第8話 自由なほどほどが一番だ
「あの……ところで、貴方様は……?」
シューマンを助けるために、命がけで戻って来たエミレア。色々あったが、最終的には仲直り出来たようで何よりだ。
まだどことなくぎこちない二人ではあるが、それは時間が解決してくれるだろう。
「そんなっエミレア!? 俺の事を覚えていないのか!? 今朝あんなに激しく求め合ったじゃないか!!」
「はわわっ!? そうなのですか!? すみません、まったく覚えが……でもそう言われれば、下半身が少し変な感じがします……」
「サージェス……お前ッ! なんて羨ましい……!!」
「……ノリがいい奴も天然も嫌いじゃないが、馬鹿は嫌いだぞ? エミレア、下半身が変なのは処女を失ったからじゃねぇよ。その足、怪我してんぞ?」
「ど、どうしよう? やっぱりお付き合いした方がいいのかな……? でもさっき会ったばかりの人だし……でも結構カッコいいし……うぅぅぅ……」
「クソッ! クソッ! なんであんな煙草野郎にッ!! 時代は禁煙ブームだろ!?」
「……ほんと面白い奴らだな? 自分で始めといてなんだが、話し聞けよ? その足、ちょっとマズいぞ?」
さっきまでの怒りと涙はどこに消えたと言うのか、二人ともそれを感じさせる事はなかった。頬を朱に染め何やら夢見心地のエミレアと、地団駄を踏み子供の様なシューマン。
元気になったのは良い事だが、冗談抜きでエミレアの足……あれはすぐにでも処置しないと大変な事になる。
「おらエミレア、妄想に耽ってないで早く脱げ」
「ぬ、脱げ!? そ、そんな……! まだお名前も知らないのに……それにシューマンが見ていますよ!?」
「あぁそうか。すまんシューマン、どっかに……じゃなくて、もういいからさっさと靴を脱げ。お前の足、良くねぇぞ? その輝石使って回復しねぇと」
危険だと伝えたと言うのに、エミレアはモジモジと恥ずかしがるだけで靴を脱ごうとしなかった。
エミレアの足、大きな傷は見られないが紫色に変色し始めていた。捻った程度であれば回復の輝石で治せるだろうが、もし毒に侵されているのだとしたら最悪死に至る。
「ほら早く、何をモジモジしてんだよ? 服を脱げって言ってんじゃねぇ…………そういう事か。おいシューマン、悪いけどどっか行ってくれないか? エミレアが見られたくないんだとよ」
「靴を脱ぐだけなのにか!? 俺ってどんだけ嫌われてんだよ……」
「い、いえそういう訳では! ただ、その……靴は……その……く、臭いかもしれないので……恥ずかしい……」
「お前なぁ、冒険者なんだろ? んな匂いなんていちいち気にしてたら何も出来ないだろ? 別に臭ってもなんとも思わねぇよ」
「い、嫌です! 冒険者である前に女なんです! 初めてを捧げた人に臭いなんて思われたくありません!! わ、私、自分で回復出来ますから!」
「残念ながら捧げられてねぇよ。怪我だけならエミレアでも何とか出来るだろうが、毒に侵されていたら厳しいぞ? 解毒の輝石か、高位のヒーラーレベルの神力を使った回復輝石じゃないと効果がない」
「ど、毒!? そんな、毒なんて…………あっ」
どうやら毒に侵された心当たりがあるようだ。毒が回ってしまったかのように顔が青くなっていった。
エミレアやシューマンが持っている神力、それはあまり大きくはないように感じる。エミレアは魔術師なのでそれなりだが、神力が減った今の状態では厳しいだろう。
「あの、貴方様は高位の
「いいや、回復師でも魔術師でもない。ただこのくらいの毒ならどうとでもなるだろうさ」
「エミレア、やってもらえよ? コイツこう見ても凄い奴だからさ。俺が生きていられてるのだって、コイツのお陰なんだ」
「そうなのですか!? あの、遅れましたがシューマンの事を助けて頂き、ありがとうございました!!」
「へいへい。じゃあお前も助けられておけ……ほら、そこに座って……脱がすぞ?」
顔を真っ赤にして目を逸らすエミレアだったが、それ以上は何も言わずに従ってくれた。そんなに恥ずかしい事なのだろうか? エミレアのその様子を見ていると、何かイケナイ事をやっているようで変な感情が湧き上がって来る。
……とても悪戯をしたい。もっと恥ずかしがらせたい。もしかして俺にはそういう性癖があるのだろうか?
「いくぜ? かの者を癒す奇跡を起こせ、奇跡・治癒…………やっぱり毒みたいだな……っと、よっしゃ! 良くなっただろ?」
「は、はい!! ありがとうございます、もう痛くも何とも…………ヒィィッ!?!?」
「――――スンスン、スンスン……なんだ、多少匂いはするけど別に臭くないじゃないか。でも不思議だな、何故か癖になる……」
「い……い……イヤぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――――バチンッッ!!
その後、足がスッカリ良くなったエミレアを含めて朝食を取る事にした。
調理はエミレアとシューマンに任せて、俺は痛む頬を押さえながら狩に興じた。一日に二度も女の張り手を喰らうのは初めての経験だった。
顔から火が出そうなほど真っ赤になったエミレアは、恥ずかしさを通り越してしまったようで、狂ったような目でビンタを繰り出してきた。
あれは魔術師の皮を被った
「あ、あの……先ほどはすみませんでした! 助けてもらったのに……あんな事をしてしまって……」
「いえ、大丈夫です。私の方こそ申し訳ございませんでした。あなたの反応が可愛すぎて、私の性癖が暴れ出してしまいました」
「か、可愛いなんて……あ、ありがとうございます。その……ほどほどにしてくださいね? ほどほどであれば、受け止めて見せますから……」
「はい、ほどほどに。ほどほどに虐めたいと思います」
「どんな会話だよお前ら……ほれ、焼けたぞ?」
何はともあれまずは腹ごしらえ。俺達は元よりエミレアは空腹のはずだ。一睡もせず休憩も取らないで走り続けたのだから。
育ち盛りだろ? モリモリ食べなさい? その大きな胸が栄養を欲しておるぞ。
「あの、それで……お名前、お聞きしても宜しいですか?」
「…………え? 俺? あれ、名乗ってなかったけ?」
「はい、お聞きした記憶がありません。そ、それとも抱かれている時に教えて頂いたのでしょうか? すみません、その時間の記憶は曖昧で……」
「お前ら、あんだけ騒いどいて自己紹介もしてなかったのかよ!? というか本当に抱いたのか!?!?」
「俺の名前はサージェス。サージェス・コールマンだ」
「えっ!? 否定しないの!? どっちなの!? 本当に抱いたの!?」
「私はエミレア・ベルベケットと申します。サージェス様……本当にありがとうございました。私の足を治してくれて、何よりシューマンを助けてくれて、本当にありがとうございます!!」
「様付けなんてしなくていいよ、もううんざりなんだ。まぁ俺も色々美味しい思いをさせてもらったからな、煙草とか、枕とか」
「は、はぁ……ではサージェスさんと呼ばせてもらいます」
「いやだから! どっちなのぉぉぉぉぉぉ!!!」
一人蚊帳の外に置かれたシューマンの大声が響く中、三人は朝食を取る。朝食を終え、とりあえずは当初の目的通りに、中継都市クロウラに向かう事となった。
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