第23話 自由な他人の使い方
ルルゥが見つけた襲われている冒険者達とは、朝霧の道というシューマンの元職場であった。
シューマンは朝霧の道に非道な扱いを受け、命を落としかけた。
その恨みは消えていない。それに裏切られただけじゃなく、奴らの嘘によってシューマン達は、冒険者生活の危機にも瀕しているのだから。
「……ほんで、助けるのか? 俺はどっちでもいいですよ? ルルゥに頼まれているしな」
「助ける訳ないだろ!! 自業自得だ! 俺と同じ状況になってやがる、ざまぁないぜ!」
シューマンが蟻蜘蛛に囲まれていた時のように、朝霧の道も悪魔の群れに囲まれていた。
囲んでいたのは黒蜂と呼ばれる悪魔。蟻蜘蛛より数は少ないようだが、危険度は蟻蜘蛛より高い。
まず奴らは高速で飛び回る事ができる。蟻蜘蛛のように毒糸や溶解酸は吐かないが、相手を麻痺させる事の出来る針を飛ばす事ができる。
奴らの攻撃オプションはそれだけだが、針に挿され過ぎると命に関わる。徐々に体が麻痺していき、心臓が麻痺した時が最後……という訳だ。
まぁ麻痺に耐性があったり、解痺の輝石があればまったく問題なくなる程度の悪魔だが。
「――――サージェスさん! シューマン! お待たせしました!」
「はぁ……はぁ……ね、寝起きには……きついです……」
肩で息をしているルルゥと、飛び起きたのか色々と凄い事になっているエミレアが到着した。
寝起きですぐさま行動できるのは、流石に先輩冒険者エミレアだが……酒臭い。
そういえば朧気ではあるが思い出した。昨日シューマンと二人でバカ騒ぎをしていたと記憶していたが、そう言えばシューマンの隣にいたな、こいつ。
でも話に入ってきた記憶はない。黙々と一人で酒を飲んでいたんだろう。
なんて事を思い出していたら、シューマンが爆弾発言をしやがった。
「エミレア、あれ見ろよ…………というかお前、ちょっと臭いぞ?」
「え……嘘……ご、ごめんね? 急いでいて……その……」
「シューマンさん。そんなハッキリ言っちゃ……」
「……だから貴公はモテんのだ、シューマン。大体一番臭いのはお前だ」
目を伏せてしまったエミレアに寄り添うルルゥ。シューマンはその様子を見てマズイと思ったようだが、何も出来ずにオロオロとするだけだった。
惚れている女の子になぜそんな事を言ってしまうの? 朝霧の道を見て、怒りの感情が喚び醒まされたのが原因ではあるだろうが。
「……おらシューマン、謝れ。臭いって言われて喜ぶ女がいるか? このままじゃお前のフラグは完全に折れるぞ?」
「お、おう、そうだな」
オロオロするだけのシューマンに耳打ちし、行動を促した。
冒険者である前に女、エミレアはそう言っていた。冒険者ではあるが、女を捨てた訳じゃないという事。
異性と旅をするとはそういう事だ。接し方を間違えれば、パーティー崩壊など容易く起こってしまう。
「ご、ごめんエミレア! 無神経すぎた! でも俺……臭いの平気だから! むしろエミレアの臭い匂いなら大歓げ――――」
「――――はいそこまで~。なんで? なんでそうなるの? なんで自らフラグを折るの? もう面倒見切れないよ」
「シューマンさん、サイテーです……」
「…………シューマンのばかぁぁぁぁ!!」
自分より幼いルルゥの胸に、顔を埋めて泣いてしまったエミレア。
それを見てやっと自分の愚かしさを自覚したシューマンは、エミレアが泣き止むまで土下座をした。
せめてもと俺はエミレアの頭を撫でながら、シューマンに悪気はなかった事を全力で伝えた。
赤く目を腫らした酒臭いエミレアは、なんとか泣き止みシューマンの事を許したが……恐らく細かったフラグの棒には、バキバキのヒビが入ってしまったと思う。
これを修復できるか粉砕するかはシューマン次第。俺はもう知らね。
「ほんでどうすんのよ? モタモタしてたから倒れている奴が一人増えたぞ?」
「シューマンさんが最低な事を言うから……というか、助けましょうよ!? エミレアさん、解痺の単発輝石も買っていましたよね!?」
「え……と、うん、買ったは買ったよ? でも、その……」
顔を曇らせたエミレアの視線の先には、険しい顔をしたシューマンの姿があった。
エミレアは事情を知らないルルゥに、朝霧の道との騒動を話す。エミレアはまだしも、シューマンは助けようと動きはしないだろう。
話を聞いたルルゥの顔も曇り始める。シューマンやエミレアの事を考えたのか、それ以上助けに行こうと言う事はなくなり、口を閉じてしまった。
シューマンとは違い、エミレアとルルゥには少なからず自責の念があるようだ。ルルゥは冒険者として、エミレアは元パーティー、そして輝石を盗んだという事実があるからだろうか。
あまりエミレアとルルゥに、ああいう顔はさせたくない。
「……なぁシューマン。冒険者は冒険者を尊ぶ、じゃなかったか?」
「……あんな事をする奴らを、俺は冒険者だと認めない!」
「アイツらがクズだとしても、お前の知り合いだろ? 知り合いが目の前で死ぬぞ?」
「知り合いでもクズはクズだ! ここで助けてもアイツらは同じ事を繰り返すに決まってる! なら……ここで……!!」
エミレアとルルゥは何も言わない、言えない。シューマンの気持ちを、エミレアの想いを知っているから、知ってしまったから。
自業自得と言えばその通り。サージェスがいなければ、ああなっていたのはシューマンだったのだ。
この問題に決定を下す権利があるのは、命を落としそうになったシューマンだけ。そしてこの問題に関われるのは、シューマンの命を救ったサージェスだけ。
エミレアは一度、シューマンを見捨てた身。ルルゥは残念ながら部外者だ。二人に出来るのは、シューマンが後悔しない事を願うだけだった。
「はぁ……仕方ねぇな。なぁシューマン、お前はこれからもエミレアとパーティーを組んで、冒険者を続けるんだろ?」
「そりゃ……もちろんだよ」
「なら利用しろ、あのクズどもを。他でもない自分のため、そしてエミレアのためにアイツらを使え」
「利用する……? 自分のために、エミレアのために……?」
「自分達の状況を忘れたのか? いくらこの依頼を達成しても、確実じゃない。お前が言った事の証明は出来るかもしれないが、言った事が真実だと言う証拠にはならない」
「それは……どうすれば……」
「簡単な事だ。己のために他人を使え。アイツらに自白させるんだ。嘘を言いましたと、組合と衆目の前で土下座させろ」
所詮言った言わないなどを、第三者が判断する事など不可能だ。どちらが嘘を付いているのか明確な証拠でもない限り、嘘を付いたと本人達から自白させる他にない。
人の心が読めるルルゥのような奇跡持ちでもない限り、真実を見極める事は難しい。人の心を読む輝石は存在するが、組合にあるのならすでに使っているはず。
「……アイツらが、そんな簡単に白状するかよ」
「策はある。お前達はアイツらを救ってやる代わりに、真実を話せと迫れ。それが出来ないと言うなら見殺せ。そうなりゃ死人に口なし、強引だがどうにかはなるだろ」
「……分かった。エミレアのため、そして冒険者でいられると言うのならなんでもいい! お前はどうするんだ?」
「俺はちょっと別行動を取る。真実の目撃者を作るために」
そして俺はシューマンとエミレア、ルルゥに作戦を説明した。
あの大量の蟻蜘蛛を難なく退けたシューマン達なら、問題ないだろう。
作戦を聞いたシューマン達三人が、朝霧の道を助けてやろうと動き出したのを確認した俺は、そことは別方向から感じる気配に向け走り出した。
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