第14話 自由と天魔

 





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 リヒャルドより借り受けた炎の永久輝石により、殲滅力を得たサージェスは面白いように悪魔を屠っていく。


 しかしいくら永久輝石とはいえ、神力は無限ではない。神力が尽きれば奇跡を起こせなくなるというのに、サージェスの神力は底を見せなかった。



「――――深追いして陣形を乱すな!! 目の前の悪魔だけを始末しろ!!」



 一方向から押し寄せる大群をサージェスが蹴散らし、溢れた悪魔をリヒャルド達が始末する。


 その包囲も突破した悪魔は、レイシィ達が殲滅するという作戦は見事に決まっていた。


 そして開戦して数時間。ついに悪魔の押し寄せが弱まってきたとサージェスは感じていた。



「……気に食わねぇな。ついぞ天魔は襲ってこなかった。何を待ってやがる」



 悪魔の群れの後方に、ずっと感じていた天魔の気配。


 天魔は悪魔と違い知恵があるが、悪魔を従わせる事なんて出来ないはず。それなのにまるで、天魔が悪魔をけしかけて、己は奥で高みの見物を決め込んでいるようにも思える。


 そんな事を考えて奇跡を放っていると、ついに悪魔の行進が途切れた。



「サージェス!! やったな! こちらもほぼ殲滅したぞ!」



 その様子を後方より見ていたリヒャルドが駆け寄ってきて、ホッとした顔を見せてきた。


 その後ろでは隊員達が互いの健闘を称え合い、ある者は座り込み体を休めていた。見たところ重傷者はなし、このまま終われば作戦は大成功と言ったところだろう。


 ――――このまま終わればだが。



「サージェス。急ぎアザレスに戻るぞ! あちらはまだ戦闘中のようだ」


「……リヒャルド、お前の隊はまだ動けるか?」


「当たり前だ! お前が殲滅役を担ってくれたお陰で、輝石も神力も十分にある! アザレスに戻り、我々も加勢――――」



 ≪――――オオォォォォン!!!≫



 突如響いた耳を劈くような獣の咆哮。悪魔が出す鳴き声とは違った、相手を威圧する圧倒的な声量。


 それま紛れもなく悪魔の上位存在、天魔の叫びで間違いなかった。



「……リヒャルド、部隊を左右に分けろ」


「左右に……? お前は何を…………分かった、従おう」



 突然の咆哮により隊員達が驚きやざわつきを見せる中、一人だけ冷静に現状を理解しようとするリヒャルド。


 リヒャルドも驚きは見せていたが、すぐさま冷静さを取り戻すのは流石に大隊の副隊長だ。


 そんなリヒャルドも、理解不能な行動をしろと言われ疑問を抱くが、サージェスの真剣な顔を見て追及するのを止め、素直に従った。


 特に異議を申し立てる事もせず、隊を左右に展開する命令を発令する。



「サージェス。言われた通り部隊を左右に展開させたが……」


「流石だな。お前みたいな部下なら俺も欲しいわ」


「……お断りだ。誰がお前の部下などに」



 この冷静さと判断力を持てるかどうかが、隊を率いる上で必要な要素。リヒャルドに比べるとガハルドはまだまだと言ったところだな。


 左右に分かれた部隊を一見したのち、俺は再びリヒャルドに目を戻す。



「天魔が来る」


「て、天魔だと!? しかしっ……いや、それはどうでもいいか。倒せるのか? お前なら」


「それは問題ない。天魔は中央の街道を駆けてこっちに向かって来ている。問題は――――左右に割れて行進してくる悪魔の群れだ」



 その瞬間、天魔の姿を見るより先に、森の中から溢れ出す悪魔の群れ。この動きにはいささか疑問を抱くが、今はそれどころではない。


 木々をなぎ倒し溢れ出す悪魔。整備された中央の街道を通らず左右に分かれて向かって来る。


 そしてついに姿を見せる最大の脅威。中央の街道に姿を見せた天魔。その姿は悪魔と大して変わらない。


 狼を彷彿とさせるその姿は、なにやら青白いオーラを纏っており、見た者を恐怖のどん底に引きずり込む。


 厳密には色々と違いはあるが、天魔と悪魔の大きな違いは、その目にハッキリと見えるオーラ。個体によってオーラに違いはあるが、皆同様に異常な気配を放っている。


 そして――――



「――――天魔は奇跡を起こす。なるべくお前達には被害が出ないように動くが、いざという時は撤退した方がいいな」



 天魔は人間と同じように奇跡を起こす。あのオーラは可視化された神力であるという説が一番濃厚であった。



「分かった。見た限りあの悪魔は残りカス、我が部隊だけで十分だ」


「頼もしいねぇ……じゃあリヒャルド、任せたぞ?」


「ああ任された。お前も、任せたぞサージェス」



 拳と拳をぶつけ合い、生き残る事、守り抜く事を約束する。


 リヒャルドは分かれた部隊を鼓舞しつつ簡易な作戦を伝え、己は悪魔の数が多そうな左側の部隊に加わった。


 そしてついに激突するリヒャルド達。各々が己の役職を理解し、素晴らしい動きで悪魔の数を減らしていく。


 俺の相手である天魔とは言うと、唸るだけで仕掛けてこない。


 鋭く伸びた牙と爪。銀色の体毛はオーラを纏っている為か輝いて見える。そして目が狂気の赤に染まっていた、眼力だけで人を殺せてしまえそうな勢いだ。



「不可解すぎるな、これは……――――まぁどうでもいいか。邪魔するなら潰す、それだけだ」



 自身の周囲に数本の王刃を創り出す。その中の一本の剣を手に取り、握りしめた。


 それは以前使っていた粗悪な剣とは比べ物にならないほど良質で、まさに王が振るう武器として相応しい気配を纏っている。



「さあ行くぜ? 自由な俺の自由な力が、てめぇを不自由にしてくれるッ!!」


 ≪グルルルルル……――――ガアァァァァァ!!!≫



 サージェスが駆けだすと同時に、天魔も地を蹴り跳躍する。


 最終戦開始。己の自由を勝ち取るために、サージェスは天魔に剣を突き立てる。



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 アザレスの街、西門内側にて。


 西門の内側には数百の守備隊が布陣し、守りを固めていた。


 壁上にいる守備隊は飛行型の悪魔に手一杯で、地を駆ける悪魔はほとんど素通りで西門まで辿り着いていた。


 数が多くないとはいえ、西門自体の耐久度はそれほど高い訳ではない。悪魔の強靭な肉体から繰り出される攻撃に、耐え続ける事が出来るはずもなく、破られるのは時間の問題であった。



「ミ、ミストリア隊長!! 門がもう持ちません!!」


「……限界ですね。ここまで持った事に感謝すべきでしょう。――――支援師サポーターは身体強化の奇跡の準備をしてください。守護師ガーディアンは前へ」



 メキメキと不快な音を立て、今にも壊れてしまいそうな門を前に、レイシィ・ミストリアは剣を握りしめた。


 ここが最後の砦。住民の避難はほぼ完了しているとはいえ、ここを突破されれば美しいアザレスの街は蹂躙される。


 身体強化の奇跡が起こされ、最前線に大盾を持った守護師が展開する。そしてレイシィたち闘師が、各々の武器を握りしめその瞬間を待った。



「ここは我らの地、奴らが踏み込んでいい場所ではありません!! この地を守るため、この先へと進ませてはいけません!!」


「「「「オオオオッッ!!!」」」」



 気合を入れ、士気を高めていく守備隊。


 全員がアザレスを守りたいと思い、全員がレイシィの事を信じている。


 そしてついにその時が訪れる。門に小さな亀裂が入ったと思ったら、瞬く間にそれは広がっていった。


 轟音を響かせ大穴を開けた門から、次々にと悪魔の群れが押し寄せてくる。



「死守せよッ!! 魔術師ソーサレス弓射師アーチャーは掃射開始! 治癒師ヒーラーは回復奇跡を準備! 副長! 前衛職の指揮をッ!」


剣闘師グラディエーター槍闘師ランサーは前へ!! 抜けてきた悪魔を叩くッ!!」


「「「「オオオオッ!!!」」」」



 この先はない。街を守る最後の砦で、ついに戦いが始まった。



 ――――



「――――ノイマン!! これを見てくれ!!」


「どうしたんだヘッケラー、そんなに慌てて」


「いいから!! 早く見てくれ!!」


「ったく、まだ東側の調査解析が終わってな…………ど、どういう事だよ、これ……」


「奴らは狂暴化なんてしていない!! していないんだ!!」


「で、でもさ……狂暴化していない悪魔が、群れを成して街を襲っているって言うのか? 悪魔が別個体で群れを形成するなんて……」


「ああ、あり得ないよ!! でもあり得てる!! 隊長が言ってたじゃないか! 新たな天魔が生まれる時、周辺の悪魔は狂暴化する……!」


「……それが悪魔行進の予兆。でも実際には、狂暴化なんてしていない……つまり」


「そうだよ、これは――――悪魔行進デーモンパレードじゃない!!!」

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