Chapter10.エルフの知ること

GM:門番とルカカフィーネが街を探索していると歴史に関する展示をしている博物館の前にたどり着きます。

ルカカフィーネ:エルフ語の看板を指差して「ねえ門番、ここにエルフの偉大な歴史が刻まれてるらしいわよ。見に行ってみるのはどうかしら」

門番:「あ、うん、そうだね。確かに興味はあるし…まあ僕こういうところには普段来ないから何か分かるとは思えないけど…折角だし行ってみようか」


GM:展示はこの国の成り立ちみたいなところから始まってますね。

ルカカフィーネ:眠くなっちゃうんで飛ばしていきます。

ナージェンカ:セージ技能持ちなのに!?


ルカカフィーネ:私のセージ技能は全部「婆様が言ってたわ!」で押し通すので。

門番:レベル5相当の知恵袋…!


GM:まあ流し読みでもわかることとして…。この街は樹上にあるにもかかわらず井戸があるんですね。

門番:言われてみれば不思議。

GM:このフレジスファ原初都市はすぐ近くに大きな湖があるんですが、そこから水を吸い上げる力がこの樹には残っていて、それが井戸のような機能を担っています。魔法文明語が読めるルカカフィーネはこんなことがわかります(メモを渡す)


ルカカフィーネ:「ふむふむ、つまりこの樹は本当に植物と同じはたらきをしているのね。だから管を通って勝手に水を汲み上げ続けてるってわけ!」

門番:「えっ、ポンプとか釣瓶とかでよいしょよいしょってやらなくていいのかい?…それはすごいや」

ルカカフィーネ:「ふふん!偉大なる大樹の御業ってわけね!…しかも、過去には湖に毒を投げ入れた蛮族がいたそうだけど、ここの井戸からは綺麗な水が沸き続けたそうよ!」

門番:「ええ〜?樹が毒を吸ってるのかな?よくわからないけどどういうこと?」

ルカカフィーネ:「それはよくわからないらしいわよ!」

門番:「へ〜…」


GM:また。この大樹はエルフの手入れなくしては存続できない、ともあります。もしエルフがこの都市からいなくなって時間が経てばこの樹は腐り、腐葉土に覆われてしまうと。エルフたちと原初の樹は共生や相互扶助といったような関係性にあるんですね。

門番:「この大きさの樹が腐っちゃったら大変なことになりそう…」


GM:更に、えー、この都市が火気厳禁ということはお伝えしたと思うのですが、実は火が使える場所があります。

ルカカフィーネ:マジか。

GM:この大樹は大きく成長し形を変えていく中で、辺りにあった大岩や山を飲み込んでいるんですね。なのでこの都市に飲み込まれた岩盤でできた洞穴。ここでは限定的に火の使用が許可されています。


門番:「へえ〜まるでカマドみたいだ」

GM:そうですね、まさに巨大なカマドと言えるかもしれません。

門番:「いったい鍋がいくつあるんだろう…」

ルカカフィーネ:「たしかに!誰かに聞いてみようかしら」と博物館で働いてるっぽい人に聞いてみます。


GM:ではありがたくも交易共通語を覚えておられる奇特なエルフさんが応じてくれます。

門番:物好き扱いなんだろうなあ。


エルフ職員(GM):「鍋?君達はなにを言っているんだ?エルフと…丸耳の者よ。君達のような森の外の価値観で物事を考えないでくれたまえ…。さあ、帰った帰った」


GM:という感じで追い出されます。

ルカカフィーネ:ふええ。

門番:思った以上にとりつく島もない〜。



GM:さて、ではレド、ヴォックス、ナージェンカ、バイナルの方をやっていきましょう。皆さんは神殿へ聞き込みに行きたいとのことでしたね。まず道中でバイナルくんと話しましょう。


ヴォックス:「…それでさあバイナル」

バイナル(GM):「うん」と、珍しくおとなしく返事します。

ヴォックス:「さっきの森でのことだけど、ありゃどうしてわかったんだ?」


バイナル(GM):「…俺の力だよ」

ヴォックス:「お前の力って…」


バイナル(GM):「俺の母ちゃんは色んな木と会話できる力を持ってんだよ…。俺は、母ちゃんほどじゃないけどちょっとだけわかるんだよ、木の言葉みたいなのが」

ヴォックス:「へ〜結構便利そうじゃん」

バイナル(GM):「キングスフォールで便利だと思ったことなんかほぼないけどな」

ヴォックス:「まあ自然もすくねぇしな」


バイナル(GM):「でもま…。さっきはお陰でみんな助かったし、よかったんじゃねえのって思ったけどさ」ぶすーっとしています。


ナージェンカ:「やあ…あれは本当に助かったよ」

ヴォックス:「なるほどな、突然逃げろって言い出したのも、木が教えてくれたのか」

バイナル(GM):「ああ、何本かの木が、向こうの方からヤバいやつが来てる。あっちのやつが助けてくれる。って言うからそっちに走ったんだよ。で、結局その通りになった」


ナージェンカ:「そんなこともあるのか〜」と思ってうんうん頷いています。ラクシアの神秘〜という表情をしていますがみんなからはわからないかも、ドラゴンだから。


GM:バイナルの母であるバーモット・イラドはゲームルール上のドルイド技能が高いわけではないんですが、ドルイド技能の一端である「植物と対話する力」だけが非常に秀でているんですね。なので、基本的にドルイドの能力は「元メリアの木との対話が可能」なのですが、バーモットはその拡張版、あらゆる木との対話が可能な力を持っているということです。息子バイナルはその能力を少し引き継いでいて、元メリアの木と対話することができます。


レド:ほお〜。ドルイドの力。

GM:まあドルイドと言ってもゲームルール上で言えばレベル1もないくらいの力です。ドルイドの習慣や知識はあっても冒険者としての能力はありません。

ナージェンカ:なあるほどなあ〜。


GM:さあ、そんなことを話していると神殿地区にたどり着きます。そこには木でできた巨大なアステリア神の像があります。本来は妖精神アステリアと樹神ダリオンの二柱を祀る場所なのですが…エルフの自己主張の激しさによってアステリアのメイン感が凄まじいです。

ナージェンカ:アステリアはエルフの始祖だからしょうがないね。


GM:神殿は非常に荘厳な空気に包まれており、時折上層から溢れて滴る清らかな水がアステリアの像にかかると仄かに虹色に輝く様子を見ることができます。

レド:さっき門番たちが見てた水を自動で吸い上げる機構ですね(並行した時間軸なのでまだレド達は知らないがプレイヤー達は知っている)

ヴォックス:おやおやアステリア像光ってますねえ…。

GM:うん、水飛沫を受けた神殿の建物やアステリア像が仄かに色づいているよ。


神殿地区のエルフ(GM):「よく来たな。丸耳族、そしてケモ耳族よ」と、1人のエルフの女性が魔法文明語で話しかけてきます。

GM:エルフの感性では君たち他種族は「耳が変な亜エルフ」なので丸耳、ケモ耳と呼ぶと思っておいてください。

ルカカフィーネ:真面目な顔でケモ耳言うの面白い。


レド:「ちょっとお尋ねしたいのだが、偉大なる神官殿よ」と魔法文明語で尋ねます。

神殿地区のエルフ(GM):「あら、正しい言葉を学んでいるのねケモ耳の者よ」


レド:「ええ、つかぬ事をお聞きしますが…。このアステリア神殿に使われている壁材でしょうか、あるいは仕上げの染料なのでしょうか。どうも水に触れると色鮮やかに発色するように見えるのですが」


神殿地区のエルフ(GM):「ええ、そうでしょう。とてもアステリア様を彩るのにふさわしいわ」

レド:「これはいったい、どんなものをお使いなんです?」

神殿地区のエルフ(GM):「これはエルフの偉大な魔法であって、申し訳ないけれどあなたがた客人には伝えられない」と言います。


GM:ですが…。彼女に対して【真偽判定】をすることが可能になります。

レド:真偽ターーイム!


ナージェンカ:とその前に…「ところでレド。この神殿の発色って、キングスフォールとかで話に聞いたものよりもだいぶ弱いというか、仄かなんだけどここでもユゥリーラガナルって生産が追い付いてないのかな?」

レド:おけ、通訳します。

神殿地区のエルフ(GM):「そんなはずはないでしょう。このアステリア様の像ほど尊いものは他にないわ。あなたが何を言っているのかわからないわ。さすがは、亜エルフ種ね」

ヴォックス:なるほど(笑)

ナージェンカ:とりあえずムッとします。


ヴォックス:「なあレドレド。こいつらさぁ、教えられないんじゃなくてさ…」

ナージェンカ:「知らない。ってこと…?」


GM:はい、あなたたちはそれを直感できます。ちなみにさっきの【真偽判定】はそれがわかるだけのものだったので話を続けちゃってください。


レド:「ああ!その可能性は高い。さらに言えば、製法を知っている人物がいるとしたら、フレジスファ原初都市に対して協力的ではないのかもしれないな」ここの神殿がほっぽっておかれてるなら。

ヴォックス:「つまり…。こいつら神官が知らないってんなら。やっぱ製法を知っている可能性があるのは例のユゥ、リーラ、ガナルの3人に絞られてくるのかもな」


ナージェンカ:ここの神殿にその友人3人がいる可能性もあるかなあ?

レド:一応聞いてみるか。

ヴォックス:頼むぜ。


レド:「申し遅れましたが私レド、と言う者なのですが。この度友人のつてを辿ってきまして。ユゥさんリーラさんガナルさんという方がこちらの原初都市におわすと聞いているのですが、ご存じないでしょうか」

神殿地区のエルフ(GM):「ユゥ、リーラ、ガナル…誰か知っているか?……ふむ、どうやら君たちの力にはなれないようだ」彼女は周囲の神官たちにも声をかけてくれますが誰も知る者はいないようです。

レド:「いえ、ありがとうございます」


レド:神官たちは本格的になにも知らないようですね。

ヴォックス:もっと権力者みたいな人に聞いてみます?

ナージェンカ:上に言ってわかることなのかなあ。


神殿地区のエルフ(GM):「だがお前たち、待ってほしい」

ナージェンカ:おや?


神殿地区のエルフ(GM):「お前たち、あの厚顔無恥なキングスフォールとかいう都市から来たのだろう?」

レド:「…ええ、まあ」厳密には違うけど。

神殿地区のエルフ(GM):「のであれば、お前たちに検分して欲しいものがある」と言って皆さんを案内します。


GM:そこにあったのは、最近このフレジア森林国にのこのこと踏み入った結果、正体がバレて捕まり自害した“レッサーオーガ”の死体です。

(レッサーオーガは、心臓を食らった人族の姿に変身することができる、比較的知能の高い蛮族)


ナージェンカ「これは…」

GM:そして、そのレッサーオーガの鎧をエルフが剥ぐと、レッサーオーガの背中に大きな焼き印があります。その形は糸にぶら下がった蜘蛛。そしてその蜘蛛の下には蛮族語と交易共通語でこう書いてあった。


「我ら、糸はりめぐらす者なり」


レド:むむむ、これについて我々は何か思い当たることはありますか?

GM:では【魔物知識判定】をしてみましょう。

レド:マモッ!(掛け声)……12と出ました。

ナージェンカ:マモマモー!(掛け声)…11です。


GM:はい、ええと…(鼻で笑う)。2人とも成功です。公式サプリ「鉄道の都キングスフォール」p.33の“蜘蛛の巣団”というキングスフォールのスラムを根城にしている犯罪組織の符号だと君たちはわかる。

レド:ふむふむ。


GM:つまりですね、皆さんはこの犯罪組織のオーガが“鉄の代議”が放った刺客だと感じるかもしれない。だとすれば、そうとうなりふり構わない手を使ってきているとも。

ナージェンカ:なーるほどねー…。蛮族にまで根回しして顔料のためにここまで来させたのか…。


レド:「なるほど、して、忍び込んだ賊というのはこやつだけなのですか?」

神殿地区のエルフ(GM):「そうだ。こいつだけだ」

レド:「わかりました。レッサーオーガがたった1人で来ていると、まあそういうこともあるかもしれませんが…念のため近隣の見知った人でもあまり信用しすぎず、警戒したほうが良いかもしれませんな」

神殿地区のエルフ(GM):「なるほど?ケモ耳族のものよ、ご忠告痛みいります。…ですがここは聖なる原初都市。我々エルフが見張っている街です。そうそう大したことは起こりますまい」


門番:既に少なくとも1人入られてるやないかい…。例の虫だって1匹いたら50匹いるんだぞ…。


GM:そんなところで神殿のシーンは終わり、夜になり、君たちはそれぞれ合流するために宿がある地区へと向かう。


 火気厳禁、さらに魔導機も嫌いなエルフたちの街。日が暮れれば真っ暗闇になるかと思いきや、夜の原初の樹はどこへ行っても穏やかな光で満ちている。それはマナが豊富にあるフレジスファ原初都市が持つ、自然の灯り。

 小さな光の精霊なのか、あるいはマナを貯めた植物が光を放つのか。原理はともかく、それはラクシアの現代において使われる光源とは違い、決して植物や動物を傷つけることのない、蛍に似たような優しい光だ。


 レド、ヴォックス、ナージェンカ、バイナルが宿や商店のある地区まで下りてくると、見知ったエルフの射手が手を振ってくる。

 「どう!?これがエルフの都市の偉大な御業よー!」と言ってルカカフィーネは周囲で光るマナの光の中で泳ぐようにひらひらと腕を回す。


 「はは、明るくてきれいですよね…。あの、もう僕慣れましたこの街の変なことにも…だからこれ以上なにも起こらないで…」と門番は心底疲れた顔をしている。

 確かにな、とレドは笑い。それから神殿で見聞きした出来事を2人に伝えた。


 「なんかあったけえ光だよなあ…。いや、とにかく飯にしようぜ!おいバイナル、お前のちっちぇえ足じゃあこの街はこたえんじゃねえか?」

 「ああ、そうだな」と、バイナルはヴォックスの軽口を受け流し、ぼそぼそと呟く。

 「1日探したけど、結局ユゥリーラガナルの製法は全然わからなかった。母ちゃんのためにも早く持って帰ってやらなきゃいけないのに…こんな事で大丈夫なのかよ」


 「なんだよ、たった1日でもう嫌んなっちまったのかよ…」

 「まあ、まあ、ヴォックス…。ねえバイナル君、長旅で疲れただろうし、さ。今日はしっかり休んで明日はお母さんの友達を探してみようねえ」


 「…そうだよな。そいつらを探せばきっと作り方だって」ナージェンカの励ましに徐々にバイナルの曲がった背が伸びていく。

 「ってかよぉバイナル!お前ユゥ、リーラ、ガナルってやつらがどんな人なのかとかかーちゃんから聞いてねえのかよ?」

 「うるせえな!聞いてねーもんはしょうがねーだろ!」

 「かぁーっ!使えねーのに口だけはよく動くぜ!」


「ほらほら、このルカカフィーネ・ネルラス・バジルキラがよさそうな宿を見つけておいたから早く入るわよ!」

 ルカカフィーネが意気揚々と入っていったのはここフレジスファ原初都市の外国人向けの宿屋『幸木に言祝がれ粛然と萌動せし蘖亭』(さいぎにことほがれしゅくぜんとほうどうせしひこばえてい)だ。


 ヴォックスとバイナルは交易共通語で書かれた看板をポカーンと見つめる。

 「エルフのセンスってわっかんねぇ」

 「…だな」


 「ほら、お前たち入口で立ち止まるんじゃない」とレドがぐいぐい2人の背中を押していき、門番がとぼとぼとそれに続く。


 1人残ったナージェンカが樹の隙間から覗く星を眺める。あの先日ハルーラ神の啓示で見た【奈落の魔域】はどの方角だったろうか、などと思いを巡らせながらハルーラ神殿の方向へ祈りをささげると、宿の中から熱した油の香ばしいにおいが漂ってくる。

 翼がぶつからないように気を付け、姿勢を低くしながら『幸木に言祝がれ粛然と萌動せし蘖亭』の扉を開くと、たまらない炊事の香りは更にたまらない音とともに一層強くなった。

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