ホラーorミステリー?

オレンジのアライグマ【活動制限中】

「ホラーorミステリー、どっちがいい?」


 ★★

 「ねぇ、ホラーorミステリー、どっちが良い?」



 私はゆっくり目を開けた。


 星空が真っ赤に染まっている。



 「ロボットが船内にもいる。もうだめだ。」


 「総員退避!総員退避!」



 私は大きな船に乗っていた。護衛艦だ。


 誰かが叫んでる。私は体を起こす。


 艦橋は燃えていた。船首が沈んで船尾が持ち上がっている。


 「おい!佐藤か?佐藤!船尾だ。船尾に向かうんだ。」


  声のするほうを見ると、角材を持った坂田走ってきた。右腕を火傷している。


  私と坂田は船尾に向かって走った。遠くで、艦隊がドローンと戦っている音が聞こえる。

 

 「まずい!避けろ‼︎」


 壊れた戦闘機が滑り落ちてきた。血しぶきが飛び、坂田は姿を消した。

 

 傾斜がどんどんきつくなっていく。私は無我夢中で走った。


 どれだけ走っただろう。船尾に着いた。


 甲板から身を乗り出すと、はるか下に海面が見えた。


 「いけるぞ」


 私は両足で甲板を蹴り、冷たい海に飛び込んだ。


 

 

 「ねぇ、佐藤くん。ホラーorミステリー、どっちがいい?」


 誰かが私を読んでいる。


 ★



 変わり果てた少女の姿を見て、少年はわめいた。


 少年は何度も、何度も少女の名を呼んだ。でも、少女は目を閉じたまま、眠ったように動かなかった。


 あんなに酷い殺され方をされたのに、少女は......


  微笑んでいるように見えた。



 

 「人工知能との戦争が始まりました。繰り返します。人工知能との戦争が始まりました」


 悲鳴と人の泣く声のなかで、アナウンサーの声がやけにはっきりと聞こえた。


 

 ★★★

 



 体が動かない。冷たい。意識が薄れていく。


 「ねぇ、ホラーorミステリー?どっち」


 誰かが僕の肩を叩く。振り向くと、さらさらの黒髪を肩まで伸ばした、優しい顔立ちの女子生徒がいた。


 「なんだ、美咲か。どうした」


 「佐藤くん、約束、破った」


 美咲は口を尖らせる。


 「えっ、ごめん。その......。何の約束を破ったんだっけ」


 思い当たることはない。僕が美咲との約束を破るなんて考えられない。

 

 

 僕は美咲のことが好きだった。美咲は多分このことを知らない。けれど、いつか告白しようと思っている。


 「もういい!図書室行くからついてきて」


 美咲は振り向くことなく、すたすたと図書室に向かって歩いていく。


 「ごめんなさい!謝るから待ってくれ」


 僕はあわててついていく。


 

 図書室に入ると、窓の外が真っ赤に染まっていた。


 書架も、机も、図書室の中のものは全て赤い光に包まれている。

 

 

 「座って」


 僕が適当な椅子を見つけて座ると、美咲は僕の向かい側に座った。


 真面目な表情をした美咲と目が合う。可愛らしい顔が真っ赤な光に照らされている。

 

 「久々に読み聞かせがしたい。ホラーとミステリー、どっちがいい?ホラーorミステリー?」


 「ミステリー。美咲が初めて僕に見せたやつがいい」


 美咲は微笑む。


 「わかった。それじゃ、いくよ。ミスターテリーの推理日記。作、加納美咲。ミスターテリーは、優秀な探偵です。......」


 美咲の声は優しかった。いつのまにか、僕の心にあった恐怖や苦しみは消えて、暖かい気持ちになっていた。

 

 「......ということでミスターテリーの物語はこれからも続くのです」


 オーケストラの演奏のように、美咲の読み聞かせは終わった。

 

 「懐かしい。もっと聞かせてくれないか?」


 「ごめん、今はだめなの。佐藤くんが私との約束を果たしてくれたら、聞かせるよ」


 

 僕の体が冷たくなっていく。嫌な記憶が思い出される。今にも倒れそうだ。


 「嫌だ!思い出したくない‼︎。美咲!頼む。僕を一人にしないでくれ!父さんも、母さんももういない。君がいなければ、僕は本当に一人だ。そんなの嫌だ‼︎頼む!僕のそばにいてくれ!」


 「大丈夫、ずっと待っているから。いつも、見守っているよ」


 意識薄れゆくなかで見た美咲の顔は天使のようだった。




 ★★★★

 

 目が覚めると、殺風景な部屋だった。重々しい機関の音が聞こえる。私は救助されたようだ。


 暫くして、医師がやってきた。うまくいけば、一週間くらいでもとのように歩けるという。私は、私が乗っていた艦の乗員の大半が助からなかったことを聞かされた。




 頭の中に、美咲と過ごした日々を思い浮かぶ


 「美咲。君との約束、果たすから、待っていろよ」



 

 ★★★★★


 

 「佐藤くん、小説書いているの?」


 高一の夏休み明けのある日、僕は女子生徒に話しかけられた。これが美咲との出会い。


 「私も書いているんだー。よかったら、見せようか?ホラーとミステリー、どっちがいい?ホラーorミステリー?」


 やがて、僕と美咲は日を追うごとに仲良くなり、毎日のように話すようになった。二人で小説を書いたこともある。




 でもあの日、人工知能との戦争が始まり、ショッピングモールにいた美咲はロボットに殺された。



 あの日、僕は誓った。美咲の分まで生きる。そして、美咲が書きたかった小説を書いて出版するんだ。


 美咲の制作ノートはもっている。いつか、この戦争が終わったら、私は自分の人生を小説に捧げる。

 



 それまで、もう一踏ん張りだ。

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