Chapter6
【強襲揚陸艦アサヒ アルベルト自室】
艦長の艦内放送から数時間が経った。
真実を知った艦内は騒然とした雰囲気であったがその後BTや航空機などの搭乗員と飛行要員はブリーフィングルームに集まる様に言われ、中隊長であるイーサン大尉から事の顛末を伝えられた全員はさらに騒然としてしまった。
アルベルトとカイルは全てを知っている当事者なので冷静でいられたものだが今後のことを考えてしまうとアルベルトは気が気では無い。
「まったく……一体何がどうなっているんだよ……。」
アルベルトはマイナス思考な自分に嫌気がさし自室のベッドに仰向けに倒れると腕につけている端末“Bデバイス”を起動させ、セキュリティを解除してメッセージアプリを開くがアステロイドベルトでの一件以降通信が回復しておらず【メッセージを表示できません】とエラーメッセージが出てしまいため息を吐きながらBデバイスを閉じる。
「ナル、君は今どこにいるんだろう……。」
アルベルトはアステロイドベルトでの一件があったせいなのか、メッセージアプリでしかやりとりしたことのない女の子の事を思い出してしまう。
カイルには彼女とアルベルトの関係をよく揶揄われるが、アルベルトから言わせてもらうと別に好きでメッセージだけの関係を続けているわけではない。
過去数度、アルベルトは彼女に対して会いたいとメッセージで言ったことがあるのだが、彼女はアルベルトのいるエデンから遠く離れた場所にいる為会うことが出来ないと断られてしまったのだ。
女性関係に疎いアルベルトはそう言われてしまいどうすればいいのかわからなかったが、カイルに相談すると後々イジられて厄介だし、他に相談する相手もいない為「もし近くに来ることがあったら会おう。」くらいの事しか言えずそれ以来メッセージのやり取りだけの関係であり、カイルから言わせると「会ったこともない人間とそこまで長い間やり取りをするなんて時間の無駄だし、それに会ったことないならそもそも女性かも怪しい」と言っていたがアルベルトはそれでもいいと考えている。
“この世に意味がある事なんてないよ、物事に意味を持たせるのはあなた自身でありそれを大切にできるかどうかがこの先の人生の糧になるの。だからもう少し惰性で生きてみれば?”
これは唯一の肉親だった祖父母が他界した後、目標も夢もないアルベルトはただ惰性で下っていくだけの人生というのに意味があるのかと考えていた時“ナル”が言った一言だ。
なんとも無責任でありそして優しい言葉だとその時のアルベルトは思った。
それ以来彼女はアルベルトにとって唯一自分の内心を打ち明けられる人物であり心の支えになっている。
「総員に継ぐ、本艦はこれより二度目のドライブに入る船外活動中のものは直ちに艦内に退避せよ繰り返す…」
ベッドに寝そべり無機質な天井を見ながら過去にあった思い出に浸っていると不意に艦内放送が響き、アルベルトは起き上がると軍服を着て準備を始める、とは言ってもインナーをズボンに入れて上着を羽織るだけだが。
部屋を出ると目の前にカイルが手を挙げて待っていた。
「ダグアウト行くだろ?一緒に行こうぜ」
連れションに行こうみたいなテンションで言うカイルに軽く返事を返し
「このドライブの後ってスタンドでの補給だよな?」
「ああ、そうだな」
スタンドとは宇宙空間に一定間隔で配置されている無人の補給地点である。
星間国家連邦は当たり前だがその星と星の間がとんでもなく離れているため宇宙船が途中で補給することが難しい。
そこで連邦に所属する各国は無人で補給ができる補給基地を配置しているのだ。
そのスタンドの運営費はもちろん各国家が徴収している税金で賄われており、連邦人は一定のクレジットを払うことによって使用することができる。
もちろん中には連邦軍が用意した軍艦しか使用する事のできないスタンドもあり、そういう場所は原則として民間人が使用出来ない事になっているが、この設備が整備され始めてからというもの旅行先でガス欠して大宇宙を漂流、連邦軍が出動して救出されるマヌケが少なくなったと聞いたことがある。
「スタンドの先行偵察任務か、艦長はここまでダストが来ているとお考えなのかね?」
「さあ、念には念を入れてってことじゃ無いか?正直今回ダストが確認されたアステロイドベルトはエデンから近すぎる、もっと遠い恒星系だったらまだしもドライブすれば1日かからない距離だしな。」
銀河連邦は政府がある惑星エデンを中心に250以上の恒星系からなる連邦であり、この銀河の60%を掌握している超巨大組織であるが、そんな連邦の端から端に横断するとなると、ドライブを絶え間なく使えて1ヶ月以上かかってしまう場所もあり、パープル小隊の新メンバーであるアイリスの住んでいた惑星フラウにエデンから行くとなると二週間はかかる。
長いと感じてしまう者も多いと思うが、これでもだいぶ良くなった方で約1500年前は高速航行のみで星系を繋いでいたのでありドライブ航行とは人類が数百年間研究した成果であり、画期的な発明だった。
ちなみに今でもフロンティア精神旺盛な開拓者達が連邦勢力外に出向きテラフォーミングしており、まさに今は銀河大航海時代と言っても過言では無い。
「でもよ、なんで俺たちが先行偵察なんて重要な任務を任されるんだよ、こっちとらヨチヨチ歩きの新米隊長率いる寄せ集め小隊だぞ?」
「諜報部が“近所で火事が起きたから見て来てくれ”くらいの勢いで命令してきて、部隊編成が終わる前に出港したから人手が足りていないんだよ。イーサン大尉は俺たちより経験の浅いライダーはアイリス准尉以外使い物にならないって判断して待機命令が出てるし、母艦のイーサン大尉の新生イエロー小隊にはアサヒの直掩任務がある。」
「とは言ってもなぁ、それだと艦長からしたら俺たちがどうなってもいいって言っているようなもんだぜ」
「カイルは替の効く命と自分のマイホームどっちが大事だ?」
「そりゃ、マイホームに決まってるだろ?」
「そういう事だよ。」
「納得いかねぇ〜!!!」
そんなこんな話をしているとダグアウトへ着く。
ダグアウトの中には今回の任務に出るBT部隊のライダーがすでに集まっており、敵勢生命体であるダストの出現やイエロー小隊とワスナーが戦死した事を先程知ったアルベルトとカイル以外は、いつもよりピリピリとした雰囲気を漂わせている。
アルベルト達がダグアウトを進み始めると通り過ぎたライダーから舌打ちが聞こえて立ち止まった。
アルベルトが振り返り、見定めた先にいたライダーの顔を確認すると、そこに居たのはライダースーツの上半身部分を肌けさせ、筋肉を見せ付けながらベンチに座るライダーが薄笑いを浮かべている。
その顔を見てどこかで見たなと思い、思考すると思い出されたのはアイリスをスカウトしていたときにレクリエーションルームで絡んできたライダーの一人であった事を思い出す。
「お前らがグズだったせいで、イエロー小隊がやられた挙げ句、自分達の隊長を見殺しにしやがった。」
「どうせダストが出たとか言うのも嘘で、そこのブービー賞が昇進したくてワスナーを後ろから撃ち殺したのかもしれねぇな?!」
その言葉を聞きアルベルトは頭の中が沸騰したかと錯覚する程の感情を爆発させそうになるが、隣にいたカイルの手が振り上げようとしていたアルベルトの腕を押さえると首でこの場を離れるように合図する。
アルベルトはカイルを見て歯噛みするがそのライダー達に背を向け、自分たちの名札がついているロッカーに足取りを進めた。
「アル、気にするな。この先嫌でも奴らの正体を知る羽目になるんだ、そん時アイツらの泣きズラを拝んでやればいいさ。」
「ああ、ありがとうカイル。」
お礼を言うアルベルトに対してブロンドの髪の毛をかき上げる仕草で返答するカイルを見てアルベルトはニヤリと笑って返す。
自分の名前のロッカーに辿り着きアルベルトは腕の端末をロッカーに翳すと“ピッピッ”と電子音がしてロッカーのロックを解除し、中からBT専用のライダースーツとヘルメットを取り出しパンツ一丁になると装着し始める。
ピチピチで着るのにも一苦労するこのBT専用のライダースーツはBTライダー一人一人に合わせて作られる専用スーツで非常に高価なものらしい。
噂では1着でエデンの中古マンション一室が買えてしまうとか、まぁアルベルトが個人で買える代物ではない事は間違いない。
ライダースーツは特殊な素材で出来ており、手触りは合皮の様であるがもちろん皮で作っている訳ではなく宇宙服としての機能もありツナギになっている。
両手の肘と手首、腰から両足の膝、足首と脊髄を添うように三角形状の特徴的な装置がついており、その装置と同じものがBTのコックピットにも付いており座席に座るとBTと肉体をリンクさせ、機体のB粒子と人類全員がそれぞれ持つB粒子を同調させることができ、ヘルメットで脳波を読み取ることで6メートル以上ある巨体をラグなく操る事ができると士官学校で習ったが外見はナントカレンジャーとナントカライダーを足して二で割った感じなので知らない人が見たらただのコスプレ集団に見えなくも無い。
着替え終わり自分が乗る機体のチェックをしにハンガーへ向かうアルベルトとカイル、その途中で黒髪ショートカットで青い瞳を持つアイリスがライダースーツ姿で待っていた。
ライダースーツ姿の彼女は数時間前に見た軍服姿のワイルドな感じとは打って変わり、曲線のラインを全面に出す姿でいろいろな部分を凝視してしまわない様に意識して彼女から目線を逸らしつつ軽く敬礼をする。
「やぁ!アイリスちゃん、まさか君と同じ隊になるとは思わなかったよこれも鮮血の女神のお導きかな?」
カイルはアイリスに片手をひらひらとさせながら近づくがアイリスはそこらへんのゴキブリを見るかの様な眼差しをカイルに向けていた。
「カイル、アイリス准尉を知っているのか?」
「俺を誰だと思っているんだアル、この艦のめぼしい女性は頭に入っているさ!その中でも超S級美少女でVIPなんだ忘れるわけもない」
「ああ、そりゃそうか」
まぁ、アルベルトですら知っているくらいだしカイルが知らない訳ないと思い直すがこれだけ馴れ馴れしく話しかけるって事は面識があるって事だと思いそこに着いてカイルに聞いてみるとアサヒに任官した時速攻声を掛けに行ったそうだが案の定軽くあしらわれた挙句一言「宇宙は広いと聞いていましたが金色のゴキブリなんていたんですね眩しいから消え去ってもらえますか?」とカイルのブロンド髪を見ながら言われ返り討ちにされた以来声をかけようと思っても避けられていたらしい。
なんともまぁカイルの節操の無さとアイリスの毒舌にはアルベルトも苦笑いしか浮かべられない。
この微妙な雰囲気を脱却するべくアルベルトは本来の目的、パープル小隊の連携に関して打ち合わせを始めた。
本来であればちゃんと別の機会に打ち合わせをしておきたかったがこの非常時だ、仕方なくハンガーでの打ち合わせを進めて行く事にする。
「アイリス准尉待たせてしまってすまない、改めて今日から3人でやって行くわけだが簡単に役割を決めようと思う、ある程度戦闘データは俺も頭に入れているけど准尉は主兵装がスナイパーでいいのかな?」
「はい、問題ないです。」
「なるほど、じゃあ俺とカイルは前衛アイリス准尉は後衛を任せる形でいいか?」
「俺はそれで大丈夫だ、アイリスちゃんが背中を守ってくれるなら安心して害虫駆除に勤しめるし」
「ダストとゴキブリを見間違えて弾丸をお見舞いしない様に気をつけます」
「はは!アイリスちゃんは手厳しいなぁ、そんな事より今度食事でもどう?」
アルベルトは毒を吐くアイリスとそれを受け流すカイルの攻防を眺めつつ大きなため息を吐くしかなかった。
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