Chapter4

【強襲揚陸艦アサヒ ブリッジ】



「艦長入られます!!」


 ビシッ!と制服が鳴るほどキビキビと敬礼する船員に軽く敬礼を返しブリッジ中央にある艦長席にブラッティは座る。


「マジメン、司令部と連絡は取れたか?」



 マジメンはこちらを向き敬礼をして発言する。

「先ほどから緊急通信で試していますがまだ取れていません、既に時空変動の影響下を抜けて居るのですが……。」



「そうか、引き続き試してみてくれ」

「了解しました、艦長。」



 返答を返しマジメンは通信手とやりとりを再開する。

 司令部の連中がいくら無能だからと言ってここまで連絡が取れないのは明らかに異常事態だと思う。

 アサヒの通信設備が壊れている可能性もあり得るかと一考してみるが通信手とやりとりをするマジメンを見てそれは無いと断言する。



 マジメンはこのブリッジクルーの中でも最年少であるが生まれながらのサヴァン脳で、見たものや聞いたことを一瞬で覚えてしまうという天才として有名であった。

 その才能を買われ連邦軍からスカウトされ、しばらくBT部隊のライダーとして訓練を受けていたそうだが、BSとの同調率が合格点から4点足りず、仕方なく自分の能力を生かせる場“司令部付き情報参謀補佐”として活躍をする事になったそうだが、本人から聞いた話では司令部でも最年少であるマジメンに対してのやっかみやイジメなども多く早く司令部付きを辞めたかったそうで、そんな時目の前に降って湧いた任務がアサヒへの任官であったそうだ。



 なんでもブラッティの武勇伝を記した書籍が一番のお気に入りでなんでも一度見ると覚えてしまうサヴァン脳の彼には珍しく何度も読み返した本だったらしい。



 まぁ、その武勇伝の執筆者はブラッティでは無く所謂ゴーストライターが書いた物だが。



 マジメンと仕事をし始めてまだ半年と経っていないが彼の仕事の速さと正確さは正直ビックリする程で、一度伝えた事や教えたことは全部覚えている為間違うこともない。

 まるでロボットの様である為艦内では“マジメンロボ”と揶揄されているがそれだけこの艦のクルーが彼を信頼している証であると言える。



 話が脱線してしまったが、そんな性格の彼が初歩的な確認不足をしている可能性はないと言っても過言ではない。



「先任曹長、少佐はどこに居る?」


「ムラサメ少佐なら報告書を作成するとかで自室にいるかと」


「そうか、集中している所を邪魔してしまうが仕方ない、先任マイクを。」



「アイアイ艦長」



 先任曹長はマイクをブラッティに手渡し敬礼すると前を向き慌ただしく動くブリッジを見渡す。

 それに釣られブラッティも前を向くと口元にマイクを押し当てスイッチを押した。

 艦内に短くブザーが鳴りそれを聞いたブリッジクルー一同が今やっている作業をやめて私の方を向く。


「艦長のブラッティ・フォン・ビルドだ総員に報告する……先ほどの哨戒任務についていたイエロー小隊とパープル小隊が未確認敵性勢力と交戦イエロー小隊とパープル1が撃墜され、全員の死亡が確認された。」



 その言葉に艦内に動揺が走る。

 ブリッジクルーの動揺が収まるまで少し間を開けてブラッティは今回の敵性勢力がダストである可能性を話しさらに艦内は騒然とした。



 なにせ100年の時を超えて現れた人類共通の敵であり、“災厄”とまで言われた物が我々の周りにいる可能性が高いとなると否が応でも空気は重くなるものだろう。

 内心のブラッティも共にその空気感にのまれたいが、残念なことにブラッティの立場がそれを許してくれない。

 そんなことを内心でヤレヤレと思いつつ再度マイクのスイッチを押し、“艦長として”ブラッティは話を続けた。



「皆、言いたい事はあると思うが我々はまだやることがある。言葉を飲み込み前進しなければならない!我が艦は現時点を持って時空変動の調査を終了し、航路を惑星エデンに取る、各員気を引き締めてかかれ!!」



 ブリッジ全員が動揺を隠しつつ敬礼をブラッティにして持ち場に戻っていく。

 ブラッティは口元に当てていたマイクを少し離し「ふぅ」とため息をひとつ吐いた。



「年は取りたくないものだな先任、こんな時に艦長など私には殆運がない」

「何を言っておりますか艦長、今は皆動揺していますが全員艦長のことを信頼しております。」



 その言葉にブラッティは少し微笑み先任の顔を見る。

 褐色肌が特徴的なダマスカス人である彼は、ブラッティと同い年にも関わらず若い時と同じで筋肉質で腹のたるみも無い、ブラッティは以前その秘訣について聞いてみたことがあるが彼曰く「毎日少しの運動と規則正しい食生活、そしてよく寝ること」だそうだ。


 ブラッティも同じ生活をしているつもりだと言うと「艦長になってから座ってばかりでは無いか?」と言われ、彼の日課である艦内ランニングに誘われたが全長が一キロ近い艦内を下の階層から順に上がっていくというルートを聞いた時謹んでお断りした。


 先任曹長とはブラッティが現役のBTライダーだった頃からの付き合いであり、彼は指揮管制クルーで立場は違えど、反連邦との戦闘を幾度となく戦地を渡り歩いてきた今となっては数少ない戦友であり、若い頃剃りが合わず何度もやり合った仲だが、その分ブラッティはこの男を信頼していた。


「ヤレヤレだが、君にも仕事をしてもらうことになりそうだ、君には戦術指揮官としてCDC(コンバット・ディレクション・センター)を任せたいが良いか?」

「何を今更、このロートル最後の大仕事になりそうだ、せいぜい気張りますよ」



「先任、残念だがこの状況では我々の定年は伸びそうだぞ」



「それはそれで退職金がガッポリ貰えるから良しとしましょう」



 先任曹長はその褐色の肌に深く刻まれたシワをさらに深くし、敬礼をしてブリッジの下の階にあるCDCに向った。


 ブラッティはそれを見送り艦長席に深く座るとジッと艦中央にあるホログラムスクリーンを見つめる。


 スクリーンには艦の現在位置とエデンの位置関係が赤い点で記されておりマジメンがドライブ航法に入る準備をしている様であった。



「艦長ドライブ航法の準備完了、ここから短距離ドライブと通常高速航行を組み合わせて18時間後に到着予定です。」


「ふむ、なるべく早くこのことを報告したい、残燃料のことは気にしないでいい12時間でつけないか?」


「わかりました、ある程度無茶をすると思いますが計算し直してみます。」


 マジメンは軽く敬礼をして持ち場に戻っていく、それを見送るとブラッティはもう一度ホログラムスクリーンを睨んだ。



(もしあの生物がダストだとして、こんなエデン近くのアステロイドベルトまで来ているとなると他の星系はどうなっているのか。)



 ブラッティがこの任務の説明を受けたのは一ヶ月前だった。

 アサヒはリアクターのオーバーホールと兵装の更新で一度エデンに戻り部隊を再編成している矢先にこの任務が舞い込み、本来であれば戦闘部隊などを含めて5000名以上の運用を想定されているアサヒが、今回の急な任務で集められたクルーは半分ほどであり、部隊が足りていない上に、今までブラッティを支えてきた虎の子のBT隊は世代交代を目的とした配置転換をしたばかりであった。


 実戦経験者はイーサンを含めて戦死したイエロー小隊のメンバーと数名がいるのみで、後のメンバーは経験不足のライダーが数名乗っている程度である。

 今回の一件で異例ではあるが隊長に就任したアルベルトも報告書を読む限りまだ新米であり、実戦配備にはまだ早いとブラッティは考えているが現状で他に頼めるライダーがいない為とった苦肉の策であった。


 当初この状況でこの任務を受けることはできないと言ったのだが、諜報部がでしゃばって来て“奴の名前”で直々に頼むと頭を下げられたのだ。


 “奴”のことは好きではないが、“奴”なりの信念で銀河連邦議員になり国務長官まで上り詰めたことは尊敬に値すると考えていた為、渋々受けることにした結果この有様だとブラッティは、頭の中でスーツを着た太々しい姿の議員様を思い浮かべ毒づく。



(このポイントを割り出し、命令通り無線封鎖をして10日、それまでは各星系から非常事態の連絡などは来ていなかった。ピンポイントでこのエデンのみが狙われているのか?どの道かなり危険な状態になっていることに変わりはないが……。)



 その思考の渦の中に答えはないことは解っていてもなんとも嫌な感じが付き纏う。



「早く戻らなくては」

 そう呟きブラッティは艦長帽を深く被り直した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る