第9話 自由な演劇
朝食を済ませた俺達三人は、中継都市クロウラに向かって歩いていた。
特に異常もなく進む行程。このまま順調にいけば、夕方前には着けると思うとシューマンは言っていた。
しかし順調なのはいいのだが、後ろを歩く二人は
まったく、なぜ俺が気をつかわなければならんのだ?
「ほんでお前らさ……いや、シューマンには聞いたからエミレアか。お前はクロウラに着いたらパーティーに戻るのか?」
「あ……いえ、私もパーティーを抜けます。そもそも私はパーティーの物資を盗みました、それを許す人達ではないので……」
「……俺に気を使っているのなら、気にしなくていいぞ? エミレアの事は信じる……許してるから、後は好きにしたらいいさ」
「ありがとうシューマン。でもいいの、あの時ハッキリと分かった。この人達は、仲間を簡単に見捨てる。冒険者としてそれは許されない事だし……なにより私は、そんなパーティーにいたくない」
「そ、そうか……な、なら……俺とパーティーを組み直さないか? また一からやり直そうぜ? エミレア」
「うん……そうだね! そうしましょう! シューマン」
はい一件落着。仲直りできてよかったね? なんかムカつくが、まあいいや。
まったく俺はどこまでお人よしなんだか。正直に言って、今回の件はお前達にも責任はあるぞ? 完全に俺の持論にはなるがね。
お前達は冒険者、自由ではあるが責任もある。自分に何が起こっても自分の責任で、自分の自由には責任を持たなければならない。
今回で言うと、確かにお前らの元パーティーリーダーは、非情で人でなしの選択をしたのだろう。しかしそうなる状況に置かれたのは、お前達の責任だ。
簡単に言えばお前達は弱いのだ。自分の力で状況を変える事の出来ない弱者、力がないのはお前達の責任だ。
お前達より強者であったリーダーは、パーティーを守るために最善の選択をしたのだろう。それは間違いではない。その程度の力しか持たないパーティーであったのだから、当然の行動だ。
そしてそんな行動を、相手の自由を弱者には非難する資格はない。それが冒険者というもの、それが自由であるという事だろう。
他人の自由は自分の不自由、それは弱者の言い訳なのだから。
「――――なんて、冒険者の事なんて何も知らないけどな」
「サージェス? 冒険者の事が知りたいのか? そう言えばお前、冒険者なのか? 冒険証は持っているか?」
「……冒険証? なんだそれ?」
「冒険証はその名の通り、冒険者の証だよ! 冒険証を持っていない者は冒険者として認められないんだ」
「え……マジで? じゃあ俺って冒険者じゃないの!? 心が冒険者なら冒険者になれるんじゃないの!?」
「お、お前なぁ……そんなに緩かったら大変だろ? 冒険は遊びじゃないんだ、命を落とす事だって普通だ! だから【冒険者組合】が認めた者じゃなければ、冒険者を名乗れない事になっているんだ」
「あぁ、そうですね、大変な事になりますよね。先日命を落としそうになった方の言葉は説得力があります」
「う……そ、それはだな……と、ともかく! 冒険者組合に行って認められないと冒険者は名乗れない! そういう決まりだ! 各地にある
そうだったのか、知らなかった。俺はまだ冒険者ではなかった。
もうそこからして自由じゃない気がするんだが……大丈夫だろうか? 結局それでは組織に属すという事になるのではないか?
いや、確か依頼というものは自分で選択出来たはずだよな? 自分で自由に選択して、自由に行動する。それならばまぁ……一応は自由という事になるか?
いくら自由でありたいとは言っても、金は稼がなくてはならないからな。まぁ組織で稼いだ金がまだまだあるが、何もしなければ何れ使い切るだろうしな。
つまり仕事は必要だ。その仕事を斡旋してくれると言うのだから、登録はしておいて損はないか。
「なぁサージェス。もしよかったら、お前も俺達とパーティーを組まないか?」
「そうですよ! そうしましょうよ、サージェスさん!!」
「…………シューマンいらなくない?」
「いやいるよ!? 俺から発案したんだから! というかどういう事!? エミレアと二人で組みたいって事!?」
「そうですね」
「そうですねじゃないよ!! 流石に酷いよ!? エミレアも何か言ってやってくれよ!!」
「あ、あはは~……まぁ私は……別にそれでも……」
「聞こえたよ!? ごめん聞こえちゃったよ!? 出来れば聞こえないように呟いてほしかったなぁ!?」
まるで道化の様に狼狽えるシューマンと、それを見て苦笑いを浮かべるエミレア。こいつ等とは出会って間もないが、中々に好感が持てる者達だ。
面白い奴らだし、パーティーを組むと言うのもやぶさかではない。こいつ等と色々な所に冒険に行けたらさぞ楽しい事であろう。
「まぁ冗談はほどほどにして……誘いは嬉しいが、今回は断らせてもらう」
「そ、そうか……理由を聞いてもいいか……?」
「え~そんな~……サージェスさん……」
若干涙目になってしまったエミレアの頭をいつものように撫でつつ、真剣な目をしているシューマンに向き合った。
恩には恩を、真剣には真剣で返さないとな。流石にここはふざけている場合じゃない。
「まぁなんて言うか……俺も外に出れたのは、自由になれたのは最近でな? 冒険証の事も知らなかっただろ? まだまだ世間知らずなんだよ」
「そ、そうだったのか……」
「お前達といれば、そんな世間知らずな俺に色々と教えてくれるだろうさ。でも俺は、自分の目で見て自分の頭で考えてみたいんだ。初めが肝心って言うだろ? とりあえず俺は、自分で自分の自由を感じてみたいんだ」
「サージェスさん……」
「よしよし……相変わらず綺麗な髪してんな? お前達といるのは楽しいぜ? でもパーティーとなれば、自分だけの自由を通す訳にはいかなくなる。まだ自由を全然知らない俺にとっちゃ、それは自由の
「自由の枷……か。確かにお前ほどの強さがあれば、一人でやっていけるかもしれないが……」
「一人は……寂しいですよ? サージェスさん……」
真剣な顔をして話を聞くシューマンと、泣きそうな顔をして頭を俺の胸に預けるエミレア。昨日今日あったお前達が、真剣に俺の事を考え想っているという事が伝わって来る。
正直、面白いシューマンといい匂いがするエミレアと一緒にいたい気持ちはあるが、それは時期尚早というものかな。
「今回はって言っただろ? シューマンなんてどうでもいいが、俺だって出来ればこのままエミレアの頭を撫で続けていたいからな」
「わ、私も! 撫でてもらいたいです!!」
「……お前、いつフラグ立ったの? そんな簡単に男に落ちたらダメだぞ?」
「今回は……か。じゃあいつか、俺達とパーティーを組んでくれる……そういう事でいいのか?」
「ああもちろんだ。お前が昨日言っていた、黄色ってのは冒険者のランクの事だろ? お前達と同じ冒険色になれたら……また誘ってくれや」
「ぜ、絶対ですよ!? 他のパーティーの女に浮気するのは許しませんからね!?」
「……分かった。お前ならすぐに昇色出来るだろうさ!! それまで、待ってるぜ?」
「ああ、必ずだ! 初めて組むパーティーはお前達とがいいからな! じゃあ……またな? 頑張れよ? お前達も」
「お前もな!! 必ずまた会おう!!」
「待ってますからね! サージェスさん!!」
そう言って俺は二人に別れを告げ、二人の元を離れ歩き出した。
エミレアは泣き虫よろしく号泣していたが、意外な事にシューマンの奴も目に涙を浮かべていた。
危なくもらい泣きする所だったぜ。まったく、男は泣かなくていいんだよ!!
じゃあまたな? 成長したお前達に会うのが楽しみだよ!!
――――
――
―
「――――ってなんでお別れなの!? ここ森の中だよ!? クロウラまで一緒だって言ってなかった!?」
「はわわっ……つい雰囲気に流されて……」
「おっせーよシューマン!! もっと早く呼び止めろや! 危なく戻るタイミングを失う所だったぜ!?」
三人は演劇を終えた後、クロウラへと進んで行く。焦った様子で戻るサージェスを、笑顔で迎えるシューマンとエミレア。お別れまではもう少しありそうだった。
――――――――
――――
――
―
「俺達ってさ、演劇で食っていけると思わね?」
「いけます! 涙は自由に流せます!!」
「流石名女優!! つまり貴様の涙は嘘にまみれていると?」
「はわわ……そういう事では……」
「まぁ、冒険者をクビになったら考えようか……」
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