第36話 自由な守備隊の乱入
アイシャの事を間一髪で助けた俺は、ロードランと対峙していた。
ロードランを物理的に始末するのは容易いが、それではアイシャが困る事だろう。
不正の証拠は燃え尽きてしまったようだが、手はあるのだ。それをどう使うのかはアイシャに任せた方がいいだろうな。
不正を糾弾しローランドを失脚させれば、間違いなく組合の評判は悪くなる。
それを恐れず前に進むもよし。それを隠して、ロードランを組合で飼い殺しにするのもよしだ。
「別にお前が何を考えて、何をしても俺には関係ないけどな? アイシャの事を傷つけた、その落とし前は付けてもらうぜ? 自由に動いた者の責任、ってやつだ」
「落とし前だと? なるほど、お前は正義の味方と言う訳か! しかしお前に、俺の自由を奪い取る事が出来ると言うのか?」
「俺が正義の味方? あっはははは!! 笑えねぇな」
「盛大に笑いましたよ」
「俺はアイシャのため、そして自分のために動いただけだ。そこに正義も悪もない。気に入った女を守って、お近づきになりたいってだけの事だね」
「本当に女たらしなのですね」
「仮に不正をしたのがアイシャでも、俺はアイシャの味方だったろうさ。俺を非難するか? 何をしても自由だぜ? 俺も自由にやらせてもらうだけだからな」
ギリリと音が聞こえてきそうなほどに、歯を食いしばり睨みつけてくるロードラン。
俺に敵わない事は分かったはず。蹴とばした時に感じたコイツの神力も、正直大した事はない。身体能力はそれなりだが、現役を退いた者と現役の者とじゃレベルが違う。
「老いってのは嫌だね」
「抜かせッ!! 何を言おうとも俺は不正など認めんぞ!? 証拠がないのだからな! ここで俺に危害を加えたお前達を逆に糾弾する!! この国の守備隊の強さは知っているはずだ!」
「証拠ならある」
そう、証拠ならあるのだ。
そのために話を引き延ばしたりしたのだから。まったく便利な輝石が転がって来たものだ。怪しさ全開だけどな、一体誰がこの輝石を――――
「何を言う!? 例え写しがあったとしても、お前達が捕まった後に探し出し処分する! この結界が壊れた事は組合連合会に伝わっているぞ! すぐに確認しに守備隊がやって来る!!」
「……え? そうなの? アイシャ?」
「各組合には組合連合会より、高ランクの輝石:結界が貸し与えられています。有事の際に組合全体を守り、避難所として人々を救うための処置です」
「……え、え、え? 避難所になるのは分かったよ。ほんで、結論は?」
「ロードランが言っている事は事実です。高ランクの結界が破壊されるなど異常事態。すぐに守備隊が派遣されます」
「……そういう事は早く言ってくんない? 自己紹介なんかしている場合じゃなかっただろ」
やけに固い結界だと思ったが、そういう事だったのか。
組合って避難所にもなるんだな。また一つ賢くなったよ。確かに王ランクの結界ともなれば、大抵の悪魔の攻撃など通しはしないだろう。
それはもちろん人相手にも使える。俺も組織にいた頃は結界輝石を使って、どうした? 近づく事も出来ないのか? なんて強者ぶったものだ。
一つ問題があるとすれば、この結界を誰が展開させたのか……だな。
「ほら足音が聞こえて来たぞ!? ここにある事実は一つだけ! 貴様が俺に怪我を負わせた、それだけだ!! 貴様とアイシャは連行される! その間に全ての証拠を隠滅だ!!」
「……では仕方ありません。サージェスさん、あの屑を殺してください」
「おう!! ……へ? こ、殺しちゃうの? いいんですか?」
「見逃した癌は増殖し、この組合を侵食していきます。私が全ての罪を被りますので、遠慮なく殺しちゃって下さい」
随分と怖い事を言うアイシャだったが、その目は真剣だった。
ただでは終われない。裁きを受けさせる事が出来ないのであれば、死を持って贖ってもらうと。
しかしその宣告を受けても、ロードランの表情は変わらなかった。
「そんな簡単にやられはせん! たかだか数十秒の間、命を繋ぎとめておくくらいは老骨でも可能だ!!」
「たった一撃を食らっただけで瀕死のあなたが、随分と言いますね? さぁサージェスさん、癌の駆除をお願い致します」
「ま、まぁまぁアイシャ。俺はお前が投獄されるのは嫌だぞ? 俺だって牢獄は嫌だし。それとも一緒に愛の逃避行でもするか?」
「……あなたとなら構いません。それに組合のために、こうする他ありません」
「マジで!? 俺も追われる身だけどいいの? 二人だけだし、多分子供とかも出来るよ?」
「子供の名前は何がいいですか? きっと犬耳種なので、名に濁点を入れてはいけませんよ?」
「え? そんな決まりがあるの!? じゃあ、えっと……サーシャとか?」
「馬鹿かお前らは!? 時間切れだ!!」
現実逃避した俺とアイシャにロードランの怒声が飛んだ。
時間切れ。その言葉の通りに甲冑を纏った兵達が、ぞろぞろと室内へと雪崩れ込んでくる。
ロードランの勝ち誇った顔と、それに殺気を飛ばすアイシャ。
しかしアイシャは冷静だった。本当に殺してほしかったら、あのアイシャがあんな言葉遊びで時間を浪費する訳がないからな。
「――――私はクロウラ守備隊、第二大隊隊長のアルフレッド・バイスである!! 結界破損の報を受けここに来た!!」
「おお守備隊長殿、お久しぶりでございますな」
「久方ぶりです、ロードラン組合長殿。一先ずご無事でなにより。して、この騒動は……?」
兜を脱いだアルフレッドは、ロードランと俺達を一見する。
頬に大きな傷があり、その貫禄は歴戦の戦士を連想させた。ガタイも他の守備隊の者達と比べても良い、少なくともシューマンなんかは相手にもならんな。
ロードランとは顔馴染みのようだが、その目に曇りは見て取れない。ロードランに肩入れすると言う事はないだろう。
「賊の侵入です! そこのアイシャが賊を手引きし、私の命を狙ったのです!! すぐに連行し裁きを受けさせて下され!!」
「なんと!? それは誠か!? ――――おい! 組合長殿を癒してやれ!」
アルフレッドの指示を受けた守備隊の一人が、ロードランに近づき回復の奇跡を起こす。どうやら折れた骨まで治ったようだ、中々優秀な治癒師である。
「アルフレッド様、このロードランは嘘を言っています。私がロードランに殺されそうになったところを、この方に助けて頂いた……というのが真実です」
「なんと!? それは誠か!? ロードランに……殺されそうに!?」
「騙されてはいけません!! その女に怪我の一つでもありますか!? 襲われたのは私なのです! 怪我を見たでしょう!?」
「確かに、怪我を負っているのは組合長殿であるが……うぅうむぅ……」
頭を傾げるアルフレッド。悩んでも意味がない、判断など付かないのだから。
もしかしてアルフレッドって、馬鹿なのか? 黙っていれば聡明な戦士に見えるが、口を開くと馬鹿の一部がコンニチワをしている。
大袈裟な反応、大きな声。それは俺の中では馬鹿という事になっているのだ。
まぁしかし、こういう真面目な馬鹿は扱いやすい。ちゃんと状況は理解しているようだし、嘘を言っていないのか相手の表情を確認する仕草も見えた。
馬鹿だが実力は申し分ない。こいいう奴には、分かりやすい証拠を提示すれば一発だ。
「私には判断がつかん!! 申し訳ないが、一先ず身柄を拘束させて頂いてもいいだろうか? ここは自由な片翼の組合長室、冒険者でもない貴公がここにいる理由、それが最も不自然であり疑わしい」
「そうだッ!! なんなら不法侵入罪で告訴してやる!!」
騒ぎ立てるロードランは放っておいて、流石は隊長様といったところか。
いつの間に確認したのか、俺が冒険者でない事を見抜いた。それ自体は大した事ではない、組合証がないのだから。
この状況、そして双方の主張。それらがある中、アルフレッドは事実だけを冷静に判断したのだ。色々な情報が入り交じる中で、大したものだと思う。
馬鹿なんて思ってゴメン。意外に曲者だったようだ。
しかしここまでだ。流石に守備隊に手を出してしまったら、俺はこの国に居られなくなる。
エミレアやルルゥ、そしてアイシャに会えなくなるなんて御免だからな。
あ、シューマンも一応。
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