第30話 自由な昇色と冒険者登録

 





 ミーズィなどが起こした騒動から落ち着きを取り戻していた組合内で、サージェス達はアイシャを相手に赤依頼の完了報告を行っていた。


 あの騒動が治まるまでは非常に時間が掛かり、すでに外は薄暗くなっている。


 あの後の主な処遇ではあるが、ミーズィは問答無用で牢獄へ。カマロ達は事情聴取のちシューマンからの頼みもあって、冒険者は続けられる事となった。


 カマロ達はミーズィに脅されていた。嘘を白状すれば冒険者でいられなくなる。確実な証拠もあるから、黙って私に従えと。


 しっかりとカマロ達から謝罪を受けた事。なにより今までミーズィの我が儘に振り回されてきた同志達なのだ。シューマンが情けをかけてしまうのも無理はないか。


 カマロ達は一段階の降色。カマロは緑色から黄色に、レクタとギリスは黄色から青色となった。


 ガイエン達救出隊には礼を言って別れた。アイツらがちゃんと事実を語ってくれて助かった。


 こればかりは分からなかったからな、人は簡単に心変わりする生き物なのだから。


 まぁあの時、下手な事を言わないように力を見せつけて脅したからな。真実を見て事実だけを話せ、話さなければ……と言った感じだが、存外ガイエン達はいい奴らで、その後は何の衝突もなく事が進んでくれた。


 ともあれミーズィ達との騒動は終了だ。シューマン達の疑惑も晴れ、明日から大手を振るって冒険できる事だろう。


 そして俺だが、あれだけの事をしてやったんだ。アイシャの心象だって悪くないはず。


 つまり俺は、高確率で自由な片翼に就職する事が出来る!! ……はずだ。



「――――依頼完了報告を受領致しました。今回はがない討伐報告ですので、組合職員が討伐の確認をしてからの報酬受け渡しとなります。数日中には完了致しますので、お待ちください」



 これは後から聞いた話なのだが、討伐依頼の場合は輝石:映像を使用して、討伐の様子や討伐した悪魔などの映像を残すのが一般的らしい。


 もちろん必須ではない。映像記録がない場合は、後日調査達が討伐確認の調査に向かう。


 その場合は報酬減額となるし、報酬の支払いまで時間を要するが、映像の輝石を準備するよりは安上がりな場合が多いため、この後払いを選択する冒険者も多いそうだ。


 討伐したら冒険証に勝手に情報が記載される……なんて都合のいいものがあれば、便利なんだけどな。



「……え? 依頼報酬……出るんですか!?」


「当然出ます。組合からの依頼には必ず対価が発生します。例外はありません」


「で、でもアイシャさん、報酬は出ないって……」



 アイシャの言葉に反応し聞きなおすエミレア。その隣ではシューマンも同様に驚いた顔をしていた。


 思った通りだ。労働したのに対価なしなんて、そんなブラック組織は認められない。



「……大変申し訳ございませんが、サージェス様の試験として偽りを申しました。報酬が出ないと分かり、仲間を見捨てるような方ならば、どんなに強者でも組合に所属させる訳には参りませんので」


「おいおいアイシャ、俺がそんな薄情な奴に見えるのか?」


「……薄情には見えませんが、軽薄には見えます。それに少々女性にだらしがないように思えます」


「ですね! それには全面的に同意します! 女たらしです! 意地悪ですし」


「あはは……でも意外と、心の中では真面目だったりするんですよ? ワザと軽薄を演じて女性を笑わせたりしてますよね」


「ルルゥ? なんか恥ずかしいから、それ以上言わないでくれない? 後で力の制御を教えてやる、その力は厄介だ」


「ほ、本当ですか!? ぜ、是非教えてください!」


「ず、ずるいよ! サージェスさん! 私にも奇跡を教えてください!」


「奇跡の事なら私も興味があります。私にもご教授下さい」


「ふはははは!! よかろう! ただし……ベットの上でな!!」


「「「…………ぽっ」」」


「ぽっ……じゃねえよ!! さっさと話しを進めてくれ! 俺はいつまで眺めてればいいんだよ!?」



 頬を染める女性陣に怒りをぶつけるシューマン。確かに外も暗くなってきているし、早く終わらせて酒を飲みに行きたい所ではある。


 俺はほとんど戦闘していないから問題ないが、シューマン達は疲れている事だろうしな。



「――――こほん。とにかく、依頼は完了です。お疲れ様でした」


「よっしゃ!! やったなエミレア! 俺、赤依頼なんて初めてだぜ!」


「それは私もだよ。でもサージェスさんがいたから何とかなっただけ、誤解しちゃダメだよ? シューマン」


「お、おう。分かってるよ」



 分かっていなさそうな表情をするシューマンだが、本当に分かったのか?


 でも蟻蜘蛛の戦闘においては、まったく問題なかったとは思う。自分の職をちゃんと理解して、動きも悪くなかったし連携もバッチリだった。


 全としては問題ない。あとは個としての実力が上がれば完璧だ。そのうちクイーンもキングも問題なく倒せるようになるだろう。



「そして今回の依頼達成により、シューマン様とエミレア様は緑色に。ルルゥ様は青色への昇色が決まりました。おめでとうございます」


「マ……マジですか……!? やったぜーー!! 良かったな! エミレア! ルルゥちゃん!」


「「はい! ありがとうございます!」」



 立ち上がり喜びを全身で表現するシューマンと、可愛らしく微笑むエミレア達。


 コイツらの笑顔や嬉しそうな顔を見れただけでも、頑張った甲斐はあっただろう。おめでとうございます冒険者達。


 しかしそれは置いておいておこう。もっと大事な事があるんだ。


 そう、俺の就職だ。俺は頑張って再就職活動をしたつもりだ。一度お祈りはされてしまったが、再び俺は自由な片翼の門戸を叩いたのだ。


 何かしらの反応はしてくれなければ困る。出来れば採用してくれ、お祈りはもう嫌だ。



「あの~ところでアイシャちゃん? その~僕の冒険者登録はですね、して頂けるのかな~なんて」


「お祈り申し上げます」


「なんの!? なにを祈られたの!? せめて何に対しての祈りなのか教えて!?」


「……冗談です。あなたの驚く顔が見たかっただけです」



 この女……ふざけやがって。俺がどれだけ祈られる事が嫌いなのかを知っての狼藉か?


 澄ました顔しやがって……少しだけ口元が緩んだ笑顔は可愛かったけど、この事は覚えておく。いつかベッドの上で泣かせてやるぜ。



「……サージェスさん、悪い顔してます」


「顔どころか、心も荒んでましたよ……」


「アイシャさんが冗談を言うなんて驚きだな……」



 頭の中でアイシャを犯し終えた俺は冷静になり、次は現実で犯してやると心に決めた。もちろん手荒な真似は致しません。


 そして真面目な顔に戻ったアイシャが、再び話をし始めた。



「まずシューマン様から提出された脱退申請は破棄させて頂きます。該当のパーティーが解散しましたので当然ですが」


「ああ、はい」


「そしてサージェスさんの冒険者登録についてですが……」



 ついにきた。四人は息を飲みアイシャの言葉に備えだす。


 四人の視線を一身に受けたアイシャは、一呼吸のち話始める。



「登録は……――――まだ出来ません」

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