第28話 自由な最後のチャンス
「――――だって聞いてたもん、俺達」
「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」
急に軽い感じで大型爆弾を投下した、救出隊のリーダーであるガイエン・ヘルプミイ。
周りはその言葉に右往左往するだけで、その言葉の意味を計り知れずにいた。
あの冷静なアイシャですら驚きの表情を見せたほどではあったが、現在は一早く落ち着きを取り戻し、ガイエンへと向き直った。
「ガ、ガイエン様……驚きましたが、詳しくお話をお聞きしても?」
「アイシャさんが驚く所なんて初めて見たな。そうしていると普通の女の子――――」
「――――おい爆弾魔。人の女に手を出そうとしてんじゃねぇよ」
「……貴方は黙っていてください。それにまだ貴方の女ではありません」
「……アイシャさん、自分が今なにを言ったのか分かっているか?」
徐々に周りが落ち着きを取り戻していく中、一人だけ冷や汗を浮かべていた者がいた。
それはもちろんミーズィ。ガイエンが言った言葉の意味をアイシャ同様一早く理解し、頭を回して状況を整理する。
あの場に救出隊はいなかった、それは間違いない。辺りはシッカリと確認してからの謝罪だったのだ。
であるのであれば、一緒にやって来たサージェスという男が、何か適当な事を吹かしたに決まっている。
もしあの謝罪の言葉や姿を見聞きされていたのであれば、ここまで黙っているはずがない。あの場で糾弾されてもおかしくないはずなのだ。
であれば戻ってくる途中で、サージェスが救出隊に賄賂でも渡して抱きかかえたのだろう。その程度の繋がりであれば崩せなくもない、まだ逃げ切れる。
「それでガイエン様。続きをお聞かせください」
「続きって言ってもな、本当に大した事ないよ? ただ俺達は、ミーズィさんとシューマンさんの会話を聞いていただけだ。木の上から、皆でな」
「き、木の上ですって!? そんな嘘ついて……一体いくらもらったのよ!?」
「ミーズィ様、お静かに願います」
「ミーズィさんは言ってたよ――――裏切った事は謝罪する、組合にも報告する……だから助けて下さいってね」
「う、嘘をつくなァァァァァァァ!!!」
「黒蜂に襲われていたのはミーズィさん達だ。もちろん助けたのはシューマンさん達だよ」
「黙れェェェェェ!!!」
狡猾なミーズィはちゃんと計算していた。救出隊が近くにいる可能性を考慮して、謝罪するしかないという状況に追い込まれた瞬間に周りを確認していた。
倒れる前にも後にもシッカリと確認した。森の奥にも救出隊の姿などなく、木の影だって気配を注意深く探った。
それなのに、木の上にいた? ふざけるな!! あんな高い木の上にどうやって登ったと言うつもりだ!!
「嘘を……つくな!! ならなぜすぐに糾弾しなかった!? ここに来る途中に丸め込まれたんだろッ!?」
「嘘はついていない。あの場で君達の事を糾弾したい気持ちは大いにあったさ。冒険者を見捨てたお前達なんて、冒険者なんかじゃない!!」
「……お前、どこまで知って……!」
「でもね、俺達は部外者だ。君達をどうするのかは彼らが決める事、俺達はそれに従っただけさ」
怒り狂った目で俺の事を睨みつけてくるミーズィ。ミーズィはこれを仕組んだ元凶を俺だと睨んだようだ。
カマロ達はもう諦めているのだろうか、覇気がなく項垂れている。エミレアとシューマン、アイシャは真剣な表情で俺を見守っている。
ご指名とあれば、ご説明させて頂こう。
「シューマンはな、お前にチャンスをやったんだよ」
「チャンスですって……? そう言えば、そんな戯言をほざいてたわね!!」
「俺は初め、問答無用でお前達の罪を暴くつもりだった。お前が謝罪して罪を認めた所をガイエン達に目撃させてから、全員で悪魔を殲滅するって筋書きだ」
「……それが何よ。どっちにしても結果なんて変わらないじゃない」
「そうすりゃお前は弁明の余地なし。問答無用で冒険者登録抹消。二度と冒険者として生きる事が出来なくなるかもな」
「だからそれがッ!! なんだって言うのよ!!」
「結果を変えたのはお前自身だ。シューマンは、お前が素直に非を認めて組合に報告するのなら、冒険者だけは辞めないで済むように便宜を図るつもりだったそうだ」
「はぁ? それ本気で言ってたの? 馬鹿じゃないの!?」
あの時シューマンはこう言っていた。チャンスをあげたいと――――
―
――
――――
――――――――
「――――なぁサージェス……頼みがあるんだけどよ」
「どうした? 早くしないと救出隊が合流しちまう。さっさと動かねぇと」
「その……アイツらに、ミーズィにチャンスをあげたいんだ」
「……チャンス? チャンスってなんだよ?」
「さっきの作戦だと、ミーズィ達は自分達の非を認めざるを得ないだろう。冒険者としていられなくなったとしても、死ぬよりはマシなんだから」
「そうだな。中立な立場の救出隊に自白する場を見られたとなったら、言い逃れは出来ない。救出隊が買収されねぇように見張ってないといけないな……」
「だから、アイツに選択肢を与えたい。救出隊に自白している所を見られなかった場合、アイツには二つの選択肢が生まれるはずだ」
「……組合で素直に自白するのか、やはりまた嘘を重ねるのか……か?」
「そういう事だ。まぁ救出隊と合流した直後に、嘘ついて救出隊を抱き込む可能性もあるだろうが、そこは……」
「……それはなんとか出来ると思うけどよ。聞いていいか? なんでだ、お前は殺されかけたんだぞ?」
「……アイツには一応、恩もあるんだよ」
「恩……?」
「冒険者になりたての俺は、右も左も分からねぇ田舎者だった。依頼を受けても失敗する、簡単な依頼報酬じゃ食つなぐ事で精一杯。そんなボロボロで小汚い俺を、誰も相手にしなかったよ」
「…………」
「そんな俺に、声を掛けてくれたのがミーズィだった。まぁパーティーに加入してみたら、そのクソみたいな性格の悪さがどんどん出て来たけどな」
「……そうか」
「でも……嬉しかったんだよなぁ。今じゃ面影ないけど、アイツが天使に見えたんだぜ!?」
「……そうか。すげぇ目をしてんな」
「拾ってもらった、成長させてもらった、それは恩だ。まぁ酷い性格でな、もう付き合いきれないって時にあの事件だ。流石に、見限らせてもらうけどな」
「……そうか。それで、どうするんだ?」
「冒険者を教えてくれた事に対する恩返しだ! 素直に非を認める事が出来るのならば、冒険者を続けられるように組合に掛け合うつもりだ!」
「……嘘ついたら?」
「そんときゃ……もう知らん!!」
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――――
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―
「――――想いは届かず……か。悲しいね、シューマン」
「ははは……まぁ、こうなる予想はしてたけどよ。恩義は果たした、もう……知らん!!」
「シューマン!! お前ェ!!!」
「――――お静かにお願いします! もう結論は出たようです」
逃げられないと悟ったミーズィが、怒り狂った表情でシューマンに飛び掛かろうとしていた時、力強く響いたのはアイシャの声。
淡々としていた声とは違い、強制力を持った美しい声が組合中に響き、流石のミーズィも一歩踏みとどまった。
「冒険者ミーズィ・ランバル。当組合はあなたを冒険者として認めません。冒険証は剥奪、冒険者登録抹消。今後一切、冒険者になる事は各組合と組合連合会が認めません」
「……ざ……んじゃ……ねぇ……」
「今すぐに立ち去って下さい。幸いな事に、あなたが起こした行動では怪我人も死人も出ていませんので、クロウラ法律罪は適用されません」
「……ひひ……ろす……してやる……」
「……お引き取りを。これ以上引き留まると言うのなら不退去罪で――――」
「――――死ねこのブスおんなぁぁぁ!!! てめぇだけでもぶっ殺してやる!!!」
「――――っっ!?」
「「「「アイシャさん!?!?」」」」
怒り狂ったミーズィの凶刃が、アイシャへと迫る。
アイシャはミーズィの目の前で裁きを下しており、とてもではないが逃げられるものではなかった。
飛び散る鮮血。早々にミーズィはクロウラ守備隊によって取り押さえられたが、流れた血は戻らないのであった。
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