幼馴染がヤンデレ吸血鬼になってしまって正直怖い

真木ハヌイ

ヤンデレ吸血鬼と僕

 吸血鬼なんて、空想上の存在だと子供のころは思っていた。


 でも、今は……。



「あっは、タカシってば今日もおいしそう」


 と言いながら僕を見つめる制服姿の女の子。僕の幼馴染で、名前はミクだ。僕と同じ十六歳で、僕と同じごく普通の高校生……だったのは今から二週間前までの話だ。今の彼女は、もう普通じゃない。僕と同じ黒い髪をしていながら、その瞳は真っ赤だ。うっすら開いた口からは鋭い牙がのぞいている。


 そう、僕の幼馴染は……吸血鬼になっちゃったのです!


 そして、僕は今、そんな彼女の部屋にいて、そんな彼女のベッドに寝かされていて、そんな彼女に馬乗りになられて、そんな彼女の赤い瞳でうっとりと見つめられている。子供のころからよく知っているとはいえ、ミクは人形のようにくりっとした瞳の、かわいらしい顔立ちの女の子だ。


 でも今は、その瞳は赤くまがまがしい光をたたえている。ちょっと幼い外見に似つかわしくないほどの。


「ミク、こんなことはもうやめるんだ」


 僕はそんな変わり果てた彼女を見て、言わずにはいられなかった。普通の人間だったころのミクはどこに行ってしまったんだろう?


 しかし、


「何言ってるの、タカシ。ほんとは私にこうされてうれしいくせに?」


 ミクはあやしく微笑み、僕の股間の上で腰をくねらせた。僕の感じやすいところにミクの太ももがこすれて当たる……。


「だ、だめだ……そこは……」

「やだ。私たち、もう何回もここを使って楽しんだはずでしょ? 何をいまさら、はずかしがってるの?」


 ぐりぐり。ミクはさらに僕の股間を責めつづける。


「ち、ちがう! それはお前が無理やり――」

「でも、私の中でいっぱい感じたでしょ、タカシ」


 と、ミクはそこで僕の唇に指をあて、反論の言葉を封じた。


「私もタカシと一つになって、いっぱいいっぱい感じちゃった。あっは。こんなふうにタカシと楽しめるんだから、人間やめて吸血鬼になって正解だったわ」


 ミクは再びあやしく微笑んだ。そして、僕の上で腰をくねらせながら、その動きに合わせてリズミカルに制服のブレザーとシャツを脱いでいった。


 やがて、ブラジャーとスカートだけの姿になったミクは、僕の右手を取り、自分の左胸にあてがった。


「ほら、ここが吸血鬼の弱点。私の一番弱いところよ。タカシにだけ触らせてあげる」

「ふ、普通の人間だって心臓は弱点だろう」

「そうね。でも、こういうふうに弱いところをタカシに触られてるって思うと、私、すごくゾクゾクしちゃう」


 ミクは僕の手をさらにブラの下に押し込んだ。幼い顔立ちながら、ミクの乳房はけっこう大きい。そのやわらかい感触が手から伝わってくる。


 うう、だめだ、このままだと、またいつものように何もかも吸いつくされてしまう。


 逃げなければ。今日こそは逃げなければと思った。しかし、僕の意思に反して体は鉛のように重く動かなかった。ミクが吸血鬼の魔力で、僕をベッドに縛り付けているのだった。


 そう、ミクが吸血鬼になってから、僕は毎日のようにこんなふうにミクに襲われ、もてあそばれ続けている。吸血鬼だから血を少し与えれば終わりってわけじゃないんだ。


 なんせ、ミクは、僕をこうして支配するためだけに、自分から進んで吸血鬼になったらしいんだから……。


「私、子供のころからタカシだけを見てきたのよ。でも、タカシってば、私がどれだけ好きって言っても、女の子として意識できないって答えるばかりで」

「そ、そりゃ、幼馴染なんてみんなそんなもんだろう。子供のころからずっと一緒なんだ。異性として意識するにはあまりにも近すぎるっていうか、きょうだいみたいなもんっていうか……」

「ウソ。この二週間、タカシの体は私を女として楽しんでたじゃない」


 ミクは自らの指をなめて唾液で濡らし、やがてそれを僕の胸板に這わせた。そのぬるっとした生暖かい感触に、一瞬体がびくっと震えた。


「ミク、もうこんなことはやめるんだ。吸血鬼の力を使って、子供のころからの幼馴染の僕をおもちゃにするとか、どう考えてもまともじゃない。なんとかして一緒に、普通の人間に戻る方法を探そう!」

「人間に? 戻れるわけないじゃない。私は、伝説の吸血鬼の遺物を体に取り込んだのよ」


 ミクは僕に牙を見せつけるように、口を大きく開けて言った。


 ああ、やっぱりそうなんだ……。僕は絶望で頭がくらくらした。


 そう、今から二週間前、ミクはルーマニアの古城でそれを発見したのだという。なんでも、ルーマニアには吸血鬼の専門家をやっているミクの親戚が住んでいて、ずっと前から一緒にそれ――すなわち、伝説の吸血鬼の遺物を探していたのだとか。


 そして、その力を手に入れたミクはごらんのありさまだ。美しくも、ひたすら淫靡に僕を責め続ける怪物になり果ててしまった。


「でも、伝説とは違って、吸血鬼には血を吸った相手を完全に支配する能力はなかったわね。私に何度吸われても、タカシは人間のままだし」

「あ、当たり前だ! 僕もお前みたいな怪物になってたまるか!」

「怪物? うふふ。その怪物に毎日気持ちよくされてるのは、どこのだーれ?」

「う……」


 そりゃこんなふうにされたら誰だって……不可抗力ってやつだ。


「だ、たとえ、僕の体がそんな感じになろうと、僕の心はお前なんかのものにはならないんだからな!」

「まあ、それって最高!」

「え」

「だって、口では嫌がりながらも感じてるタカシを責め続けるのって、すごく気持ちがいいんだもん。これからも、もっといっぱい私に抵抗してね」

「ミ、ミク、そうか君は……」


 僕はその瞬間、はっと気づいた。ミクは吸血鬼の力を手に入れたから、怪物になったんじゃない。そのずっと前から、怪物だったんだ。


 そう、僕をどこまでも求め続ける「ヤンデレモンスター」という……。


「タカシの熱いエキスで、今日も私をいっぱいにしてちょうだい」


 ミクは下唇をなめながらそう言うと、僕の首筋に牙をつきたてた。

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幼馴染がヤンデレ吸血鬼になってしまって正直怖い 真木ハヌイ @magihanui2020

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