「超」怖いVRO ep4

arm1475

「超」怖いVRO

「管理長、先日のあの殺人鬼の人格プライマリから創り出してしまったPKプレイヤーキラー-NPCの件ですが」

「何だね、その難しそうな顔は」

「……デリートしたはずですよね」

「そのように報告を受けてるが」

「実は、また現れたそうです」

「うーん」

「……管理長、まさかデリートしきれてなかった事を知って」

「そうじゃない。可能性はあった」

「はい?」

「あれから考えてみたんだよ。VROベーターの間に、仮想空間に殺人鬼がいるって話が広まった場合、そこに電脳概念ネットミームとしてのが生じないかと」

「え」

「キミは都市伝説を聞いた事がないかね?」

「都市伝説?」

「学校の七不思議とか、口裂け女とか、そういう怪談話のことだ」

「あー、そういや子供の頃に電子書籍でそんなの読んだ事あります。子供達の間で広まった噂話だとか」

「その昔、メタル松子というゲームアイドルが居たそうな」

「え、げ、ゲーム……アイドル」

「人気アイドルゲームに出てくるアイドルのひとりでな、ネットのトレンド1位を獲った事もある」

「そんなに凄いキャラなんですか。どんなアイドルなんです?」

「それが、誰も観た事も無い」

「はい?」

「それどころか、件のゲームに出てきたという話も無い」

「え」

「つまりだ。――何処の誰かかねつ造した、ネットに出現した架空の概念なのだよ、そのアイドルは」

「か、架空の……」

「しかし、だな。その誰も観た事の無いアイドルを、観た、という人間が次々と現れ、そこから容姿や性格が拡散しながら構築されて、終いには誰も観た事が無いはずのでっち上げられたアイドルが実体リアルを得てしまった」

「なんですかそれ……あ」

「分かったようだな、つまりネット版都市伝説なのだよメタル松子とは。

 キミを囮にして捕まえた例のPK-NPCの事件前後、VRO内でPK殺人鬼のトレンドが増加していて、ベータの中でも話題になっていただろ?」

「ええ」

「実際に被害に遭ったベータは殺人鬼の容姿を知らないのも引っかかっていたんだ。もしかするとこれは、不味い、と」

「不味いとは?」



 なあ、PKのこと知ってる?

 ああ、捕まったって聞いてたけど?

 なんでもまた現れたんですって?

 捕まったってのは運営の嘘で今でも殺人続けているらしいぜ?

 体育会系の男で 

 スーツ姿のOLで、

 同僚の女子社員と付き合ってたけど浮気されて、

 上司との不倫がバレて、

 プロジェクト失敗の責任とらされて、

 残業続きで、


 自殺した社員が恨みで殺し回ってるそうだぜ?



「これで24件目か」

「前の奴より酷いですね……」

「しかも今回は標的に傾向がない、無差別だ」

「今度はアカウント《プライマリ》が判明出来ないから、誰が狙われてるのか予測出来ない」

「今回もNPCですかね……」

「殺人鬼のアカウントがゴロゴロいるほうが怖いわ。模倣犯も考慮したい」

「それだとログから犯行がバレるんじゃ……」

「そうではない」

「はい?」

「木を隠すには森、だ」


 

 なあ、PKのこと知ってる?

 ああ、捕まったんだっけ?

 何でもあいつだっだそうだぜ?

 前に捕まえた奴とは別だって運営が言ってたぜ?

 体育会系の男で 

 スーツ姿のOLで、

 同僚の女子社員と付き合ってたけど浮気された奴で、

 上司との不倫がバレた奴で

 プロジェクト失敗の責任の腹いせで、

 残業続きのストレス発散で、



「不正行為アカウント排除処理BANご苦労様」

「……管理長、オレは呆れて何も言えませんよ。まさか連続殺人犯じゃなくて複数犯だったとは」

「結局PK-NPCの犯行に見せかけた、複数による便乗犯行だったなんて、とんだオリエント急行だな」

「始めは犯人がPK-NPCだという噂話ミームに惑わされた被害者に思い込みを生んでくれたせいで分析に手間取りましたが、管理長の推測通り、犯行時刻や事件領域がバラバラだったから、複数の犯人による共犯の可能性は限りなく少ないと推測したら一気に全容が見えたのは驚きでした」

高度情報社会ネットワークでの意図しない不特定多数の作意の結合。電脳概念ネットミームとはほとほと厄介だね」

「つーか社畜ども病みすぎですよ……いくらVROで殺人起こしても実際に死なないとはいえ、嫌がらせでここまでするとは……もしかして現実でもやらかしているんじゃ無いんですか」

「せめてVROの中くらいは仕事のストレスをため込まないように環境をより良くしたいモノだな」

「はい。……ところでひとつよろしいでしょうか?」

「何?」

「一件だけなんですが」

「一件って」

「不正行為アカウント排除処理BANで一件だけ、どうしても連絡がつかなかったアカウントがあったんです」

「どうして?」

「それがですね、先方の会社の担当者に問い合わせたところ……」


 自殺した社員が恨みで殺し回ってるそうだぜ?


「おねがい、やめてそういうはなし」


 普段は毅然としているがお化けにはめっぽう弱い美人の管理長が机の陰に隠れて震えているのをみて、部下は苦笑いした。


                  おわり

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