World According to Blood

第0話 デッドセット

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【遥か遠い銀河系の彼方】



「一体、あの一瞬に何が……。」



 目の前には、無数の黒点が広がっている。

 彼はコックピットの中、重たい体を引き起こした。



 味方とのコンタクトを取るため通信回線を開くと聞こえるのは、赤ん坊が泣くように助けてくれと懇願する者、炸裂音、劈く悲鳴、殺伐としたノイズ。

 地獄の釜から漏れ出てくるのかと思うほどの声が蠢いていた。


「クソ……!誰か!誰かいないのか?!」


 自分の周囲を見渡すが辺りに広がっているのは惨憺たる現状であり、火を噴きながら沈黙する戦艦、搭乗機が爆散し、文字通り宇宙そらの藻屑になったともがら


 自分の居る場所が理解出来るのはそれから数秒経ったころ、目の前で赤く光るモニターには自身が乗っている人型兵器の被害を受けた個所が記されている。



BSブラッドシステム は生きている、リアクター出力が上がらない……くそ、血をばら撒きすぎたか…」



 自分の血液をエネルギーとする人型汎用血戦騎兵ブラッド・トルーパーでは被弾=血液の枯渇つまりは死を意味する。

 フラフラとしながら目の前にあるモニターを操作し始め自分の乗っている機体は動き始めた。



「ここはどこだ?母艦は!無事なのか!?」



 レーダーで自分の位置を把握するとどう頑張ってもここから数時間かかるであろう遥か遠い場所に味方の反応を見つけた。



「クソッ!……戻らないと!」



 スラスターを蒸して合流ポイントまで向おうとするが緊急通信とモニターに表示され、

 オペレーターの震えた声が自分の鼓膜を震わせる



『こちらエデンHQ《ヘッドクォーター》現時点を持ってオペレーションデルタを発令。生き残った者は合流地点アルファまで後退せよ…繰り返す…』



「馬鹿な!そんな事をしたらエデンは!エデンに残っている人達は?!!」



 エデン、彼が産まれ、育った故郷だ。

 その愛すべき故郷に黒と赤を大量に混ぜた色をした、エデンより幾分小さい球体が近づいていき、 必死に故郷に近づこうと機体を飛ばすが赤黒い球体はエデンにどんどん近づいていく。



「くそ!どうして!どうしてこんなことに!」



 味方の IFF敵味方識別装置は赤黒い球体に飲み込まれ少なくなっていき、この近くには自分一人しかいない。

 赤黒い球体はついにエデンを捕食するように地表を喰らい始め、やがてエデンの地表を半分ほど飲み込もうとしていた。


 焦る気持ちを抑えられず、レブリミットまでリアクターを噴かし進もうとした瞬間、彼の正面に現れモニター越しに睨みつける赤黒い物体。


 体の限界はすでに超えており、失血で薄れ征く意識の中気がついた事、それは愛機を覆い隠せるほどの巨体であり人型の何かである事。

 モニター越しには有機物なのか無機物なのか彼にはわからない、だがただ一つわかることがあるとすれば、彼の目の前に佇む赤黒いモノの頭部と思われる場所に鈍く光る瞳。

 その瞳が宿している感情は“憎しみ”であるという事だった。


 彼はその感情に充てられ全身に悪寒が走り愛機の右手に持っていたガンポットの銃口をその相手に向け引き金を引いた。

 体にある酸素を全て吐き出すようにして叫び声を上げ、放たれた90ミリの弾丸はマズルフラッシュと共に目の前の怪物へと襲いかかるが、怪物は物ともせず佇みジッとこちらを見つめている。

 10秒もたたずに弾倉が空になるとガンポットを投げ捨て腰からバトルナイフを取り出そうとするがそれを怪物は許さず、彼が操る人型兵器のコックビットがある胴体に向けて禍々しい右手を伸ばし鷲掴みにして、機体ごと握り潰そうと徐々に力を込めていった。

 信じられない程の握力で握られた愛機は金属が擦れるような悲鳴をあげ、コックビットのモニターはアラートを鳴り響かせるがそんなもの今となってはなんの役にも立たない。


 彼の運命は怪物に見つかった瞬間に決まっていたのだから。



『…く…そ……バケ…モノ…め…。』



 この真空に響くことはない捨て台詞を吐く彼にもそれなりの幸せがあったし、生きるための努力もした。

 その最後を看取ったのは目の前の怪物。

 そんな死んでも死に切れない彼の魂は愛機の BSブラッドシステムから漏れ出した Bブラッド粒子となって輝き、深淵へと解き放たれる。



 その魂の光を怪物はただ不思議そうに観ていた。






 ---星間戦記ブラッドトルーパーズ---


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