第15話 自由と不測の事態
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≪―――オォォォォォォン≫
「神の奇跡を化け物が使うか。まったく厄介だな」
天魔の纏うオーラの輝きが増した。この個体もご多分に漏れず奇跡を起こせるようだ。
天魔が脅威とされている理由、その最たるものが奇跡を起こせるという事。
人間が起こす奇跡と同じなのかは分からないが、もしランク:神と同レベルの奇跡を放てる個体であれば、街の壊滅は免れない。
「……身体強化系か?」
天魔が起こした奇跡は身体強化系のようだった。
その証拠に、先ほどとは見違えるほどに走り回るスピードが上がった。
グルグルと俺の周りを駆け回っている。もしこれしか奇跡を持たないのであれば、リヒャルド達は安全だ。
俺が逃がしはしないからな。
≪――――グオォォン!!≫
「……あっちはまだか。もう少し時間を……」
俺の隙を見ては鋭い爪と牙を使い、切り裂こうとしてくる天魔を王剣で受け止める。
止められた天魔は再び周りを縦横無尽に走り回り、再び俺の隙を伺い始めた。
ワザと隙を見せれば例外なく突っ込んで来る。それは果たして知能が高いのか、低いのか。
どちらにしろこの個体はここまでだ。この程度の力では、神の名を関する
――――それであるならば、生かしておく価値はない。
まあいかにこの天魔が脆弱だろうが、通常は天魔と言えば天災と呼ばれるほど。一部の者を除けば、それは滅びの象徴であり抗う事の出来ない災害なのだ。
「……少し傷を作っとくか」
≪ガァァァァァ!!!≫
再び見せた隙に、的確に攻撃を仕掛けてくる。
すれ違いざまに奴の足を切り刻み、動きを抑制する。俺も多少、肩を抉られてしまったが問題はない。
傷はこのくらいでいいな。大した傷ではないが、見た目だけならばそれなりだ。
≪グルゥゥゥゥゥ……≫
「終わりか? そんな様子見しても、何も変わらねぇぞ? 逃げようとした瞬間に殺す。それが嫌なら向かって来い」
人の言葉を理解する天魔は存在する。この個体もそうなのか、俺の言葉に反応する仕草を見せている。
悪魔とは違い無能ではないのだ。圧倒的な力の差が分かれば、己の命を守るために逃走を図るだろう。
それでは困る。リヒャルド達の戦闘が終わりの様相を見せるまでは、付き合ってもらおう。
ほら、俺はお前と同等以下の存在だ。逃げずに向かってこい。
お前はちゃんと、俺の肩を抉る事が出来たのだから。
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「――――翼竜残り一!! 向かって来ます!!」
「恐れる事なしッ!! 撃ち落とせ!!
ガハルド指揮の壁上防衛地は、ほぼほぼ戦闘を終えようとしていた。
元々飛行型の悪魔は数が一番少ない。他の防衛地に比べて強力な悪魔は何体かいたが、
そのため全に劣る全など、脅威とはなりえない。
「――――翼竜撃破ッ!!」
「ガッハハハハ!! ぬるいッ!! この程度か悪魔どもよ――――」
「――――悪魔接近!! 数六!!」
「ぬぅお!? こ、攻撃の手を緩めるでない! 残りは雑魚だけだが、気を抜く出ないぞ!!」
お前が言うなよ、みんなそう思っただろう。上官のため口に出せはしないが。
指揮官はちょっと頼りないが、特に問題なく戦闘を終わらせた壁上部隊。
残存ずる悪魔を殲滅したのち、西門の守備の応援へと向かう事になる。
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「――――オリャァァァァッ!!」
「ミラード! 出過ぎだ! 守護師より前に出るな!!」
「は、はい! すみません!!」
レイシィ指揮のもと、激戦化していた西門の防衛地も素晴らしい戦果を上げていた。
一体たりとも市街区には悪魔を通しておらず、負傷兵も微々たるものとなっていた。
「彼の者を癒す奇跡をここにッ――――奇跡・快癒!!」
「射貫け疾風、奇跡・疾矢!! ――――カイル!! 矢がもうない!!」
「うん! これを使ってッ!!」
西門の防衛に加わったミラード達も、新兵とは思えないほどの働きを見せ、防衛に貢献していた。
他の守備隊や冒険者の士気も下がっておらず、その表情には一切の悲愴は見られない。
それもこれも、この場を指揮しているレイシィ・ミストリアの、優れた統率力と戦闘力がそれを成し遂げていた。
「――――はぁあああ!!」
しなやかに細剣を振るい、軽々と悪魔を屠っていくレイシィ。
悪魔を滅しながらも、戦況に目を向け的確な指示を部隊に与えている。
そのかいもあって、悪魔の群れは徐々にその数を減らしていた。
「一気に決めるッ……全隊、突撃します!! 私の後に続きなさい!!」
「「「オオォォォ!!!」」」
「――――神の吐息、奇跡の風を今ここに。神風一陣となりて、敵を吹き飛ばせ!! 奇跡・旋風突ッ!!」
レイシィの突撃により開けた道に、全部隊が打って出る。
数少なくなった悪魔は最早、脅威とはなりえなかった。
ガハルドを含めた壁上部隊も駆け付けたため、戦力はさらに増大している。不測の事態でも起きない限り敗北はあり得ない。
しかしこのまま門の内側で防衛していては、ただ時間が掛かるだけなのだ。
物資も減れば体力も減る。それであれば打って出て、可能な限り早く戦闘を終わらせたいと思うのは当然であった。
「全隊突撃ッ!! 悪魔を殲滅しなさいッ!!」
「オオオオオッ!!!」
――――これでお終い。
指揮官も居らず、数も少ない悪魔などただの烏合の衆。そもそも大抵の悪魔には感情がなく、恐怖や不利を悟る事はない。
ただただ目の前の人間に攻撃を仕掛けてくるだけの、狂った化け物。
どう足掻いても勝てない戦なのに、人間とは違い撤退という戦略は持っていない。
ただ狂ったように突撃する事しか出来ない化け物――――そのはずだった。
「……ん? この……動きは……?」
不測の事態は訪れた。
西門を出て、掃討戦に移行したレイシィ達。その眼前には半円状で西門を囲む悪魔群れ。それ自体は特におかしい事ではない。
問題は、悪魔どもがこちらの様子を窺っている事。高位の悪魔は人の感情を理解し、理知的な行動を取るという話は聞いた事があるが、この場にいるのは高位悪魔ではない。
それなのに様子を見ると言う、理知的な行動を取っている。
それどころか、こちらが一歩踏み出すと、一歩後退すると言う行動を取って見せた。
「こ、これは……一体どういう……ここは念のため――――」
「――――全隊突撃ィ!! ミストレア隊長に後れを取るなッ!!」
「「「オオオォォ!!!」」」
レイシィが悪魔の異常な行動に、念のためにと門内に後退しようと号令を出そうとした時。
異常な行動に気づかない副隊長の命令により、全隊へと再度突撃命令が下された。
「も、戻りなさい!! 何か良からぬ事が――――」
「――――殲滅しろォォ!!」
「「「「オオォォォォ!!!」」」」
慌てて後退命令を発令するも、士気が高まり勇ましく吠える隊員には、その声は届かなかった。
半円状に散る悪魔に、隊員は意気揚々と突撃を行い、それを殲滅していく。
傍から見れば特に問題は見えない。罠と言う訳でもなく、徐々にではあるが悪魔は数を減らしていった。
しかしレイシィは気づいていた。ゆっくり少しずつではあるが、悪魔が後退している。それに気づかず追いかける隊員達。
完全なる撤退ではない。まるで私達を門から遠ざけようとしている動きに、どうしても不安を隠せない。
「嫌な予感が……撤退しますッ!! 門内に後た――――」
――――その時、壁上から赤い煙を纏わせた光が打ちあがった。
壁上にて、周囲の様子を監視していた隊員からの異常を知らせる狼煙だ。
赤い光は緊急を知らせる、最も危惧すべき事が起こったと言う証。
その光煙の向こう側から、何か大きな影がこちらに猛スピードで迫って来るのがレイシィの目にハッキリと映った。
その影は、悪魔どもに門外へと誘われた私達と西門の間に、ゆっくりと降り立った。
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