お墓参りは、2日に分けるのがちょうどいい。

かなたろー

スピリチュアル嫌いな妻が、母の霊だけは信じています。

 私の妻は、いわゆるスピリチュアルなことが嫌いで、天国も地獄も信じていないし、パワースポットも大嫌いです。


 一度、伊勢神宮を参拝した際には、本殿まで行ったのに、お祈りをせずに引き返してしまいました。


 本殿に向かう最中、ずっと、


「玉砂利が歩きづらい!!」


と、難癖をつけていました。日本有数のパワースポットに随分とご立腹でした。前世は妖怪かなんかだと思います。


 怒りが治らない妻に、おかげ横丁でタコのさつま揚げを買ってあげたら、みるみるうちに機嫌が戻ったので、正体はやはり、最近はやりの海の妖怪だと思います。


 なぜそう思ったか? 私の「直観」です。

 理由は、体型がとてもよく似ているからです。でもそれは「直観」ではなく「客観」です。


 話がそれました。


 そんな、スピリチュアルを目の敵にする妻は「客観」の達人です。客観視の達人です。「見たこと無いものは絶対に信じない」タイプの人間なのです。


 だけど、唯一、亡くなった母の霊だけは信じています。


 そう。見たからです。


 妻の母は、十数年前に亡くなっており、私は出会ったことが無いのですが、毎年、この季節……つまり春になると、母の命日が近づいてくると、毎年この話をしてくれるので、覚えてしまいました。


 妻の母は、薬害肝炎を疾患し、若い頃から病弱でした。

 母が亡くなる最後の数ヶ月、妻は実家の2LDKで、つきっきりで母の看病をしたそうです。


 文字にしてしまうと悲壮感が漂いますが、妻は、


「ちょっと家事をして、あとは、ずっとゲームをやって過ごす、最高の生活だった。まさに天職だった」


と、述懐しています。


 ですが、妻の天職満喫ライフは、ゆっくりと最後を訪れます。

 義母の肝臓はすでに限界に達していたらしく、


「次に吐血したら助からないよ」


と、言われていたからです。


 日に日に弱っていく母を介護しながらの毎日。とても悲壮感のある話ですが、


「あれは私の天職だった!」


と、いつも胸を張って話してくれます。


 妻は、スピリチュアルも大嫌いですが、辛気臭い話も大嫌いなのです。


 さて、そんな妻の天職満喫ライフは、突然終わってしまいます。

 それは、妻の叔母さん、つまり母の妹が、家に訪れた日の出来事でした。


 久々に訪れた妹との談笑を楽しみ、笑顔で別れた数時間後、ゆっくりと立ち上がった母は、おもむろに吐血しました。

 鮮血が、ゆっくりと服を伝うのを確認し、妻に向かって


「やっちゃった・・・」


そういって、苦笑いをしたそうです。




 妻は慌てて救急車を呼んで病院に運びますが、診断は肝臓破裂。

 気休めの痛みどめを打つくらいしか手の施しようがありません。


「いたい! いたい!! いたい!! いたい・・・」


 苦しみ続ける、その声を発しなくなった時、義母は息を引き取りました。

 今から十数年前の、4月13日の出来事です。




 妻は、母の死を叔母に連絡し、年の離れた兄の家族、そして、妻が小学五年生の時に母と離婚した、父に伝えました。


 病院を離れ、実家の2LDKに、叔母と兄、そして父が集まりました。


 母の思い出を語り合い、日が変わって兄の家族が帰り、父も帰ろうとした時、叔母が引き止めました。


「もう遅いから、今日は風呂入って泊まっていけば?」


「そうだな。そうしようか」


 父が答えたそのとき、


・・・ザザザ


 妻は見ました。はっきりと見てしまいました。

 父の後ろに吊るしてある、造花を活けた花瓶が、180度、くるんと縦に回転し、造花を床にぶちまけました。


「なんだこれ?」


 物音に気づいた父が、花瓶から落ちた造花を、花瓶に生け直すと、


「じゃ、風呂入ってくるから」


と、脱衣所に行きました。


 妻は、花瓶と、括られた縄を確認しました。

 花瓶はどっしりと1キロぐらいの重さがあり、花瓶の首に括られた縄は、しっかりとカーテンレールに括り付けられてあります。


「まさか・・・母さんが怒ってる? ほら、叔母さんが家に泊まれっていったから」


 妻は、スピリチュアルが大嫌いです。霊も絶対に信じないタイプです。


「死後の世界? そんなもんこの世にあるか!」


なタイプです。


 ですので、何かの間違いだと言い聞かせ、風呂から上がった父に麦茶を出しました。ですが、父が麦茶をひと飲みしたとき、


・・・ザザザ


ふたたび花瓶がくるんと回転して、造花を地面にばら撒きました。


「父さん、やっぱり帰って!!」


 妻は大急ぎで、父を無理やり家に帰らしたそうです。

 妻は思ったのです。母がブチ切れていると「直観」で思ったのです。


 私と出会った頃の義父は、もうすっかりトゲが抜けてしまって、穏やかな人物だったのですが、若い頃は、それはもう気性が激しい人だったそうです。


 リビングでは夫婦喧嘩が絶えず、妻は毎日、寝室のすみっこで体育座りをして、騒動が治るのを待ち続けたそうです。


「母さん、花瓶で父さんを殴ろうとしたんだよ。幽霊になったから、病気から開放されて元気になったんじゃないかな?」


 妻は、スピリチュアルが大嫌いですが、見たことは信じます。

 花瓶が動くと言う「客観」的事実を目撃して「直観」でそう悟ったのです。


 今日は、3月15日です。


 1ヶ月後弱で、義母の命日です。

 ですので、妻と私は、お彼岸にお墓参りをします。

 あまり信心深くない夫妻なので、今月のお彼岸のお墓参りと兼用してしまうと思われます。


 義母には誠に申し訳ないのですが、私たち夫婦は、あまり信心深くはない夫妻なのです。


 そして、数年前に他界した義父のお墓参りにも、お彼岸ですから行くのですが、お墓参りの日程は、必ず変えるように心がけています。


 入っているお墓は違うのですが、お墓はとても近所にあり、本当は1日でまとめて行ってしまった方が楽なんですけどね。


 ただ、妻は言うのです。妻の「直観」が言うのです。


「そんなことしたら、お母さん、怒っちゃうよ。あなたの後ろにあるお母さんの仏壇が、倒れてきちゃうよ」


って。

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お墓参りは、2日に分けるのがちょうどいい。 かなたろー @kanataro_

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