軽傷の民間人は集まっています、あとは放映するだけです。会場はこちらです。」と言って翻しアルベルトたちは渋々と言った感じで船内を進んだ。




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