第13話 自由な兎耳種
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「――――お~ここだな? 新規登録の受付は」
シューマンとエミレアと別れた俺は、自由な片翼の冒険者となるために、冒険者登録を行おうと受付に並んでいた。
他の窓口より比較的空いているため、順番は早く回って来そうである。ただボーッと待っているってのは性に合わないのだが、煙草吸う訳にもいかないしな。
俺の前には三人ほどの男女が並んでいる。普通に考えたらコイツらも、冒険者になろうとしてここに並んでいるって事だよな?
ならこのチャンスを逃す手はない。友達を作らねば。
「お嬢さんお嬢さん! これから同期の冒険者ですな! 宜しくお願いします!」
「え……あ、はい。よ、よろしくお願いします」
自分の前に並んでいた、
仮に神に見捨てられた顔面だった場合の対応も用意していたが、流石は神に愛される俺様だ。またまた俺は賭けに勝ったようだ。
振り向いた兎耳種の女性。透き通るような肌に、新雪を連想させるような真っ白な髪。赤い瞳が素晴らしく似合っている、誰が見ても美人と呼べる可愛い子であった。
「ぬぅ……予想以上に可愛いな。お嬢さんは、どうして自由な片翼に?」
「あ、えと……姉が自由な片翼の冒険者なので、だから私も……」
「そうなんですか~! お姉さんもさぞ美しいのでしょうね。あなたを見れば分かります」
「あ……えへへ、ありがとうございます。姉を褒められるのは嬉しいです。姉は私の目標なんです。いつか私も、姉のようになりたいんです」
そう言ってやっと愛想笑いでない微笑みを見せた彼女。長く白い耳がぴょこぴょこと動いる様子は、特殊耳人種の感情表現の一つであった。
姉がいるという情報を得たからには、それを活用しない手はない。話の種にもなるし、なにより身内を褒められて嫌な感情を覚える者は少ないだろう。
これぞ人付き合いのコツよ。八方美人でいいのだ、俺はそれを悪いとは思わない。
なによりこの子とは同期となるのだ。良好な関係を気づく事は決して悪い事ではない。
「同じ組合を目指し、この日この時間この列で前と後ろに並んだ仲なのです。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「そう言われると、凄い事な気がしてきました。えと……私の名前はルルゥ、ルルゥ・ラウラです」
「おやおや、お名前まで可愛いとは。私はサージェス・コールマンと申します」
「褒めて頂きありがとうございます。あの……サージェスさん、無理してお話してますよね? 普段はそんな喋り方じゃないのでしょう?」
そう言われてハッとする。彼女の赤い目から感じる不思議な感覚、それは序列三位なんてものをやっていた時によく感じた感覚だった。
それほどまでに忘れ去られた力。もっともルルゥの場合、純粋な奇跡を持ってはいるようだが、制御出来ていないようだな。
「……綺麗な目だな? まるで何もかも見透かされちまいそうだ。珍しい力を持っているなルルゥ。純粋奇跡とは、綺麗な力だ」
「……っえ!? いま……」
ルルゥの赤く綺麗な目は見開かれ、驚きを全力で表現していた。さっき言ったように純粋な奇跡持ちは珍しく、それを感じ取る事が出来る者も少なくなった。
ルルゥの様子から、純粋奇跡を持っている事はあまり知られた事がないようだな。
「大事にしろよ? 神からの贈り物だ。まぁあまり……強力な力は宿ってなさそうだな」
「…………クスッ。はい、大事にします。仰る通り、私に宿っている力は強くありません。見つめた人の感情がびみょ~に、ほんっとびみょ~に分かる程度です」
「びみょ~なのか! じゃあ俺の方が強力そうだな? 俺は今ルルゥが思っている事が完璧に分かるぜ? この人……カッコいい……抱かれてもいいかも……だろ?」
「クスクス――――残念、大ハズレです!」
≪――――次の方、前へお越しください≫
出会ってから一番の笑顔を見せてくれたルルゥ。純粋奇跡を持っている奴は隠す奴もいるため、話そうかどうか迷ったが問題なかったようだ。
とりあえず同期との関係は、良好であると判断しても良いだろう。ルルゥのような可愛い子に嫌われるのは勘弁だからな。
「じゃあサージェスさん、お先に失礼します。あの……もし冒険者になれたら、一緒にパーティーを組みませんか?」
「お前やっぱり抱かれてもいいって思ってるだろ? 考えとくよ」
「クスクス――――はい、考えておいてください。では、失礼します」
小さく手を振ったルルゥは、端の受付に小走りで駆けて行った。
彼女はもしかすると、凄い冒険者になるのかもしれないな。俺はさっきああ言ったが、純粋奇跡が非力であるはずがない。
彼女は忘れている、眠らせているだけ。その身に宿った神の奇跡が喚び醒まされた時、彼女はその力をどう扱うのだろうか――――
≪――――はい次の方、どうぞ~≫
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――
―
――――さん? ――――ジェスさん?
遠くの方から女性の声が聞こえる。
どこかで聞いたような、ついさっきまで聞いていたような透き通った声が聞こえる。
俺は別に眠っている訳ではない。目は開いているし、耳だって機能している。ただ頭が……俗に言う放心状態ってやつだ。
どこで何を間違った? 俺が何をした? いや色々間違ったし色々したか。
――――サージェスさん――――サージェスさんってば!
こんなのってありかよ、あんまりだ。さっきまでルルゥと楽しく会話していたのが嘘のようだ。ルルゥとエミレアとパーティーを組むのもいいかもな~、なんて考えていたのに。
ルルゥ……そうだ、ルルゥだよ。この声はルルゥだ。
なんてこった、今さらどんな顔して彼女に会えってんだ。どんだけ残酷なんだよ神様。
「サ、サージェスさん? ど、どうして……泣いているのですか……? どこか、痛いのですか?」
「…………」
ルルゥの心配してくれている声がハッキリと聞こえる。彼女の負の感情が流れ込んでくる。放っておいたらその内泣いてしまうそうな勢いだ。
仕方がない。俺が理由で女性が泣いてしまうのは、あまりよろしくない。
「サージェスさん……本当に……どうしちゃったんですかぁ……」
「……馬鹿、泣くなルルゥ。その綺麗な瞳に、涙は似合わないぜ?」
「サ、サージェスさん! っもう! 心配したんですから! 目を見開いて口を開けて放心しているかと思ったら、急に涙と涎が溢れ出て来たんですから……」
「よ、涎もか? あ、ほんとだ。失敬失敬、紳士に有るまじき姿をお見せしました……」
目に涙を浮かばせたルルゥは、俺が大丈夫そうだと分かりやっと笑顔を見せてくれた。
かくいう俺はなんて情けない。涙はまだしも涎まで垂れ流していたとは。そんな気味の悪い状態の男だったと言うのに、よく逃げずに目を醒まさせてくれたもんだ。
そんなルルゥの左胸付近には、片翼を象ったバッジのようなものが光り輝いていた。
「ルルゥ、良かったな! それが冒険証か? そう言えばシューマン達の胸にもあったけな。晴れてルルゥも自由な片翼の冒険者って訳だ!」
「あ、ありがとうございますサージェスさん。でもこれは組合証です。冒険証の発行は明日になるそうなので……」
「そうなのか! いや~俺何も知らないからよ、恥かいてしまったな!」
「い、いえ……私もそんなに、詳しい訳では……」
「ど、どうしたルルゥ? なんでそんな泣きそうなんだ? 冒険者になれたんだぞ? もっと喜べよ!」
姉の様になりたいと、力強い目で話していたルルゥだ。どうしてそんな顔をするのか分からな…………ま、まさか、バレたか? バレたのか!? それは恥ずかしい!!
「じゃ、じゃあルルゥ! 俺はちょっと用事があるからよ! 今後ゆっくりデートでも――――」
「――――どうして隠すのですか? 私の奇跡を知っていますよね? 綺麗だって褒めてくれましたよね? 今、貴方の心は泣いています……」
「うぅぅ……な、泣いてなんかないやい!!」
「私には分かります。貴方は泣いている、貴方は苦しんでいる。私に隠し事は出来ません……いいえ、私に隠し事はしてほしくありません。私は貴方の……同期なのですから!」
「……ど、同期……同期…………うぅぅ、お~いおいおいおいおいおい……うえェェェん!!」
あまりにも悲しくなり、俺はルルゥの胸に飛び込んだ。涙と鼻水でグチャグチャな俺を、まったく気にした様子もなく受け止めてくれる彼女。
まったく申し訳ない。俺は彼女になんて事をしてしまったんだ。ちなみにメッチャいい匂いする、ちなみに胸は小ぶりやね。
「なんでも言って下さい? なんでも吐き出してください? 私が貴方の悲しみを背負うお手伝いをします。させて下さい、同期なのですから」
「……うぅぅぅ……ごめんよ…………うぅぅぅ……」
「大丈夫……大丈夫ですから。どうしたのですか? サージェスさん」
なんて優しい子なんだ。こんな優しい子に会った事ない! 女神か? もしかして女神の生まれ変わりなんじゃないか!?
ルルゥなら、俺の悲しみと絶望を受け止めてくれるのだろうか? ちょっと……結構ビックリすると思うけど大丈夫?
「………………した」
「……はい?」
「…………落ちました」
「落ちた……とは? なにが、落ちたのですか?」
「…………冒険者登録、落ちました」
「………………えっ!? 落ちたの……ですか?」
「……はい見事に。つまりその……同期じゃありません」
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