第16話 薄汚れた豚のような僕が大好きなあの子に叩かれてみた結果w
「えへへー、気持ちいいでしょ? ここ」
「うん、……そうだね」
街の外れの堤防、梶尾さんと2人腰掛ける。
大好きな梶尾さんと2人きりなのに、僕の心は晴れない。
吹き付ける潮風の生臭さを少しうざったく思いながら、僕は無理矢理笑顔を作る。
「それに、楽しいよ」
真っ赤な嘘。僕は今、ただ辛い。
「……ほんとにぃ?」
言いながら梶尾さんは顔を覗き込んでくる。
善意と心配100%の笑顔はとてもキラキラとしていて、あたたかい。
いじめられて、戦って、今度は遠回しにいじめられる。そのことは当然、梶尾さんにも伝わっている筈だ。
噂話、それは閉鎖的かつ狭く怠惰なコミュニティには必ずと言っていいほど蔓延するマイルドドラッグ。
うちの高校にも漏れなく、その魔の手は広がっている。
「ホントだってば、全く梶尾さんは疑い深いんだから」
僕はわざとらしく口を尖らせる。
そうやって無理矢理戯けて見せるのが、今の貧弱な僕に出来る限界のカッコつけ。
ホントは拗ねてなんかいないし、楽しくもない。
梶尾さんといられる事は嬉しいけれど、彼女からで続けている同情の念が僕の心をチクチクと突き続ける。
「……ならいーけどぉ、ヤなことあったら絶対言ってね? こーやってよしよししたげるし♪」
そう言って笑う彼女の優しさと強さが眩しくて、素敵で、自分を嫌いになる。
悲観的なナルシシズムに素直な賞賛を奪われて、恋すらまともに出来ない人間になった。
そんな僕に眩しく微笑みかける素敵な女の子。
……まるで介護だ。
「だから大丈夫だってば、梶尾さんのほうこそ、その、辛い時はな、その、なで……」
「……ぷっ」
続いてあははと梶尾さんは笑う。
「もぉ〜、照れるんだったら言わなきゃいーのに」
彼女は心から楽しそうに、まるで10年来の親友にそうするように僕の背中をバシバシと叩く。
「痛い痛い、梶尾さん痛いって」
彼女は日に日に優しくなる。
「えー? ごめーん、だって広瀬くんオカシーんだもん」
僕がいじめられる程、不幸になる程、努力が空回りする程。
「だからって叩かなくても」
距離は近くなる。
「えへへー、ごめんね?」
それはつまり、彼女が優しければ優しい程に、僕はダメな奴だってワケだ。
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