第2話 どっきどきチョコレートづくり

学校なんて大っ嫌い。


タカ子は常々そう思ってきた。そう思いながらも、ダサいぼた餅こと「栗栖ぼたん」を友人にしているのは、学校生活が「友達」というものを強く認識させ、必要性があるものだったからだ。


柔道場でタカ子よりも弱いくせに、学校では人気者の一段屋タカシが存在していることも面白くなかった。

しかも、ぼたんは一段屋に惚れているのだ。


何故だろう……と考えて思い当たる節がタカ子の脳裏をかすめる。


ある日の放課後、日直であったタカ子はプリントを先生に渡しに職員室へ行った。そして、帰った教室でぼたんと一段屋が話しているのを見てしまった。


「お前、タカ子といて疲れてないか?」

「うん、大丈夫だよ」

そう言って目を輝かせるぼたんは、強く凛としてみえた。


タカ子には見せない、誰にも見せないぼたんの表情。

「俺、タカ子が苦手だから皆の前では言えないけどさ……」

「大丈夫」


そう言って笑うぼたんは満面の笑顔だった。

タカ子にも見せたことのない……。


「タカ子ちゃん、どうしたの?」


タカ子がハッとすると、もうぼたんのマンションの前まで来ていた。

「おじゃましまーす」


ぼた餅こと栗栖ぼたんの家にタカ子は入った。

いつもながら、共働きだと聞く両親はいない。ぼたんは「あがってあがってー」とにこやかに笑う。


日差しが明るく入るマンションの一室。

オープンキッチンに山と積まれるチョコレートをみてタカ子は戸惑った。


「ぼたん、なんでこんなにチョコレートがあるの?

 渡すのは一段屋だけでしょ?」


その問いにぼたんはまさに、にまーっと笑う。


「自分が食べる分も作るからね?当然だよっ」


ふふっと笑うぼたんが本当にぼた餅に見えそうなタカ子だった。


「で、私は何を手伝えば言いワケ?」


タカ子が腕を組みながらそう問うとエプロンをつけながらぼたんは、

「何もしなくていいよ?私のお料理を見て欲しいだけ!」

と言い放った。


じゃあ、なんで呼んだのよ……とタカ子は青筋を浮かべイライラと見慣れたリビングの椅子に座った。

その時、


ドンッッッ!!


という衝撃音を聞いて、タカ子は「ひゃっ」といつもは出さないような声で驚いてしまった。

振り返ったオープンキッチンでは目をランランと輝かせ、なたの様に包丁を扱うぼたんの嬉々とした姿があった。


ドンッッッ!!!ドンッッッ!!!


チョコレートを粉々にするその力はどんどん勢いをましている。

タカ子は恐怖を感じて後じさりした。


「何?タカ子、驚いてちゃダメだよ、ちゃんと見てくれなきゃ」


ドンッッッ!!!ドンッッッ!!!ドンッッッ!!!


「私のお菓子作りを……」


恐怖のあまり嫌な汗をかくタカ子を満足気に見るぼたんは、

いつもの自信なさげなぼた餅ではない。


「…なーんて、力入りすぎちゃった」


ぼたんはニコッと笑って、包丁を流しへ置いた。

タカ子はいつものぼたんの笑顔にホッとしながら、まな板に散らばる粉々のチョコレートを何故か無惨に思った。


その後は穏やかなぼたんのままで着々とチョコレート作りは進められた。

チョコレート作りといってもカカオから作るわけではない。

粉々になったチョコレートを湯せんで溶かし、型に入れ冷やし、デコレーションする。


何故、ぼたんが一段屋に告白するのか。

タカ子にはそれが解せなかった。そして、そんな思いのままチョコレート作りを見守ることを強いられている状況にモヤモヤが募った。


「はい、これタカ子ちゃんの分ね」


可愛い包装紙にくるまれたチョコレートをタカ子は受け取る。

釈然としない気分のまま、習い事である道場へ向かうタカ子だった。

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