第20話 自由な討伐完了!
――――我が喚び声を聞き、目醒めよッ!!
突如襲来した巨大な蟻蜘蛛。気を抜いていた俺は接近に気づくのが遅れ、その結果彼女達を危険に晒してしまうという事態を招いてしまっていた。
森の中から現れた、クイーン以上の巨体を持つ化け物。羽がない事からあれはキングと予想される。
そのキングが持つ巨大で鋭い脚が、今まさにエミレアとルルゥを襲おうとしていた。
「「――――ッッ!? キャーーー!!」」
「――――させるかよッ!!!」
間一髪。俺はなんとかギリギリでエミレア達とキングの間に入り、攻撃を防ぐ事ができた。
多少肩が抉れてしまったが問題ない。俺はキングが繰り出した強靭な二本の足を、両手で一本づづ掴み勢いを殺した。
あと数十センチ、あと一秒でも遅れれば、彼女達は体を貫かれ絶命していた事だろう。
必ず守るなんて言っておいてこの様だ。それは命だけではなく、恐怖からも彼女達を守ると宣言したつもりだったのだから。
「……悪いなお前達。怖かったよな? まぁその……生きていたんだから、勘弁してくれや?」
「サ、サージェスさん!? 血が、血が出ています!!」
「サージェスさん!! 私達の事はいいですから!!」
「いい訳ねぇだろ? 守るって約束したんだ。それにまだ抱かせてもらってねぇからな。体洗って待っとけよ?」
相変わらずの軽口に涙を零してしまう二人。いつも通りのサージェス、いつも通りの笑顔を見て恐怖など吹き飛んでいた。
この人は私達を守ってくれる。でも守られているだけではいけない。
今の私達に出来る最善の事。それはサージェスの邪魔をしない事であった。
「シューマン!! 二人を頼むぜ!!」
「お、おう!! 任せろ!!」
遅れて駆けつけたシューマンが二人を引き離すのを見届けた俺は、体全体に力を張り巡らせた。
彼女達はいても構わなかったが、キングが流すきったねェ体液を浴びせてしまうのは可哀そうだしな。
≪ギジジジジジジジジィ!!!≫
「そんなに怒るなよ? まぁ奥さんを殺されて怒るのは分かるが……俺の未来の妻達を殺そうとしたって事で、お相子といかないか?」
――――バキッッ!!
≪――――ギジジジジジジィィ!?!?≫
「あら、足が折れちまったな? まぁ先に手を出したのは俺達だが……今までお前らも自由に沢山の人間を食ってきたんだろ? だが今日お前の自由は、俺の自由のために死ぬんだ」
≪ギジジィィィィ!!!≫
もう二本も足が折れたというのに、まったく闘争心がなくならないキング。父は強という事だろうか。
再び二本の足で俺を刺し殺そうとしてくるが、俺も再びそれを掴み拘束する。
正直かなり気持ち悪い。匂いもキツイしそろそろ終わらせるか。
「自分の自由には、覚悟と責任を持てよ? それが自由でいるための条件だ――――じゃあな」
≪ギジジジジィィィィィ――――≫
煙草に火を付けるための輝石:火を使い、キングを焼き殺した。
通常、輝石:火はここまでの火力は出ないが、本来の力を引き出せる俺には造作もない。
しかし力に耐えられなかった輝石は砕け、俺は火を失った。勝利の一服でカッコつける事も出来やしない。
もしかして、炎の単発輝石は残っているだろうか? エミレアに聞いてみるか。
「――――サージェスさん!! サージェスさぁぁん!!」
「おうエミレア! 悪いんだけどさ、火貸してくんない――――オウフッ!?」
涙を流したエミレアに突進され、情けなくも俺は大地に転がり込んでしまった。
胸に当たる素敵な胸の感触が素敵だ。エミレアはそのまま俺の胸の中で泣き始めてしまった。あれほどの恐怖だったのだ、仕方のない事だろう。
「エミレア。鼻水と涎を俺の服に付けてないで、肩を回復してくれないか?」
「あぅぅごべんなさい~……か、回復、すぐに回復しま――――」
「――――私がサージェスさんの事を癒します。お疲れ様でした、サージェスさん」
もたついていたエミレアを押しのけ、俺の肩に回復の奇跡を起こそうとしたのはルルゥだった。
目に涙を浮かべながらも、ルルゥは優しい目で俺の事を見つめている。
「ちょ、ちょっとルルゥ!? それは私がやるよ!」
「結構です。そんな事より、サージェスさんの負担になるので早く離れて下さい。それに私の本職はヒーラーですので、エミレアさんよりサージェスさんの事を癒してあげられます。色々な意味で」
「い、色々な意味で……!? で、でもでも、神力は私の方が……」
「力はあっても知識がなくては意味がありません。あなたは知っているのですか? サージェスさんの事を癒す方法を。色々な意味で」
「だ、だから色々な意味って何!? もういいから! 代わってよぉ~」
「お、おいお前ら! あのサージェスが苦笑いしてるぞ!? ほどほどに――――」
「「――――シューマン(さん)はどっか行ってて!!」」
「べ、別に羨ましくなんてないんだからねぇぇぇ!! チクショーーー――――」
相変わらず道化を演じ、俺を楽しませてくれるシューマン。
泣きながら走り去っていったと思ったら、イソイソと蟻蜘蛛が落とした輝石を回収し始めた。
そして未だに、俺の肩をどちらが癒すのかで言い合いをしている二人。コイツらがいるお陰で俺の冒険には華が咲いている。
今回の冒険は、シューマン達の冒険でもあるが俺の冒険でもあった。三人のお陰で、俺の冒険が楽しくなっているのは事実だ。
行きも帰りもバカ騒ぎをしながら、作戦会議中も戦闘中も緊張感なく冗談を言い合う。一人では決して出来ない、自由な冒険者の姿の一つ。
しかし今回は最後の最後でやってしまったな。組織に輝石を置いて来なければもっとスマートに、もっと安全に彼女達を守り救えたはずだ。
弱者は守るもの……なんて崇高な精神はないが、約束したからな。約束した以上、俺はそれを破るつもりはない。
「もうっ! エミレアさん! 私はヒーラーですよ? 邪魔しないで下さい。この傷は早く塞がないと大変な……事に…………あ、あれ?」
「結構深そうな傷だから、私の方が早く治せるもん! だからこの傷は私が……私が……あれ? 傷は……どこ……?」
「んなもんもう治ったよ。出来れば女の子に治してもらいたかったんだが、流石に遅いからよ」
言い合いを止めた二人が、驚いた表情で俺の肩を凝視する。
服は破れ血が付着しているが、肝心の傷口が見当たらない。まるで怪我など初めからなかったかのように、綺麗に傷口は塞がっていた。
「サ、サージェスさん。回復の輝石……渡しましたっけ?」
「もらってないよ。人には誰しも自然治癒力ってのがあるだろ? ほっときゃ治るんだよ」
「放っておいて治るような傷じゃなかったと思いますけど……」
ペタペタとサージェスの肩を触り、本当に治っているかどうかを確認する二人。
擦り傷程度であれば放って置いても治るのだろうが、とても自然治癒力なんかで治るレベルの怪我ではなかったはずだ。
傷から目を離した数十秒の間に起きた奇跡、異常な治癒力。
しかし二人は、あの異常な力を持つサージェスならあり得るか……と、それ以上の追及はしなかった。
「さてと……おいシューマン!! 輝石の回収は終わったか?」
「終わったよ!! お前が女の子とイチャイチャしている間に終わったよ!!」
「キングが落とした輝石も見てきてもらえる? 俺はもうちょっとイチャイチャしてるから」
「ははは、了解だ…………ッチクショーーーー!!!」
その後四人は全ての輝石を回収後、帰路に就いた。
運が良い事に、キングが落とした輝石は上級の輝きを放っており、これだけでも報酬としては十分なものとなった。
クロウラに戻る前に、森の外れで野営をする四人。そして相変わらずの馬鹿騒ぎ。
シューマンの事をサージェスが
赤依頼だったというのに、死人も怪我人もなし。最高の形で依頼を完遂した四人の騒ぎ声は、夜遅くまで響いていた。
――――
「――――ところでサージェスさん。凄い威力の奇跡でしたけと、どうして初めから使わなかったのですか?」
「それは俺も思った! そもそもお前、出会った時は蟻蜘蛛なんて一瞬で蹴散らしたじゃないか」
「サージェスさんって強いんですね。ただの女たらしな新人冒険者だと思っていました」
「だって冒険だぞ!? 苦難を乗り越え仲間との絆を深め、達成したという充実感に包まれる! 呆気なく終わったら面白くないだろ!?」
「「「いえ、簡単に終わるなら終わってくれた方がいいです」」」
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