Chapter9
【強襲揚陸艦アサヒ所属 パープル小隊 スタンド付近】
『・・・応・答願う!こちら・・・エデ・政・・攻撃を・・・繰り返す!こうげ・・・」
その必死の通信に対してアルベルトは訝しむ。
送り主に対して通信を試みる為、機体の通信感度を調整すると先程の通信がクリアな音声で聞こえてきた。
「エマージェンシー!応答願う!こちらエデン政府専用機スターフォースワン!攻撃を受けている!!繰り返す!攻撃を受けている!誰か!誰かいないのか?!!」
クリアになった通信にアルベルトは目を見開いた。
「スターフォースワンだと?!」
聞き間違いでなければスターフォースワンは連邦政府の大統領が搭乗していることを意味するコールサインだ。
勘違いされ易いがスターフォースワンというのは艦名ではなく、あくまでもコールサインであり大統領が搭乗していれば、そこらへんの民間船であったとしてもスターフォースワンとなる。
「攻撃を受けているって……おいおい!まさか?!大統領の乗ってる船が襲撃されてるってことか?」
カイルが同じように目を見開き呟く。
「隊長!命令を!」
アイリスは語気を荒げアルベルトに指示を請う、アルベルトはその真っ直ぐ透き通ったブルーの瞳に焦った内心を平常に戻すべく大きく深呼吸をした。
「こちらLBTD-51強襲揚陸艦アサヒ所属 パープル小隊 アルベルト・アダムズ少尉、貴艦の識別番号を送れ。」
「まさか!識別番号C−0010243だ!!助けてくれ!もう持ちそうにない!」
通信には周りの怒号にも似た指示とアラートが鳴り響いている、船長であろう人物も戦々恐々としておりまともな通信はできそうも無いと判断した。
「パープル3識別番号は間違いないか?」
「はい、間違いなく政府専用のクルーザーです!」
その返事を聞くと同時に機体の背部ブースターに火を入れて加速させる。
「アル!お前一人で行く気か?!」
カイルのBTが機体を加速させようとするがそれをアルベルトが手で制す。
「パープル2・3は増援の通信をアサヒに入れてこの場を守ってくれ!スターフォース・ワンには俺が行ってなんとかしてみる」
「そんなむちゃくちゃな!ダストだったらどうすんだ!お前一機でなんとかなるわけないだろ!」
「そんなの一機も三機も一緒だろ!それより偵察も含めて俺一機が行ったほうが逃げるにしてもやりやすい。」
カイルはモニター越しにため息を吐き渋々了承するが、アイリスは命令を無視してアルベルトの機体について来ようとする。
「パープル3!これは
アルベルトが声を荒らげるとアイリスは物ともせず、その整った顔立ちに凄みを効かせて首を横に振る。
「ネガティブ。私は私の目でワスナー少佐を殺した敵を見定めさせてもらう!」
アルベルトはその真剣な顔を見て早々に話しても無駄と判断し、ため息まじりで編隊を組む様に指示を出した。
「全く、新生パープル小隊の初陣で命令違反とは、今までよく軍人をやってこられたな!」
「無駄口叩いていないで!もう少しで見えて来るはずよ!」
アイリスの言葉を聞き、改めて目の前を確認すると星の煌めきとは違う閃光が辺り一面に広がっている宙域が見え始め、機体の望遠機能を使い閃光の中心をピックアップすると、白とスカイブルーが特徴的な船体の周りを見覚えのある赤黒い物体が360度取り囲んでいた。
「パープル3俺の後ろに着け、敵陣を突っ切ってあの船舶を援護する。」
「了解、ケツは任せて。」
その心強い言葉に後押しされてアルベルトは背部のアフターバーナーを吹かし現場に急行する。
スターフォースワンの周りにいた赤黒い物体は、接近してくる物体を探知し、数匹がアルベルトたちに向かって来る。
アルベルトは瞬時にガンポットを構えて、照準を合わせると頭部に向かって引き金を引いた。
放った弾丸は一発二発と物体の頭部に命中して赤黒い物体は絶命する、二体目に狙いを絞り引き金を引こうとするがその刹那、アイリスが放ったスナイパーライフルの弾が頭部に命中して赤黒い物体は弾け飛ぶ。
スクリーン越しに目配せをするとアイリスはしたり顔でアルベルトを見て目線と顎で「早く行けと」指示をする。
その姿に隊長の威厳が全くないアルベルトは内心でため息を吐き、スクリーン越しのクールビューティーに苦笑いを返した。
そんなこんなを幾度か繰り返して敵陣を掻き分けスターフォース・ワンの元までたどり着くとアルベルトは通信を開く。
「こちらパープルリーダー!生き残りたいなら目の前が光った瞬間そのまま全速力で突っ切れ!」
「こ、こちらスターフォースワン、そんなことしたらアイツらに突っ込むことに!!」
「さっき俺も言われたばっかりで言えた義理じゃないが、無駄口叩いている暇ないんじゃないのか?!」
「くそ!パープルリーダー!死んだら化けて出てやるからな!!」
「安心しろ!これが成功しないと化ける相手も死んでんだ!お互いあの世で仲良くダンスと洒落込もうぜ!行くぞ!カウント3、2、1!今だ!!」
アルベルトは機体の閃光弾を全てスターフォースワンの前方に展開させて一気に発射する。
目の前が瞬いた瞬間アルベルトとアイリスの機体はスターフォースワンの船体に捕まり加速に備えた。
その刹那、スターフォースワンのブースターが点火され閃光の中に飲み込まれる。
スターフォースワンの乗員乗客は突然の加速で床に倒れ伏したり、炭酸入りのジュースがシェイキングされ膨張すると容器が圧力に耐えられず、現在のスターフォースワンを真似るかのように船内を飛び回り阿鼻叫喚といった様子であったが、幸いなことにヤツらは閃光弾が炸裂した場所には残っておらず細かいデブリがスターフォースワンのエネルギーシールドに弾き返されるくらいのものだった。
「やった、包囲を抜けた!」
オープン回線を切っていないのかスターフォースワンの歓声がコックピットに充満するが、アルベルトは「せっかくの歓喜に水をさして悪いが」と前置いて言葉を続けた。
「その歓声は無事にこの宙域から脱出できた時にとっといてくれスターフォースワン。このまま進むとスタンドが見えてくるはずだ。そこには俺たちの母艦が補給しているはずだから、合流してあとの詳しい話はうちの艦長に伝えてくれ。」
そう伝えるとアルベルトはスクリーン越しにアイリスの方を一瞥して命令する。
「パープル3は俺と一緒に遅滞戦術パターン3を取りつつ戦線を維持する!スターフォースワンと一定の間隔を保って後退!アサヒからの増援が来るまでヤツらを迎撃するぞ!」
アイリスは頷きスナイパーライフルの弾倉を変えてから閃光が治まった先ほどの宙域に向かって構え直した。
「来ました!推定150体以上居ます。」
アルベルトもレーダーを確認すると数えるのも嫌になるくらいギッシリと反応があり、舌打ちをしながら背部のスラスターに付けられているミサイルポットを展開すると一発のミサイルを発射する。
真っ直ぐと群れの方に向かうがヤツらは俊敏性を生かしミサイルから逃れようと旋回して、ホーミング限界点を突破したミサイルは運の悪いヤツら一、二匹を巻き込み爆発する。
「やっぱり効率が悪いか!」
それならばと脳味噌をフル回転させて射撃管制レーダーを操作し、近接信管の間隔と手動でミサイルのホーミング限界点を調整してから数発のミサイルを群れに打ち込む。
ダストは飛んできたミサイルを避けようと旋回するが今回のミサイルはホーミングせずひたすら真っ直ぐ飛ぶと群の中心で動きを止めた。
「隊長!何やっているんですか?!ミサイルのプログラム弄って不発弾量産するなんて!バカ通り越して逆に天才なんじゃないですか!」
独特な言い回しで罵倒してくるショートカットの悪魔に苦笑いを浮かべつつアルベルトはなるべく隊長っぽく自信を持って答える。
「まあ見てろって、あの化け物に目に物見せてやる!!」
アイリスは冷静なアルベルトの顔を無言で訝しむが今となってはなるようにしかならないと思い直しスナイパーライフルを構えて撃ち続けた。
不発弾となったミサイルに脅威がないと感じたヤツらは不発に終わったミサイルに見向きもせず夏の街灯に群がる蚊柱のように再度集結して前進を始める。
その瞬間を見計ったかの様にミサイルは群の中心で爆発した。
見事に点ではなく面での制圧をした為その爆発に数十匹の赤黒い物体は巻き込まれ四肢を四散させたり頭部をミサイルの破片で半分吹き飛ばされていた。
「だいぶ残っちまったか、パープル3!一匹も後ろに通すなよ!」
アルベルトの言葉に少し逡巡するがアイリスは奥歯を噛み締めて言葉を発する。
「くそッ!言われなくてもやってみせるわよ!!」
アイリスの機体がスナイパーライフルを構え連続で弾丸を発射すると文字通り束になってかかって来るヤツらの最前列へと真っ直ぐ飛んでいき、ライフル弾の威力は凄まじく一匹目の頭部を貫通して後ろにいた個体を巻き込み弾け飛ぶ。
アルベルトはガンポットを構えて弾丸をばら撒くがやはり一匹倒すのに数発は必要になってしまい1マガジンで倒せるのは5、6匹がやっとの状況であった。
数分の戦闘の末ヤツらとの距離はかなり迫ってきており包囲されないように残りのミサイルを全て使い何とかヤツらを振り切ろうとする。
「このままだとジリ貧だな、パープル3弾薬はどうだ?」
「残念ですが、このままだと後数分でなくなります。」
悪くなっていく戦況に内心で舌打ちをしつつアルベルトは再び頭をフル回転させてなんとか打開策がないか思案するが現状ではこの状況を維持するしか方法はなくアルベルトの背中に冷たいものが走る。
「隊長!敵増援多数!!」
「くそっ!!パープル3!俺の後方について増援のヤツらを狙え!密集隊形でヤツらを牽制する!」
了解と短い返事の後右側で迎撃していたアイリスが機体を翻してアルベルトの少し後方に移動するとスナイパーライフルを構える、二機のBTから連続で発射される弾丸は弾幕を張り群がってくる敵を寄せ付けまいと奮闘するがどう考えても劣勢であった。
機体の弾薬は残り数十発となりモニターにマガジンチェンジを知らせるレッドランプが灯るが、今ガンポットに刺さっているマガジンがアルベルトの持っている最後のマガジンである。
アルベルトは腹を括り、左手に装着されているシールドを投げ捨てると腰部に収納されているバトルナイフを構えようとするが、先に一匹の赤黒い塊が高速で突貫し、アルベルトの機体の胴体部分に体当たりを喰らわせると機体が錐揉み状態で吹き飛び、アルベルトは何が起こったのか分からないまま、四方八方から襲いかかるGに意識を持っていかれないように必死に堪えた。
「隊長!!」
アイリスはアルベルトを援護しようと銃口を向けるがちょうど赤黒い塊とアルベルトの機体が重なってしまっており、このまま撃ってしまうと弾丸がアルベルトごと貫いてしまう為、援護ができないでいた。
「アイリス!俺のことはいい!!自分に降りかかる火の粉を払え!!」
アルベルトはそう叫ぶと機体の胴体部に張り付いたヤツと目が合った。
その視線はアルベルトを貫くかのような眼差しであり、感情が垣間見える。
視線は確かに怒りを滲ませており、深淵を宿した瞳の奥には少しの悲しみと何処かやるせ無さを感じ取れた。
そのイメージはトラウマとなってアルベルトの網膜にこべり付く。
一度その感情を見てしまったアルベルトはその視線から目を離せないでいた。
アルベルトはその視線を確かに知っていた。
ずっと前から知っていた……。
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