第3話 期待外れの大成功

バレンタインデー当日。

タカ子の友達の栗栖ぼたんも朝から綺麗にラッピングしたチョコレートを抱えながら、一段屋にいつ渡そうかドキドキしている。

ぼたんの様子を見ながら、タカ子は気持ちが重くなるのを感じた。

それでも、緊張するぼたんに声をかけた。


「ぼたん、大丈夫?」

「大丈夫だよ、タカ子ちゃん。……ほら、風邪が流行ってるから教室も静かだし」


そんな問題ではない、とタカ子は思った。

確かに風邪が流行っているのか、受験のせいか、この時期この教室にいる生徒は減っている。

しかし、タカ子にとってはそんな問題ではない。


ぼた餅こと最底辺女子のぼたん。柔道の腕が下の一段屋。

二人がもし、くっついてカップルになりさえでもしたら正直、タカ子は面白くなかった。


タカ子はため息をついた。ぼたんがタカ子の顔を覗き込む。

「どうしたの?タカ子ちゃんも誰かにチョコ渡すの?」

「ば、バカ言わないで!」


思わず大きな声でそう言って「ごめ~ん」と謝るぼたんから顔を背ける。

見かけ倒しの一段屋が好きなぽっちゃりでさえない女、栗栖ぼたんに何の魅力があるというのだろう。

ぼたんが抱えているハート型のチョコだってただ単にチョコレートを溶かして固めただけの代物なのに。


「一段屋さん!!」


ぼたんが声を張り上げたのに、ハッとしてタカ子は我に返った。

栗栖ぼたんが一段屋タカシにチョコレートを差し出している。


一段屋タカシは友人と談笑していたが、振り返りぼたんの真剣な様子を見ると、スッと笑いを引っ込めた。


これは……、これはもしかしてもしかするかもしれない。


「す、好きです!付き合ってください」

「……えっ」


タカシはぼたんの告白に顔を赤らめた。

「あ、ありがとう……」


一段屋は素直にぼたんのチョコレートを受け取った。さも、嬉しそうな様子だ。

自分がクズだと認定していた一段屋がこんなに真面目にぼたんの告白を受け入れるなんて……。


タカ子はハッキリとショックを受けた。


さらに、あの冴えないぼたんが輝いている。私の後をいつも追いかけるばかりの友人が、今、目をきらめかせて恋に走っている。

私は高校最後のバレンタインデーを迎えて恋すらしたことがないのに……。


タカ子は深く消沈して、いい雰囲気の二人から逃げるように教室を飛び出した。

学校なんて大っ嫌い。

いや、もっと言えば、人間そのもの。


実は昨晩、タカ子は道場で一段屋に脅しをかけたのだ。ぼたんからのチョコレートを受け取るな、と。

一段屋はあっさり「受け取らねえよ」とビビっていた。なのに、この始末。


誰か私を連れ出してくれないか。

日本から、いや、この地球上から。

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