錬金術師の弟子2

「ちくしょう!」


師匠からよく集中力が無い言われていた。


何かしている最中も、他に気をとられ失敗する。


気を付けているのに直せないでいた。


再度“探知”と“遠視”の陣を描き、盗人を探す。


すると今度は、出たはずの建物の5階に移動していた。


「なるほど、外に逃げたんと見せかけて“転移”の陣で中戻ったんか。」


敵の思い通りに動いてしまったことに苛立ちを覚えた。


人間の転移は難しいので、物の転移だろう。


しかも人型の人形を走らせて、クリスタルを実際に持たせての芸当。


あいつららしいやり口である。


「なめくさって!」


策矢さくやは再び来た道を戻った。




「へっへ。あのアホな弟子どもからスリ盗るなんてちょろい仕事だぜ。

ま、あいつらに言われて変な人形に、これ持たせてから合流とかおかしなこと言ってたが、

金さえ手に入ればそんなのどうでもいい。これで大金が手に入るぜ。」


盗人は意気揚々と歩いていた。


「うおおおおおおおお!」


窓の外から大きな声が聞こえる。


「げ!あのアホ弟子!追いつかれたか。」


策矢さくやが窓の外から飛びつこうとしている。


「でもビルの窓は閉め切り。てめぇが下行ってる間にあいつらと合流しておさらばだ!」


しかし盗人の考えは脆くも崩れ去った。


策矢さくやが壁に張り付くと同時に、壁をすり抜けた。


「見つけたで、クソ野郎!」


「す、“すり抜け”の錬成陣か。さすがは錬金術師様だな。」


「大人しん返したら見逃したる。さっさと返し!」


「それで返すバカはいねぇよ。」


盗人は両手でクリスタルを抱え込む。


「ほう、ええ度胸や。ほんなら痛い目見ても文句ゆうなや。」


策矢さくやは単語帳を取り出す。


「うおおおお!見つけたぞ!」


盗人の後方から力也りきやが走ってくる。


「あのアホゴリラ、遅いわ!」


これで盗人を挟み撃ちにした。


力也りきやにタイミングを合わせて、策矢さくやは盗人に迫る。


すると突如、横の壁が膨らみ爆発した。


「なんや!?」


とっさに“壁”の錬成陣を出し、爆発から身を守る。


しかし勢いは止められず外に吹っ飛ばされた。


策矢さくやはとっさに力也りきやと盗人の体を掴む。


力也りきや!吸い付け!!」


策矢さくやの叫び声で力也りきやは即座に“壁に吸い付く力”の錬成陣を描き、壁に吸い付く。


策矢さくや!だいじょ!?ひぃぃぃぃ!?!?」


「アホ!下見んな!」


高所恐怖症の力也りきやに5階の高さは恐怖でしかない。


策矢さくやもそうだが、まだ耐えられる高さだ。


力也りきや!俺を掴んでくれ!紙落としたから陣描けんのや!」


片手に力也りきや、もう片手に盗人。


単語帳を落としたので手を使わなければ“すり抜け”の陣は描けない。


しかし力也りきやは恐怖に耐えるので精一杯だった。


力也りきや!はよせぇ!!」


ふと吸い付く力が消えた。力也りきやが恐怖のあまり気を失い、陣の効果が消えたのだ。


「アホォォォォ!!」


そのまま落下するだけで何も出来ずにいた。




地面が光出し、コンクリートが変化した。


ボヨン!


落下の衝撃が吸収され、怪我も無く地上に降りれた。


「助かった?」


策矢さくやはまだ事態を呑み込めずにいた。


「まったく、遅いし騒がしいと思ったら、こんなことになってたのね。」


「ひっ!?」


聞き慣れた声に恐怖した。


「し、師匠!すんません!」


策矢さくやは即座に土下座し謝った。


「ちゃんと説明してもらえるかしら?」


そこには2人の師匠、マヤリス=パラケルススがいた。


「実はクリスタルをこいつに盗まれまして。」


策矢さくやはまだ呆然とする盗人を師匠に差し出す。


両手にはまだクリスタルを抱えている。


「ん?こいつ・・・中身を盗られてるわね。」


「へ?まさか!?」


盗人は死人のように動かない。


意識を抜き取られ、目覚めない眠りについたのだ。


「はぁ。あいつらにやられたのね。ま、クリスタルが盗られなかっただけでも良しとしましょう。」


そこへ一人の少女が現れた。


「マスター。やつらの痕跡を見つけましたが、後を追えませんでした。申し訳ありません。」


「いいわ。今はやつらを追っても仕方ないもの。」


そう言うとマヤリスは盗人からクリスタルを回収した。


「さあ、早く帰るわよ。外も騒がしくなってきたし。」


外を見ると爆発騒ぎで野次馬が次々と集まっていた。


策矢さくやは急いで力也りきやを回収し、マヤリスと共にその場を離れた。




「さっさと起きなさいよ!この筋肉ゴリラ!」


マヤリスに顔を踏みつけられ飛び起きる。


「いってぇ~!だれだ!?ええ!?ぇぇ?」


力也りきやは即座に状況を理解し、正座した。


もちろん隣には正座をしている策矢さくやがいる。


「さて、今回のことだけど・・・」


マヤリスはいつもの椅子に腰かけると目を細め2人を見た。


「こいつが盗られたのが原因です。」


「はあ?お前が寝坊したんが悪いんやろが!」


「うるさい!!」


2人の言い争いがまた始まったが、マヤリスが即座に止める。


「あなた達がやらかしたことは2つ。

1つは私を待たせたこと。もう1つは盗人に手こずったことです。」


「でも盗人の裏にあいつらがおったんですから、仕方ないんとちゃいます?」


「ああ、あの爆発もあいつらが原因か?」


「せや。痕跡があったゆうてたし。間違いない。」


「私の弟子たちがあいつらに後れを取っても仕方ないと?」


「「う・・・・」」


「・・・修行を追加しないといけないわね。」


「「そんな~」」


マヤリスの修行は厳しい。


「それと私を待たせたことは、奉仕で返しなさい。」


「「はい・・・・」」


この奉仕も大変厳しい。


「特に力也りきや!私は待たされるのが嫌いだから寝坊癖を直しなさいと言ったでしょ?」


「す・・・すみません。」


「ま・・・待たされると・・・心配だから・・・嫌って言ってるじゃない・・・」


「し・・師匠!今のセリフ、もう一回言ってください!」


「はあ?バカじゃないの?」


「安心せい!撮ったど~!」


「でかした策矢さくや!」


「はあ!?バカ!消しなさい!」


マヤリスは顔を真っ赤にしながら鉄を錬成し、2人を襲う。


「ひぃぃぃ!全力で守れ!」


「当たり前や!」


たまに嬉しいこと言ってくれるから師匠の弟子は辞められない。

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