第27話 自由な意義あり!
シューマン達とミーズィ達、そしてアイシャなどの組合職員立ち合いの元で行われていた冒険者裁判。
両者ともに嘘か真実なのかを判断させる証拠を提示できず、ただただ言葉による訴えを吐き出す事しか出来ないでいた。
様々な思惑や、サージェスが強者であったという真実を知る
しかし両者ともに証拠が出せない場合、裁判員の心象が良かった方に有利に傾くのは必然。
その天秤はサージェスの強さが真実だと証明したシューマン達に傾いていたが、事態は急変した。
ミーズィが証拠を提出したのだ。
決定的な証拠ではないにしても、冒険者を救えたのに救わなかった冒険者、というレッテルが
僅かな真実を元に傾いていた天秤は、冒険者としてやってはいけない事をしたという事実によって、大きくミーズィ側に傾くのであった。
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――
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「――――アイシャさん、救出隊の冒険者達を連れてきました」
「ご苦労様です。では救出隊の方々、依頼後で疲れている所を申し訳ないのですが、当時の状況の事を質問させてもらいます」
「ああ、構わないよ」
男性の組合職員に連れられてやって来た、四人の冒険者達。
ついさっきまで一緒だった冒険者達だ。全員が緑色の冒険者という話で、パーティー名は……忘れたな、なんか言っていたような気もするが。
救出隊は、緊急依頼という形で組合がパーティーを選出、編成するらしい。手が空いているパーティーで、依頼地などに適したパーティーに依頼するそうだ。
その報酬は普通の依頼より割高な報酬が与えられるため、断るパーティーは少ないらしい。
そして、今回の騒動の決着の鍵を握るのがこの救出パーティーだ。
「お聞き致します。あなた方救出隊は、朝霧の道と行動を共にしていたはずですが、なぜ別行動を?」
「特別な理由なんかないよ。ミーズィさんが別々に探した方が効率がいいという提案をしてきたんで、それに乗っただけだ」
「分かりました。では次ですが、ミーズィ様達は黒蜂の攻撃により、重度の麻痺状態に陥った。そしてそれを回復させたのは誰ですか?」
「麻痺を回復させたのは俺達だ。組合から借り受けた輝石:解痺の永久輝石を使って、俺達がミーズィさん達の事を回復させた」
アイシャからの問いに淡々と答えていく救出隊の男。この男はリーダーであり、解痺の輝石を所持していた者だ。
黒縄の森は、初心者から中級者の冒険者が頻繁に訪れるらしい。大して手強い悪魔は生息していないが、蟻蜘蛛や黒蜂の被害に遭い命を落とす冒険者は多いとのこと。
そのため組合は、解毒と解痺の輝石を冒険者に無料で貸し出している。この輝石があれば、黒縄の森で命を落とす確率はグンと下がるからだ。
将来立派な冒険者になる者を守るための措置。永久輝石は安くないだろうに、素晴らしい組合努力だと俺は思う。
「次ですが、シューマン様達を救出後、あなた方はずっとシューマン様達と一緒でしたか?」
「一緒だな。この組合に入って別れたんだ」
「では……シューマン様達が途中、輝石を販売店などから購入した形跡などは?」
「それはない。クロウラに戻ったら一目散にここに来た」
事実を確認していくアイシャと、事実を語っていく救出隊の男。
それだけ聞けば完璧にシューマン達の不利。このやり取りでシューマンが輝石を所持していたのにも関わらず、使用しなかった事実が確定したのだから。
「ありがとうございます。ではシューマン様、あなたはなぜ輝石を使ってミーズィ様達を回復しなかったのですか?」
「そ、それは……だから……さっきも言ったように――――」
「――――そいつらが生かす価値もねぇクズだからだろ。他に理由が必要か?」
そろそろシューマンが可哀そうになってきたので、俺は回答者を代わってやった。
ミーズィが与えたチャンスを放棄した時点で、俺はシューマンやエミレアが気分良くなるように、大どんでん返しを演出してやろうと画策していたのだ。
「アンタ……さっきから何なんだよ? 今、私がクズだって言ったのか?」
「あららごめんなさい、聞こえちゃった? めんごめんご」
「ふざけるなよてめぇ……ぶっ殺されてぇのか?」
「……俺を殺すって? お前が? 面白い冗談だけど…………あまり、調子に乗るなよ?」
「――――ッウ!?!?」
明確な殺気をぶつけてきたミーズィに対し、俺も負けじと殺気を飛ばしてやった。
立ち上がり今にも殴りかかって来そうだったミーズィだったが、俺の殺気を受けた身体は震え上がり、立ち続ける事が出来なくなって崩れ落ちるように椅子に腰を下ろした。
ミーズィが喚び醒まされたのは軽い恐怖。それは人なら誰しも持っている感情。
もしその恐怖に支配されてしまったら、人は何も出来なくなるほどの強い感情だ。
「しっかし、同じ兎耳種とは思えないな? 見ろよこの天使! ほんと心から思うぜ。あの時俺の前に並んでいたのがお前じゃなく、ルルゥで良かったってな」
「あぅ……サ、サージェスさん! いきなりはビックリします!」
「いや~暇そうにしてたからよ。ごめんな? こんな事に巻き込んで」
「い、いえ……放ってはおけませんので。あ、あの……流石に今は……その、頭を撫でられるのは……」
ここぞとばかりにルルゥの頭を撫でた俺に厳しい目が飛んでくる。
それはエミレアと、ミーズィの仲間であるカマロ達。それはそうだ、そっちの仲間である兎耳種とは天と地ほども違うのだから。
そしてもう一人がアイシャ。その鋭い眼光に含まれて送られてくる殺気は、ミーズィなんて目じゃないほどに強烈だった。
「サージェスさん。そのくらいにして頂けますか?」
「怒るなよ~……ほれ、アイシャもなでなで~」
「…………後にしてください」
アイシャは犬耳種。後にしろとかいいつつも、俺はアイシャの耳がピョコっと動いたのを見逃さなかった。
恐らくこのまま撫で続けても怒られはしない気がするが、話が進まなくなる。アイシャも立場というのもあるだろうし、ここは素直に引いておこう。
そして俺は、ついに最終作戦を開始するべくアイコンタクトを送った。
「……コホン。ありがとうございました、救出依頼を受けて頂いた冒険者様。他に特に何もなければ、あちらの受付から報酬を――――」
「――――報酬を貰う前に言いたい事があるのだけど、いいかな?」
「……ええ構いません。何かあるのでしたらお願いします」
もう聞きたい事は十分聞けたとして、アイシャは救出隊に礼をした後に退席を促そうとした。
それに待ったを掛けたのは、他ならぬ救出隊のリーダーであるガイエンだった。
「じゃあそれっぽく……異議あり!! なんてね。まず初めに、俺達と朝霧の道には全く接点がない。もちろんシューマンさんとエミレアさんともだ」
「……ええ、失礼ですが調べさせて頂きました。中立の立場でない者の証言を、取り上げる事は出来ませんから」
「なら話は早い。つまり俺達は中立、どちらに肩入れする事もするつもりもない。見聞きした事を事実として、話させてもらう」
話を始めたガイエンに怪訝な表情を向けるミーズィ。ミーズィ的には救出隊の話はもう不要、これ以上かき乱して欲しいとは思わなかった。
不安そうな表情をするシューマンとエミレアを一見した後、ガイエンは話を続けた。
「まぁなんて事はないんだけどさ。嘘を付いているのは――――ミーズィさん達の方だよ」
「そうなのですか……………………は?」
「だって聞いてたもん、俺達」
「「「「……………………はぁぁぁぁぁぁ!?!?」」」」
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