第29話 自由な一件落着
「放せぇぇぇ!! 放せェェェェェェ!!!」
「大人しくしろ!!」
我を忘れ怒り狂ったミーズィがアイシャを殺そうと、腰に挿していたレイピアを抜き刺突した。
腐っても元緑色の冒険者。ただの組合職員であるアイシャに避ける事は敵わず、血を流してしまうのであった。
「…………ん……あれ……? 私……」
「いっってぇぇ……もう少しで俺の女が串刺しだったぜ」
「……サージェスさん……? あれ……何を……」
「アイシャを抱きしめている」
「……へ? へぇぇ!?!?」
クロウラ守備隊に抑え込まれたミーズィが顔を上げると、そこにはアイシャを抱きしめているサージェスの姿があった。
左の脇腹にレイピアが掠ったようで、そこから血が流れているように見えるが、サージェスの治癒力であればすぐに治るであろう。
「は、離してください、恥ずかしいです」
「まあまあ、そう言わずに。もう少しだけ――――」
「――――お前!! 殺してやる!! 絶対殺してやるからなッ!!」
地面に頭まで押さえ付けられていると言うのに、未だに凶悪な表情でいるミーズィ。
クロウラ守備隊は二人もいるというのに、手を焼くと判断したのか応援を要請していた。
それほどの力があればもっと上手くできたであろうに、残念でならない。
「お前に感謝しなきゃいけない事が一つできたな。こんなに早くアイシャの事を抱きしめる事が出来るなんてな。これは不可抗力かつ当然の行動。勇者が姫を危機から救い出したのだ。だれも文句は言うまい、それすら本人でさえも」
「ほ、本人の前でそれを言うのですか? 文句を言えなくなってしまいました」
「なんだよ? 文句言うつもりだったのか? 嫌なら離すけど」
「あ……いえ、別に……このままでも構いません……」
「アダシを無視するなァァァァァァァ!!! 覚えておげよサージェス!! お前だげは絶対に殺すがらなァァァァ!!!」
「……え? なんで? 俺なんかした? 殺すならシューマンだろ」
「おい!! 殺すならサージェスだろ!? 全部サージェスの作戦なんだからな!!」
「うるさいッッ!! お前ら二人とも……必ず殺してやるウゥゥゥゥ――――」
騒ぎ続けていたミーズィはついに連れて行かれた。
応援に駆け付けた二人の守備隊を加え、男四人がかりで女一人を連行していった。冒険者がいかに強力な身体能力を持つのかが分かった瞬間である。
「……おぉ怖。さぁ一件落着だな! どうだシューマン、上手くいっただろ?」
「ああ! すげぇよサージェス!! でもさ、どうやって木の上――――」
「――――そんな事より!! いつまでアイシャさんを抱きしめているつもりですか!?」
「そうです! サージェスさんは怪我したのですから、私が癒します!」
「サージェス様が、怪我を……? 私のせいです。私が責任を持って医務室にお連れ致します」
「いいですって! サージェスさんは私が……というかアイシャさんもいい加減離れて下さいよ!」
「そうです! 男嫌いだって噂があるのに!」
「そ、それは……男性は苦手です。でも、この人は平気で……」
「それにアイシャさん! いつだったか煙草の匂いが大嫌いだって言っていましたよね!? その人、ガッツリ臭いですよ!?」
「そうです! ここにいてもプンプンです!」
「……別にこの方の匂いなら……」
ギャーギャー騒ぐ女性陣達、それを羨ましそうに眺めるシューマンだったが、今日に限っては涙を流さなかった。
問答している間にサージェスの傷はすっかり癒え、女性陣を放置してシューマンと目を合わせた。お互いに突き出した拳を合わせ、作戦成功を労い合う。
「今日もうまい酒が飲めそうだな、シューマン」
「ああ! 今日の酒は絶品だと思うぜ、サージェス!」
≪何を言ってるのか分かりません! 煙草なんて全部同じ匂いです。誰でも同じ匂いです!≫
≪そうです! 犬耳種は匂いに敏感です。分からないはずがありません!≫
≪ええ、ですから分かります。この方と他の方の匂いの違いが≫
≪それに煙草の匂いをさせる人の近くにいるのは、おススメできませんとか言ってませんでしたか!?≫
≪言いましたよ。あなたにはおススメできませんと≫
≪そうです! おススメできません! 二人とも離れて下さい!≫
≪んなっ!? このウサギ裏切ったよ!? 裏切りウサギ!≫
≪別に仲間になった覚えはありません! 最後に傍にいるのが私であればどうでもいいです!≫
≪いい加減、離れて頂けませんか? 彼は怪我しているのですよ?≫
≪≪あなたが一番離れて下さい!!≫≫
どこの店にするかと盛り上がる男二人。その男達の片方にしがみ付いている三人の女性。
楽しそうに話す男性達とは違い、女性達の顔は笑っていない。
そんな殺伐とした雰囲気の女性達にしがみ付かれているのに、まるでいないかのように男同士で話を続ける、サージェスとシューマン。
すでに一部の冒険者にはお馴染みの光景となっていたが、一つだけいつもと違い点があり、冒険者達をザワつかせた。
あのシューマンが、涙を流さず笑っている異様な光景。いつも涙を流す事で有名だったシューマンの顔に、涙は流れていなかった。
そんないつもと違うサージェス達の会話は、放置されて居心地が悪そうにしていたガイエンやカマロ、そして組合職員に止められるまで続いたという。
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