第9話 自由と部隊編成
翌朝、詰所にある固いベッドで目を醒ました俺は、朝食を頂いたのち詰所前の広場で作戦の内容を聞いていた。
作戦自体は昨日の内に全ての隊士が聞かされており、今はその最終確認と部隊編成をしていると言う訳だ。
調査地は四つ。大雑把に言うとアザレスの北と南、東と西。それぞれに数人の調査隊が編成され、その護衛を守備隊が務めるといった形だ。
目的は調査であり、討伐ではない。襲い掛かってきた悪魔を滅ぼせばいいだけという、超絶ホワイトなお仕事だ。
「では各隊の指揮を……北はリヒャルド、南はアレックス、東はトーマスに任せます」
朝早いと言うのに、昨日と変わらない凛々しいレイシィの声が響く。
昨日の夜何度かレイシィの部屋に忍び込んだのだが、レイシィは部屋にいなかった。部隊長として色々と仕事があったのだろう。
それが理由で俺に自分の部屋を使うように言ったんだな。疲れている様子は見られないが、ある程度は睡眠を取ったのだろうか?
「そして西側ですが――――サージェスさんに任せます」
「はいよ…………って、俺!?」
流石に驚きを隠せない。俺は守備隊の人間ではない、リヒャルドが言うように冒険者みたいなものだ。
そんな者に部隊の指揮を任せると言うのか? 俺やレイシィはよくても、それに守備隊の者が従うとは思えない。
それが分からないレイシィではないはず。その思いを込めて俺はレイシィを見つめるが、彼女に迷いがあるようには見えなかった。
「ミ、ミストリア隊長。流石に、外部の者に指揮を任せるのは……」
「そうです! この者の実力は知りませんが、その采配には反対です!」
口々に抗議する隊士達。しかしそれは主にアザレスの守備隊からの声で、意外にもリヒャルド含めクロウラの者達は黙って成り行きを眺めていた。
「リヒャルド殿! 貴方も何か言って下さい! そもそも貴方達が連れて来た者ではないですか!」
「そうだ! 大体、ミストリア様にベタベタしやがって……気にくわねぇ!!」
矛先が変わる。己の隊長ではなく外部から来た隊長へと。
この展開は予想通り。レイシィは早く発言を撤回した方がいい。
しかし予想外な事が起きた。それは非難の声を浴びていたリヒャルドの反応だ。
「このサージェスという者の実力、それは申し分ない。当初アルフレッド様は、数十人規模の冒険者に依頼するつもりで動いていた」
「そ、それがなんだと言うのですか!?」
「それがたった一人を連れて、アルフレッド様は本部に戻った。それほどの実力、信頼があるという事だ」
あら意外。まさかあのリヒャルドが助け舟を出すとは。何か企んでいるのだろうか? レイシィの事を助けたいとかかな?
やっぱコイツ、レイシィに惚れてんのかな。
「俺だってその者の事は気に入らない、大嫌いだ。しかしそれとこれとは話が別。俺達はアルフレッド様の人を見る目と、レイシィの判断に従う」
「なんで俺そんな嫌われてんの? レイシィにはまだ手を出してないよ?」
「まだだと? 貴様、ふざけ…………ともかく、部隊長はレイシィ・ミストリアだ。作戦行動においては、上官の命令は絶対だ」
「……お前昨日、レイシィに逆らってたじゃん」
「作戦行動にお、い、て、は! そう言ったはずだ! そもそも俺はレイシィの部下ではない!」
リヒャルドの助けにより、周りの隊士は口を閉じていった。
納得したのかしていないのかは分からないが、上官の命令には絶対、これが効いたようだ。
周りが静寂を取り戻したのを確認したレイシィは、再び話を続けた。
「隊の編成は各隊長に任せます。バランスがいいように編成してください。一時間後、作戦を開始します」
そう告げたレイシィは調査隊の方へ向かって行った。
残った隊士と隊長に沈黙が訪れる。みんな何も言わないが、その顔にはハッキリと書いてあった。
あのサージェスの元には編成されたくないと。
隊士達に出立の準備をさせ、隊長四人で部隊の編成を行う。
当然だが俺に発言を許すと言った空気はない。俺の部隊に配置されるのは、言ってはなんだが余り者となるのだろう。
――
―
「――――あ~……隊長のサージェス・コールマンだ。よろしく頼むぞ、お前達」
「「「「……よろしくお願いします」」」」
そして集まった余り者達、総勢五名!!
――――って少ない!! 他の部隊は数十人規模なのに、なんで俺の隊は五人なのだ!?
少数精鋭……? いいや、そんな訳がない。誰がどう見ても分かる、コイツらは新兵だ。
俺の隊に配置されたのが不満……といった顔はしていない。どちらかと言うと作戦に対する緊張、不安、そして高揚。経験が少ない者に見られる様子だ。
余り者というより、押し付けか。他の部隊は新兵のコイツらを組み込みたくなかったのだろう。
そんな事をしていては、いつまでも育たないというのに。
「じゃあまず自己紹介だ。名前と役職……お前からだ」
「は、はい! ミラード・ギュンターです! 前衛職、
「カイル・アローレスです。中衛職、
「わ、私の名前はマリア・アーガイルです! 後衛職の、
「僕はヴィクター・クロイツ。中後衛職、
ミラード、カイル、マリア、ヴィクター。一応バランスは取れている。
コイツらがどの程度動けるのか、どれほどの力があるのかは行軍中に分かるだろう。
問題はコイツだな。問題というか、なんでコイツだけ――――
「――――そんでお前は? どこの動物園から抜け出してきたゴリラだ?」
「ガッハハハハ!! 酷いですよ隊長殿! これでも私は人間ですぞ!」
一人、異様な奴が混ざっていた。
アルフレッドに勝るとも劣らないガタイの良さ。誰がどう見ても新兵じゃない。
数々の修羅場を潜ってきましたと、その色黒の顔に刻まれている。
「私の名はガハルディード・ミストリア! 前衛職、
「分かったよゴリラ。もう少し静かに喋れ……ミストリア? お前まさか……」
「お察しの通り! レイシィ・ミストリアは我が姉です!! 姉弟共々、末永くお願い致します!!」
とても同じ母親から生まれて来たとは思えない。もはや突然変異レベルだ。似ているのは、髪が金色という所だけ。
豪快に笑うガハルドと、昨日の食事時に見たレイシィの笑い顔とは次元が、いや種族が違う。
しかしレイシィの弟というのなら納得だ。レイシィから頼まれたのだろう、俺の部隊に入る様にと。
「……ではガハルド、お前はミラード、カイル、ヴィクターを守れ。俺はマリアを守る」
「ガッハハハハ!! 姉上の言った通り、女贔屓が酷いですな!? 承知しました!!」
その後、二名の調査隊と合流した俺達は、アザレスの西側にある調査ポイントへと行軍を開始した。
未だに緊張の色を隠せない四人と、先頭を張り切って歩くゴリラ。
加わった調査隊の二人は、この部隊は大丈夫なのだろうか? といった不安と後悔の表情をしている。
しかし特に問題はないだろう。新兵とはいえバランスの取れた布陣と、ゴリラではあるがガハルドは身のこなしから能力が高そうだ
早々に調査を終えられれば、日が暮れる前までには戻って来られるだろう。
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