第14話 自由な優越感
意気込んで冒険者登録をしに来ていたサージェスであったが、結果は見事に不採用。就職活動に失敗し、悲しみに打ちひしがれていた。
そんなサージェスの事を必死で慰める、先輩冒険者のルルゥ。
本来であれば今頃は同期の冒険者として、未来の冒険の話に華を咲かせている頃であったのだろうか。
「げ、元気を出してください。登録試験は何度も受ける事が出来るそうですし、まだチャンスはあります!」
「……ありがとうルルゥ。でも俺はもうダメだ! 就職率は高いと聞いていたのに、見事に不採用! 俺は社会不適合者なんだ!」
「そ、そんな事ないです! きっと次は大丈夫ですよ。私はサージェスさんと一緒に冒険がしたいです。私、いつまでも待ってますから!」
「ルルゥ……なんてええ子なんや。こんな俺を待ってくれると言うのか? こんな社会不適合者で無職な俺でもいいと言うのか……?」
「あ、いえ……無職はちょっと……働いてくれないと困ります……」
やはり無職はダメらしい。ルルゥはヒモになる事を許さないタイプか。エミレアなんかは逆に、ダメ男に貢いでしまいそうな感じだが。
しかしルルゥはこう言ってくれているものの、恐らく再び登録しようとしても厳しいだろう。
というか次は、試験を受けさせてくれるかどうかも怪しい。それほどまでに先ほどの組合職員の行動はおかしいものだった――――
―
――
――――
――――――――
「――――お待たせ致しました、サージェス・コールマン様。先ほど行わせて頂いた実技試験、筆記試験、面接ともに問題はないと当組合は判断致しました」
「おおぉ! 待ちに待ちました! という事は……私は合格、冒険者になれる! 自由な片翼に就職できるという事ですな!?」
「ええ、その通りでございます。後は組合長の許可が出れば、貴方様は晴れて自由な片翼の冒険者となります。ここまで来て登録出来なかった冒険者は過去におりません」
眼鏡を掛けた真面目そうな犬耳種の女性が、天使に見えた瞬間であった。
ずっと仏頂面で笑顔を見せなかった彼女ではあったが、ついに笑顔を見せてくれた。身内に優しいという事なのだろう、彼女の笑顔が再び仏頂面にならないように頑張らないと。
なんて柄にもない事を考えていた時であった。応接室の扉が開き、男性の職員が眉間に皺を寄せながら入室し、何か書類のような物を彼女に渡していた。
その書類を受け取った彼女の様子、それは異様なものだった。
あれほど冷静沈着であった彼女は慌てた様子と動揺を見せ、何度も男性に確認を取っていた。しかし男性職員の首は縦に振られる事はついになく、険しい顔のまま退室していくのであった。
「あの……何かあったのですか? 私に緊急討伐依頼とかでしょうか? 流石一流の組合ですね、我が力を見破るとは。もちろん報酬を弾んでくれれば――――」
「――――サージェス・コールマン様。申し訳ございませんが、当組合は貴方様を冒険者として認める事は出来ません。今回はご縁がございませんでした。貴方様の今後のご活躍とご健勝を心よりお祈り致します」
「お祈り!? これが俗に言うお祈り!? あわわわわ……だ、だってお姉さん! さっき問題ない、大丈夫だって……」
「当組合上層部の決定です。お引き取り下さい」
再び仏頂面になった彼女、もう身内ではないという事なのだろうか。身内にすらなっていなかったとは思うが。
まさかの不採用通知。目立たないようにワザと手を抜いた事がバレたとか、そういう事ではなさそうだ。
何か俺の知らない所で動いた圧力。もしかしたら俺の就職活動はかなり大変な事になるのかもしれない。
その後、放心状態の俺は退室を促され、そしてルルゥに慰められるに至るのだった――――
――――――――
――――
――
―
「――――あの、サージェスさん。これからどうされるのですか?」
「ん~そうだな~。冒険者にはなるよ? それが俺の目標だからな。とりあえず他にも組合はあるって話だから……そっちに行ってみっかな」
「そ、そんな……サージェスさん。同じの組合の冒険者になりたいのに……」
俯くルルゥの姿を見て罪悪感に苛まれるが、現状どうする事も出来ない。
俺だってルルゥやエミレア、ついでにシューマンと同じ組合に属したいという気持ちはあるが、全に認められない個は全になれないのだ。
今の俺に出来る事はこれしかない。いつの間にか立場が変わってしまったが、俺はルルゥの綺麗な髪色をした頭に手を降ろし、慰めるように頭を撫でた。
「ん……サージェスさん……みんな見てますよ……?」
「そりゃルルゥが可愛いからだな。まぁ見せておけよ、俺にもう少しだけ優越感に浸らせてくれ」
「クスクス――――こんな安い優越感でよければ、いつでも――――」
「――――サ、サージェスさん!? また浮気ですか!? 昨日といい今日といい、一体何人の女の子に手を出すつもりですか!?」
ルルゥの頭を撫でながら、今後どうするかを考えていた時に大きな声が聞こえた。
まわりの注目などお構いなしの声量で、俺の行動を非難するような声色。その声には聞き覚えがあり、俺は万が一の事を考えて即座にルルゥの頭から手を離した。
「おうエミレア、パーティーの登録はもう終わったのか? 結構時間が掛かると思うとか言っていなかったか?」
「そ、それが……ちょっと問題が起きて……いやそんな事どうでもいいんです! そんな事よりその女の子の事です! 一体どういうご関係ですか!?」
鬼気迫る表情をして俺を問い詰めたのはエミレアだった。エミレア達は、パーティーの脱退と申請を行うために別行動を取っていたのだが、それには時間が掛かるという話であった。
別れてからさして時間は経っていない。先の発言から何かあったのだろうと推測し始めた時に、若干息を切らしたシューマンが口を開いた。
「エ、エミレア……お前、そんなに足早かったか……? いやそれより、そんな事ってなんだよ!? 俺達のパーティーの事――――」
「――――それどころじゃないの! シューマンはどっか行ってて!!」
「お前までそんな事言うのかよ!? 俺ってそんなに邪魔な存在なのか!?」
相変わらず邪魔者扱いされるシューマンに同情するが、それどころではこちらもない。
エミレアの状態から適当な事を言うと後が面倒だし、横に座っていたルルゥは困惑した表情をしつつも、俺の腕を取り自身の体に引き寄せたのだ。
その様子を見て目元をピクつかせたエミレア。急いでルルゥとは反対側に腰かけ、負けじと俺の腕を取り同じように自らの体に押し付けた。
「サージェスさん、さっきその子の頭を撫でていましたよね? 煙草でも貰ったのですか?」
「……お前は俺をどんな奴だと思ってんだ? 煙草さえ与えれば何でもしてくれるとでも思ってんのか?」
「そ、そんな事は思っていません! ただ理由が気になって……あ、そうだ! さっき来る途中に煙草の売店があったので買っておきました! はい、どうぞ!」
流石天使エミレア。気が利くと言うレベルではない、未来を見越す能力でも持っているかのような有能ぶりだ。
スモークジャンキーだと思われていた事は心外だが、俺のためを思ってくれたのは事実。恩には恩を、報いねばならない。
「おぉ流石エミレア! 傷心のあまり五本一気吸いとかしたから切れかけててよ。ありがとな、お前は俺の事をよく分かっている」
「あ……えへへ……サージェスさんの事は、なんでも分かります……」
今朝ぶりにエミレアの綺麗な頭を撫でる。今の俺に出来るのはこのくらい、彼女が嬉しいと言うのならいくらでも撫でてやる。
いつフラグが立ったのか分からないし、こんなダメ男に貢ぐようではこの先心配になるが。というかお前、なんでも分かると言うけど煙草の事しか分からないだろ。
ルルゥとエミレアを両側に侍らせているのだ、更に多くの目が集まるのを感じたが、俺はもう目立つのなんてどうでもよくなっていた。
どうせ自由な片翼には就職できないし、自由な片翼で働いているコイツらにどう思われようがどうでもいい。精々束の間の優越感に浸らせてもらおうじゃないか。
そんな行動をエミレアに取っていた時、不意に腕に込められる力が強くなったのが感じられた。
左手はエミレアを撫でるために動いている。それとは反対側、ルルゥが掴んでいた腕に力が込められたため、確認するために俺はルルゥへと振りむいた。
そこには先ほどまで困惑していた彼女はおらず、不機嫌さを前面に押し出したルルゥの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます