最終話 自由な明日へ
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――――中継都市クロウラ、犯罪者収容所にて。
多くの犯罪者が収容されている施設に、新しく入ってきたロードラン・マッケス。
この後、クロウラの法律に基づき裁きを受ける事となる。
ロードランの罪は、大きく分けると二つ。不正取引と殺人未遂だ。
もちろん現在判明している罪であり、今後の捜査で色々と出てくる可能性はある。
パメラの死への間接的な関与など、どこまで判明するかは分からないが。死罪とまではならずとも、長く外に出れない事は確実であった。
まだ現実を受け止め切れていないロードランは、様々な策を練り上げる。ここから出て再び財を気づくために意気込んでいた。
「まだ終わってはいない……金さえあればどうにか出来る。なんとか組合連合会の奴に連絡を取って、守備隊を買収……そして覚えておけよ! サージェスにアイシャ!!」
反省の色なし。再び自由な片翼を生むために頭を回す。そして地に落とされた原因となった、サージェス達への復讐を誓う。
「殺す……アイツらは絶対に殺す!! 待っていろ――――」
「――――元気な人ですね。もう少し静かに出来ないのですか?」
いつの間にそこにいたのか、ロードランの目の前には仮面を付けた男が立っていた。
仮面を付けているため表情は読めないが、ロードランの事を小馬鹿にするような声色であった。
「お、お前!? どうやって!? いやそれよりも、ここから出してくれ! お前なら可能だろう!?」
「出て何をすると言うのです?」
「決まっている!! 再び頂点に座す!! そしてクソ共に復讐だ!!」
「……頂点? ふふふ、はははは……面白い。道化師の頂点には立てるかもしれませんね」
「な、なんだと!? いいからさっさとここから出せッ!!」
怒気を放ち、鉄格子に拳を叩きつけるロードラン。
それままるで檻に囚われた知能の低い動物、仮面の下で男はロードランを嘲笑う。
「もう貴方に利用価値はありません。自ら破滅した愚か者よ。後はこちらが手を回すので、何も心配せずに罪を償って下さい」
「ふ、ふざけるなッ! 貴様達には情報も金も渡した、他の組合にも話を取り付けたんだぞ!? せめて……ここから出せッ!!!」
「……そんなに出たいのですか?」
「当然だッ!! 俺はまだ終わっちゃいない!! ここから出て――――」
「――――穿て――――心穿」
それは一瞬。何か声が聞こえたと思った瞬間、ロードランの胸には大穴が開いていた。
まるで初めからそこだけ何もなかったような、綺麗な穴。急に空いた穴からは、止めどなく鮮血が溢れてくる。誰が見ても即死であった。
「これで出られますね? いつまでもゴミを放置して置く訳にはいかないでしょうから」
そう呟くと、男はロードランの前から立ち去った。
収容所を出た男は人気のない所で仮面を外し、明るくなり始めた空を見上げ呟く。
「さぁ、では会いに行きますか。サージェス・コールマン。いいえ――――先輩」
風に靡く金髪。空を見つめる翠眼に不浄は一切なく、とても澄んでいるのだった――――
――――この事件の数日後、情報統制していたはずの四大組合長死亡の話は、瞬く間にクロウラ中へと広がる事となる。
仕方なしにクロウラ守備隊は、ロードランの罪を死亡後に発表するという、異例の対応を行った。そして獄中死、死因は自殺と発表されるのだった。
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――――
「――――それで? 何か言う事はないんですか?」
「サージェスさん。今、何時だと思っているのですか?」
アイシャを連れて、一夜の過ちでシューマン達と合流した俺は、エミレアとルルゥからの厳しい目に耐えていた。
シューマンも何か言いたそうな顔をしていたのだが、彼女達が急に膨れ上がらせた怒気によって、何も言えなくなり縮こまっていた。
エミレア達は、ずっとやって来ない俺を心配していたのだろう。最初こそ暗い顔をしていたものの、俺の顔を見た瞬間に笑顔となり、安心したと言った感じだった。
俺の後ろにいたアイシャの事を見るまでは。
「えと……まぁ、昼頃かな? お昼食べた?」
「食べてません。朝も食べてません。なんなら昨日の夜も食べてません」
「サージェスさんを待っていましたので。いつまで経っても来なかったですけど」
彼女達の怒りは御もっとも。昨日の夜に合流して、みんなで宴会をする話になっていたのだから。
それを無視して、朝帰りどころか昼帰りなのだから。
まぁ彼女達の一番の怒りは、俺が戻って来なかったという事ではなく、俺の後ろで俺の服の裾を掴んでいる、アイシャがいるせいなのだと思うが。
「じゃあ、お昼ご飯に……しますか?」
「それどころじゃありません、確認しなければならない事がありますので」
「あ、はい。あの……アイシャさんの事を連れて来た事ですか?」
「違います。昨日は誰と一緒だったのかの確認です」
「アイシャさんのブラウスに皺が付いています。几帳面な彼女が、そんな状態でいるなんて……どういう事ですか?」
皺だと? アイシャは組合の制服を着ている、普通に考えれば仕事を抜け出して来たのだと思うはずだが……皺だと?
エミレアもルルゥも、よくそんな事に気が付くものだ。アイシャ自身も気づいていなかったのか、若干驚いた様子を見せつつ皺を伸ばしていた。
「まあそういう日も……あるんじゃないでしょうか? 朝、忙しかったとか……」
「何していて朝忙しかったんですか? 何をしていて忙しかったのですか!?」
「…なにと言うか……ナニと言うか……」
彼女達は感づいているようだ。別に怒られるような事はしていないし、犯罪行為だってしていない。
しかし予定をすっぽかした手前、何も言えない。俺は約束を破ったのだ、彼女達が許してくれるまで謝罪、贖罪しなければならない。
「アイシャさん。あなた、組合の仕事はどうしたのですか?」
「昨日は早退しまして、今日はお休みを頂きました」
「ふ、ふぅ~ん……今日お休み? お休みなのに制服? なんで? どうして!? まさかお家に帰ってないとか、アホな事言うんですかぁーー!?!?」
「おお落ち着けルルゥ! お前らしくないぞ!?」
「サージェスは黙ってて!! ルルゥはアイシャさんに聞いてるの!」
どちらかと言えば、いつも怒気を撒き散らすのはエミレアで、ルルゥは静かに起こるタイプだったはずだ。
誰だかが言っていた、静かな奴が怒った時が一番怖いと。ルルゥの目、言葉、俺はそれらに数年ぶりともいえる恐怖を覚えた。
「昨日から自宅には戻っていません」
「はへぇぇーー! じゃあ今まで何をしていたと言うのですか!? ずっと仕事をしていたんですね!? それは大変でしたお疲れ様です!!!」
「……ルルゥさん、あなたの怒りの意味が分かりません。昨日からお休みを頂いていると言ったはずです」
「……じ、じゃ、じゃあ……ど、どどどこで……」
「ルルゥ! 頑張れ!! 私の代りに聞いてちょうだい!」
いつものルルゥらしくない様子。何を動揺しているのか目の焦点が合っていない。
エミレアの言葉で覚悟を決めたといったルルゥは、拳を握りしめながらアイシャに問う。
「……ど……こで…………っ!! アイシャさんは誰とどこで何をしていたのですか!!」
「サージェス様と宿で性交していました。お陰様でまだ違和感がありますが、初めてを捧げられて良かったです」
「「――――よくねぇぇぇえええええ!!!」」
あの後まぁ色々あって、色々あったんだ。
アイシャは俺だけでいいとは言ってくれたが、それでは彼女のためにならない。
時間は掛かるだろうが、アイシャは男への恐怖心を克服するべきだ。シューマン達と合流する道すがら、俺はアイシャにそれを伝えていた。
男の全てがそうではない。アイシャを守ってくれる男も、アイシャに安心を与えてくれる男も沢山いる。アイシャは単純に、男を知らなすぎだと。
自ら遠ざけたのだから、それはそうだろう。少しずつ、男を知っていくべきだと伝えた。
もちろんアイシャに何かあったら、俺は全力で助けるし守るとも伝えた。
その時の彼女の反応が――――
≪――――では、お……男を、教えてください……≫
そう顔を真っ赤にして指差した方向には、一時の過ち……という一夜の過ちの系列店であろう宿屋の看板が光っていた。
もちろん、即座にお姫様抱っこして連れ込みました。これを拒否する奴は男じゃない。
≪この雌犬! サージェスさんを誘惑したんでしょう!?≫
≪そうですね。発情期です、この犬は≫
≪確かに私から誘惑しましたが、連れ込まれたのは私です≫
≪大体いつですか!? いつサージェスさんと、そんな仲になる時間があったのですか!?≫
≪そうですね。ほんと節操ないです、この犬は≫
≪いつかと聞かれれば……遠い昔ですね。昔から想っていましたので≫
≪昼帰りまでして……それより、聞きたい事があるのですが!!≫
≪そうですね。私もこの犬に聞きたい事があります≫
≪何でしょうか? 回数ですか? 四……五発ほどでしょうか?≫
≪ごはっ……!?!? それも驚きですが、それより……≫
≪答えなさい犬。やはり痛いのですか?≫
≪そうですね。私は幸せに感じましたが、痛いのは痛いです≫
≪≪やっぱり痛いんだ……覚悟しておこう……≫≫
「……まぁなにはともあれ、一件落着か? サージェス」
「まぁな。ただ冒険者には、まだなれていない。悪いなシューマン、色々と」
「そっか。まぁお前なら大丈夫だろ! それより今日こそ皆で宴会だぞ!? 絶対だ! 昨日のエミレアとルルゥの様子を知ってるか!? 何を話しても上の空で、俺がトイレに行っている間に、伝票だけ残していなくなってたんだぞ!?」
「……相変わらず愛されてるな、お前は」
「どこがだよ!? ほんの少しでいいから俺にも愛を分けてくれよぉぉぉ!!!」
アイシャを引っ張り、店の隅に連れて行ったエミレアとルルゥは、アイシャから何か話を聞くたびに赤くなり、身悶えしていた。
シューマンは財布の中身を数えては溜め息を零し、また冒険して金を稼がないと……と言い残し部屋に戻って行った。
俺はまだ、冒険者になれていない。
組織を出た時は、こんなに就職が難しいなど思ってもいなかった。
様々な思惑や障害はあれど、俺は自分の力を信じていたし、どうにかなると思っていたのだが。
でも俺の、自由の翼は折れていない。俺の翼が折られる前に、邪魔する奴の翼をへし折ってやる。
やりたい事を、やりたいように、やりたいだけ。
どこまでも自由であれ――――それが
――――
「――――ところでお前さ、アイシャさんと出会って……どのくらいだよ?」
「んまぁ……十数時間か? 厳密には数年前だが……」
「出会って一日も経ってない男嫌いの女に? 全力の好意を持たれ? 初めてを捧げられたと?」
「んまぁ……そうなるかな」
「……どうなってんのお前? どうなってそうなんの? あんた誰なの? なんの物語から出て来た主人公なの?」
「んまぁ……ご都合主義な……物語?」
「……帰れよ……帰ってくれよ……その物語に……」
「んまぁ……そう言うなよ? 組合の女の子、紹介してやるように頼んでやるぞ?」
「ほんとかよ!? いて頂戴! 俺の傍にいて頂戴! お零れでもいいから頂戴!!」
「んまぁ……なんて素直な奴なんだ」
「……それよりお前、ちゃんと避妊の輝石は使ったんだろうな? 子連れで冒険者はキツイぞ?」
「んまぁ……当然だろ。できれば責任を取るが、できるまでは色々な女とできるからな」
「……ほんと最低だな。いつか後ろから刺されるかもしれないぞ、お前」
「んまぁ……上手くやるさ、最低らしくな」
「んまぁんまぁうるせえよ」
「んまぁ……すんまぁない」
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