第11話 自由な冒険者組合

 





 翌朝、サージェス達三人は冒険者組合に向かって歩いていた。


 冒険者組合への訪問の理由は二つあり、ひとつはもちろんサージェスの冒険者登録。もう一つは、シューマン達の新たなパーティー登録であった。



「――――パーティー登録? パーティーを組むのも組合に登録が必要なのか?」


「そういう事になっているな。冒険者は仲間を尊ぶ、もちろんミーズィ達のような冒険者もいるが……本来は仲間を見捨てるなんてご法度だ! パーティーの管理は組合の仕事の一つ、依頼から戻って誰かがいなくなっていた……なんて場合は徹底的に調べられる」


「パーティーを組むのも抜けるのも、組合への報告は絶対にしなければなりません。神殿や神宮に挑んで万が一が起こった時などは、組合がパーティーの人数などを把握して、救出隊の編成などに役立てられます」



 賢い振りをした二人が丁寧に説明をしてくれた。恐らく冒険者であれば常識の事なのであろう。俺は目立たず平穏な冒険者生活を送りたいのだ、こういう事は聞いておいて損はない。


 周りが黒い中、白でいると大層目立つ。ならばどうすればいいか、自分も黒になればいいだけなのだ。しかし何も全てを黒で染める必要はない、黒にソックリな色で表面だけを塗りたくればいい。


 それであっても誰も気づかない。わざわざ俺という個を手に取り、表面に塗られた色を拭い取ろうなんて、そんな暇な奴がいるとは思えない。



「ふはは、貴様らの情報で我を塗り固めよ!! 我は個から全となる!!」


「……どうした急に? 酒の飲み過ぎか?」


「煙草も吸い過ぎですよ? あっ、サージェスさん! 煙草、言われた通り買っておきましたよ? はい、どうぞ!」


「おーありがとうエミレア! 悪いな、小銭がなくてよ。これからも頼むぜ?」


「はいっ! これからも頼まれました!」


「頼むな頼まれるな!! 吸い過ぎとか非難しておいてどうして買うの!? せめてこれからは自分で買え! うちのパーティーメンバーのヒモになるんじゃない!!」


「ほれ、約束の頭ナデナデだ。ところで金は大丈夫か?」


「はわわ……サージェスさんの撫で方……好きです。お金は大丈夫です! パーティー資金の管理は私が任されましたので!」


「お前に任せた事を俺は今激しく後悔している」



 ワイワイといつもの掛け合いを繰り広げながらも、三人は歩き続けた。


 そしてようやっと、目的地である冒険者組合が見えてくるのであった。



――――――――

――――

――



「――――おおおおぉぉぉぉ!!! ここが冒険者組合!! という事はコイツら全員冒険者か!?」



 見渡す限りの人、人、人。流石に大きな都市だけあって活気が凄まじい。


 人混みは嫌いではない、煙草が吸えないと言う難点はあるが。その他大勢に混ざり全となる。全の良さは優位性、安全性、そして他人任せ。実に楽な状態であるという事だ。


 しかしこれは全ではない、ただの個の集まりだ。


 なにが違うのか、それはコイツらが互いに互いの事に無関心という事。個でありながら全を形成す。この中では個でいられるのに、誰も俺の事を個として見ない。


 俺もお前らと同じ、個で形成された全。自由の一部になれたという事だ。



「さぁてと、では参りましょうか? その他大勢シューマンと特別エミレア」


「なんか引っ掛かる言い方だな? 参るってお前、本当にこの組合でいいのか?」


「サージェスさん! 私は特別なのですか!?」


「この全という有象無象の中で、エミレアの容姿体型は群を抜いている。もちろん他にも群を抜いている女はいるだろうけどな。シューマンは有象無象だ」


「悪かったな有象無象で! でもまぁ確かに、視線は感じるわな」


「ご、ごめんなさい……なにか、私のせいで……」


「謝る必要はない。所詮この場は個の集まりなのだから、目立つ個がいて当然だ。その個と一緒にいる俺達も目立っている。そう、俺達は……目立っている……!!」



 有象無象になり切っているのに、目立つ子といるだけで目立つ個に。注目を浴びているという程ではないが、この状態は好きではない。


 さっさと行動した方がよさそうだ。自分から始めた様な気もするが。



「なんか宗教っぽい奴だな? もしそういう心があるなら、神の軌跡が運営している冒険者組合に登録するのがいいんじゃないか?」


「…………シューマン今なんと? 神の軌跡が運営している……冒険者組合!? あの組織ってそんな事もやってたんか!?」


「そ、そんなに驚く事か? あれだけ大きな支持母体なら、冒険者組合を運営していてもおかしくないだろ? むしろやっていない事業を探す方が難しいんじゃないか?」


「し、知らんかった。表で色々やっているのは知っていたが……」


「サージェスさん。この大陸には冒険者組合が複数あります。先ほどシューマンが言った、神の軌跡が出資して設立した冒険者組合、【神の恩寵】は世界最大級の規模を誇る大型の冒険者組合です」


「そ、そうなのですか。複数とは……いかほどですか?」


「有名どころだと四つ……中堅も含めると十は超えるな」



 シューマンとエミレアが教えてくれた新情報。冒険者組合は一つではないそうだ。


 有事の際に各組合が協力して事に当たる、なるものはあるらしいが、基本的に冒険者はいずれか一つの組合に属す形となる。


 属す組合によって依頼の数や質は区々まちまちなため、どうしても冒険者の数にバラつきが生じてしまっているらしい。


 しかし組合には連合会議で定めた定員があるらしく、望んだ組合に必ずしも属せると言う訳ではないという話だ。


 組合の質は冒険者の質に直結する。下手な組合を選んでしまうと、後悔するから注意するようにとの事だが、注意と言われても何を注意すればいいのか分からない。



「ちなみにここは四大組合の一つ、【自由な片翼】だ! 俺とエミレアは自由な片翼に属する、黄色の冒険者って事になる」


「おススメはやはり四大組合に属する事です! 所属するための条件は多少厳しいですが、四大組合は定員割れを起こしているので、実力さえあれば所属できます!」


「自由な片翼……素晴らしいな! 自由を求める俺にピッタリだと思わないか!?」


「後は神の恩寵と……商業連合が出資している【強欲な天使】があります! あと出資先は不明ですが、【天啓】という組合もありますね」


「ふむぅ……迷うな。強欲な天使、カッコいい……天啓、謎とかミステリアスで心が揺さぶられるな……」



 名前だけ聞いても正直よく分からない。無難なのはやはりシューマン達と同じ、自由な片翼に属する事だろう。今まさにいるのが自由な片翼だし、今から他の組合に行くのが面倒臭いってのもある。


 神の恩寵は論外。親組織に退職届を叩きつけて、子組織に再就職するようなものだ。親組織からどんな嫌がらせをされるか分かったものじゃない。


 強欲な天使は、商業連合が運営との話だったな。宝を見つけて持ち帰り売りさばく、ここら辺は強欲の天使が強そうだ。


 天啓は……あれだろ? なんか宗教っぽい奴が多そう。神のご意志です! 天啓に従いなさい! という感じなのではないだろうか?



「どうするサージェス? もちろん四大組合以外に属するのも一つの手だぞ? 弱小組合を一から育てる、エースになるって意気込む奴も多いらしいからな」


「それも面白そうだな。でもまぁここは……お前らと同じ自由な片翼にしとくわ! 名前が気に入った、俺も自由な翼が欲しいぜ!」


「ほ、本当ですかサージェスさん!? やったー!! これで同じ組合の冒険者ですね!!」


「それは早計だぜエミレア? まだ認められた訳じゃない、なんか知らないが審査的なのがあるんだろ?」


「サージェスなら問題ないと思うぞ? 自由な片翼は四大組合の中じゃ一番所属しやすい。多少実力があって、あとは素行や悪行などの簡単なチェックが入るだけだ」


「そ、素行不良……? 悪行……!? ぜ、前職の事とかも聞かれるのだろうか……?」


「私が所属する時は聞かれましたよ? 私はただの村娘でしたので、無職ですって答えましたけど」



 あははっと相変わらず可愛い笑顔を見せてくれたエミレアであったが、俺は焦っていた。


 組合の情報収集力がどれほどのものか分からないが、もし神の軌跡の実行官エクスだったなどとバレてしまったら……。


 …………ってバレる訳ねぇか。そんな簡単にバレていたら、退職しようとした俺を殺そうとまでする訳がない。


 神の軌跡の裏の顔を知っていて、組織の外で生きている者がどれだけいるか分からないが、情報統制なんて朝飯前だろう。


 無駄な事を考えるのをやめた俺は、二人がパーティーの脱退と再結成の申請をしに行ったのを見送った後、新規冒険者登録を行っているという受付へと足を運んだ。

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