第4話 ぼたんの告白

タカ子は学校から出て一人、家の道をトボトボと歩いていた。


小さな川にかかる橋の途中で立ち止まり、カバンから昨日、ぼたんにもらったチョコレートを取り出す。

振りかぶって川に投げようとした時、「ダメッ!」と制止の声がかかる。

声の方を見ると、ぼたんがいた。


「タカ子ちゃん、それを捨てちゃ駄目だよ」

「どうして?貰ったものをどう扱おうと私の勝手でしょ」


「ふふっ」とぼたんは笑った。

「タカ子ちゃんは本当に贅沢だね」

「何、どういうこと?」


ぼたんはいつもとは違う大胆不敵な笑みを浮かべている。

いつもとは違う余裕と何故か危険を感じてタカ子は身構える。


「時にお菓子は惑星の命運を担っているのよ」


ぼたんが手を宙にかざす。タカ子の手にあったチョコレートが浮遊し、ぼたんの手に渡る。


魔法?いやマジック、何かのトリック……?


タカ子が考える間もなく、ぼたんが口を開いた。


「あるところに、小さな惑星がありました。その国には王様とお后様がいて、その間には小さなプリンセスもいました。

 王様は国民たちから支給される資源を使って、国民たちを生かすための方法も良くご存知でした。

 その方法は、国民たちが大好きなお菓子を量産すること。王様は地球でいうパティシエのような存在でした。

 お后様も様々なお菓子を発案されるパテシィエールでした。そんな惑星でしたので、国民たちに大した争いは起きませんでした。

 そう、戦争が始まるまでは……」


「戦争は豊かだった国を荒廃させました。王様は最後の望みを託して、

 自分の最愛のプリンセスである私を地球へ送る計画を立てます……」


ぼたんが粛々とそう語るのに、タカ子の頭は混乱していた。


「プリンセス・パテシィエール、そう呼ばれていた私こそ、その惑星の姫。

 外的資源を求めた私は地球へたどり着いたわけですが、地球人としての形を保つために一切の記憶を消されて

 この地へ降り立ったのです……」

「ハア……」


ついていけない。


「安心して、タカ子ちゃん。私はそれなりの資源も、もう収穫しました。王子様が告白を受けてくれたことで

 全ての記憶も取り戻せたの。

 これだけの資源があれば再び国を豊かに出来るわ。星へ帰ります」

「いやいやいや、ちょっと待って」


タカ子が全力で手を中央で振る。


「一段屋への告白は何だったの?」


そういうと「ふふふっ」とぼたんが笑った。


「彼は、私の探し求めてたプリンス・パティシエ。さっき王子様が告白を受けてくれたって言ったでしょう?」

「一段屋が……?アイツはただの人間じゃないの!?」


ぼたんが少し顔を赤らめる。「そんなの……」とほぉっと息を吐く。


「彼の方が少しずつ私を異星人として見出してくれていたのよ」


恥じらうようなぼたんの様子にタカ子まで変にぼたんが綺麗な姫に見えてきた。

そう。あのぼた餅から少し、容姿が変わっている気がするのだ。


「ぼたん、私もその星へ連れてって!」

「いいの?タカ子ちゃん。人間は惑星ではハッキリと違う姿だし、それに……」

「いいの!こんな退屈な地球の生活なんてウンザリ!宇宙人と一緒にどこまででも行きたいわ!」


タカ子は大声で訴えた。ぼたんは、「……そう」と少し下を向いて

「覚悟はよろしい?」

と聞いた。


「もちろん!」


ひるんでなんかいられない。こんなことを秘密にしていたタカシと、ぼたんにここで逃げられては困る。

私が二人の惑星に乗り込んで、異星人の国民の前で鉄拳制裁してやる。

不敵にタカ子は微笑んだ。


「じゃあ」


ぼたんはタカ子の手を握る。辺り一面がキラキラと光り出す。

バイバイ、地球。

良いことなかった私の星。


タカ子は光に包まれてゆっくり、しかし確実に宙へ昇っていった。

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