第12話 勇気を出して電話してみた結果w

 プルルル。


 手が震える。


 無機質なコール音が精神を急き立てる。


 チートで書き換えてなかったら、きっと僕の脳はこの負荷には耐えきれてないだろう。


 迷惑じゃないかな。


 キモくないかな。


 僕は勘違いをしているの?


 そんな恐ろしい思考が頭の中をハイスピードで走り抜ける。


 それは抗うことの出来ない絶対的価値。


 女の子にキモがられたら終わり。


 それは世界の真理。


 だから仕方がない。


 憧れのあの子が泣いていたっていうのに湧き上がる場違いな心配が湧き出てくることも。


 耳から少しスマホを離し、画面をチラリと見る。


 【梶尾さん】


 とそこには間違えようもなく表示されている。


 こないだのマックで教えてもらったライン。


 アプリ内に登録された彼女のアカウント。


 僕はそれを、まるで命をかけた大冒険の末に手に入れた秘宝のようにだらしない顔で眺めていた。


 彼女の声が聴きたい。


 泣いていた理由が知りたい。


 だから僕は通話をかける。


 少し本を読んだくらいで上手く喋れなんてしないだろう。


 少し脳を強化したくらいでヒーローになんてなれない。


 だけど通話をタップした。


 それは決して褒められるようなことではないのだろう。


 僕はタップしただけだ。


 アダルトサイトの会員登録ボタンをタップしても褒めてくれる奴はいない。


 僕はタップした。


 欲しい未来に近づくために。


 プルルル、ぷつっ……。


『もしもし? 広瀬、……くん?』


 声が聴こえる。今一番聴きたくて、今一番畏怖する声。


「あ、あの、あのあの、か、梶尾さん?」


 僕の声、キモくないかな?


 僕ってストーカーみたいじゃないかな?


 場違いな心配が脳裏を高速で走り抜ける。


『くすっ、どうしたの? そんなに慌てて』


 梶尾さんの持つ柔らかい世界。


 それが受話器の向こうから届く。


 だからもう一度僕は勇気を出す。


「か、梶尾、……さん?」


『なぁに?』


 梶尾さんの問いかけは暖かくて、優しい。


 僕は少しの安堵を胸に続ける。


「昨日、泣いてたのは、その……」


 言ってる途中、梶尾さんは息を呑む。


 そこに含まれるのは優しさでもなく、悲しみでもない。


 一瞬で張り詰めた負の空気に、梶尾さんを追い詰めてしまったような罪悪感を覚える。


 人の心は見えなくて。


 それでも、『こうなんじゃないかな?』って程度の残り香だけは漂っていて。


 それが、怖い。


『だい、……じょ、……ううん、違う』


「うん」


 今すぐに書き換えてしまいたい。


【梶尾さんの悲しみを消す力=+∞】


 って、そんな項目があったらいいのに。


 そしたら世界は、怖くないのに。


『……ゴメン、ね』


 彼女がまた泣いている。


 それは僕のせい?


 何故かは分からないけれど、そんな気がした。


 それはおこがましいこと?


 そうあって欲しいの? 


 僕が梶尾さんを泣かせた男。


 彼女の心の奥深く、そこに触れた男。


 そんの称号を欲してやいないか?

 

 もしもそんな薄汚いものを欲しているのならばぼくは……、やめよう。


 こんな時にまで精神的自己保身。


 脆弱な自己イメージの肯定感を泣いている女の子に依存する自分に反吐が出る。



『あたし、……広瀬くんを」


「え、……僕?」


『いまから、会えないかな?』


次回💻憧れのあの子と無駄に謝りあった結果w💻

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