第12話 洗礼
綾瀬さんが静岡に来てから、毎日色んなことを提案して来る。
「ねぇソフィア。こんなのって作れるの?」
ラノベと呼ばれる本を開き、【マジックバッグ】と呼ばれる見た目よりも圧倒的に大きな収納量を誇る鞄の事を問いかけて来る。
体感的な重さも無く、時間経過も無い。
そんな都合のいい物なんて…… まぁ向こうの世界ではあるけどね!
理論的にはマジックバッグと言われる物は鞄では無い。
異次元空間と呼ばれる、生物の存在できない場所。
そこには時間や重さの概念すらない。
その場所への入口を作ると言う事だ。
ラノベと呼ばれる本の中では、性能の低い物だと時間経過があるとか書かれていたけど、逆に異次元空間以外の場所へ入り口を繋げる方が難しい気がするけどな?
入り口は一度紛失してしまうと、二度と同じ空間に繋げる事は理論上不可能だから、魔力が枯渇してしまえば、その中に入れている物を取り出す事は出来なくなる、とかのリスクはあるけど「作れるのか?」 と問われれば作れる。
向こうの世界では、マジックバッグには一時的な魔力切れなどが起こった際に、収納物紛失のリスクを無くすために、魔石に自分の魔力を貯めて置いて、予備バッテリーの様な使い方をする事で、実用化されている。
ただし、その魔石はモンスターの体内に存在するから、モンスターの存在しない、この世界では入手は困難だ。
私がこの世界に来た時には意識だけが、さやかに宿ったから向こうの世界で私が持っていた物は何一つ持っていない。
だから直接的に魔法を使う事は出来ても、モンスターや魔法草の素材が必要なものに関しては、素材不足で作れないんだよね。
それを説明すると「そっかぁ。残念」とがっくりと肩を落とす。
【ポーション】【キュアポーション】と呼ばれる魔法薬に関しても、魔力を宿した薬草が存在しないから、現状では作れない。
ただし、綾瀬さんにはまだ伝えて無いけど、全く不可能かと言われると解決の糸口程度は、辿り着いている。
信仰対象にある様な植物だ。
解り易い所で言えば「四葉のクローバー」多くの人が幸せの植物として認識している。
神社にある様なご神木の樹液も使えない事は無いかも知れないが、女神様との相性でどうかな? という懸念はある。
この「思いが込められている」と言う現象が大切なの。
私が錬金窯で成分を抽出して、私の魔力を溶かせばきっとポーションは出来ると思う。
錬金窯の素材は【ミスリル】これもこの世界には存在しない。
ただし、ミスリルは作れる。
【魔銀】とも呼ばれるように、魔力を持った銀がミスリルだから、錬金術の能力を持った私であれば、溶かした純銀に魔力を馴染ませる事でミスリルは錬成できる。
時間だけはあるから、少しずつ手を付けて行こうかな?
◇◆◇◆
先日の綾瀬さんの提案で、東京の原田先生に相談した宗教法人設立に向けての話だけど、原田先生は意外に乗り気だった。
「私と金子君も『女神聖教』の信者になりますよ。洗礼を受けたいと思います」
と伝えられた。
確かに二人ともまだ未婚だし、他の宗教の洗礼も受けて無いとの事なので、洗礼は可能かな?
向こうの世界の様に6歳の誕生日で受けるわけでは無いから、その分の洗礼の内容の変化に関しては、やってみなければ解らないけどね。
そして水晶玉を手に入れた。
直径15㎝程のサイズの傷の無い水晶玉は、とても高額だったけど傷があると役に立たないのでしょうがない。
私は手に入れた水晶玉に魔力を馴染ませ、女神様に祈りを捧げた。
水晶玉が輝きを放ち、洗礼に使える
他に20㎜程の球体のクリスタルにも私の魔力を注いで置く。
このクリスタルは洗礼を受けた女神の信徒に渡すものだ。
ミスリルのチェーンと爪でクリスタルを固定して肌身離さず持つ事で、かなり実用性の高い
そう、私が向こうの世界で龍のブレスに焼かれた時に身につけていた、お守りも同じものだ。
ネックレスとして使うのが普通だけど、身につけていれば腕輪でも、アンクレットでもどこでも構わない。
◇◆◇◆
準備も整ったので、原田先生たちにも連絡して今日は三人の洗礼を行う日だ。
「ソフィア。私は洗礼受けなくてもいいの?」
「さやかは、毎日私がさやかの身体でお祈りを捧げているし、保有魔力も魔力操作も既に私が向こうに居た時と変わらないから、とっくに女神の使徒として認められていると言う事だね」
「そうなんだ。でもさ信徒になると、他の宗教の結婚式やお葬式は出れないんだよね?」
「お葬式は別だよ。あれは神に祈りを捧げるんじゃ無くて、故人とのお別れの会だから」
「へー。色々あるんだね。でもさ。例えば原田先生が結婚式挙げたいとか言い出したら、女神聖教の結婚式って出来るの?」
「うん。出来るけど結婚式はそんな大げさなもんじゃないんだよ? 信徒の方が新しい家族を女神様に報告をするのがメインだから。その後に披露宴をするなら自由にやればいいだけだし」
「そうなんだ。結婚式に憧れがあったから、なんか難しく考えちゃったよ」
「さやかちゃん。原田先生たち到着したよ」
「解りました。綾瀬さん」
「こんにちわ。こっちに来てまだ二か月位しかならないのに、随分立派なイチゴ畑が出来てるんだね」
「先生。お久しぶりです。私より綾瀬さんが凄い頑張ってくれてるんですよ。今度はガラスのハウスを作って、腰が痛くならないような棚式の水耕栽培にもチャレンジするんですよ」
「へー凄いね。でももう実がなってるけどイチゴってそんなに簡単に育つものなの?」
「今回は、叔父さんが育てた苗を植え替えて育てたんで、比較的簡単でした。でも今度取り組む水耕栽培は、叔父さんもまだ手を付けて無いから、ドキドキします」
そんな話をしてると、綾瀬さんが横から口を出して来た。
「さやかちゃんじゃ無くて、ソフィアちゃんが何かやったのは黙ってた方が良いの?」
「言っちゃってるじゃないですか。もう」
「えっ? それってこのイチゴは、もしかして魔法が使われてるの?」
「女神様の祝福ですよぉ。後で洗礼の儀式が終わったらお腹いっぱい召し上がって下さいね」
「わー楽しみ。女神様に祝福されたイチゴとか、食べたら綺麗になれそうだね」
「美鈴さん。お土産分も差し上げますから、楽しみにして下さいね」
「形や色が違うのがあるんだね」
「今は、叔父さんの畑で育ててるのと同じ三品種です。『章姫』と『きらぴ香』と『パールホワイト』ですね」
「この白いの超かわいいね、真っ白なのに粒々が赤いのが」
「でしょ? この子をもっと大きめに甘く育てたくて、今度の水耕栽培でチャレンジするんです」
「楽しみだね」
「そろそろ始めましょう」
順番は、綾瀬さん。
原田先生。
美鈴さんの順番で行う事になった。
私が水晶玉に触れながら、女神様に祈りを捧げると水晶玉が淡く光る。
「それでは、綾瀬さん。水晶玉に触れて女神様の使徒となる事を誓って下さい」
「はい。私『綾瀬今日子』は女神アストラーゼ様の使徒として、人々が幸せに過ごせる社会を創る為に努力します」
すると水晶玉は一瞬大きく輝き、その光は綾瀬さんの身体に収まって行った。
私が水晶玉を覗き込むと『水の加護。魔力C』と表示されていた。
「綾瀬さん。凄いです。この世界でもちゃんと加護を得て、魔力を身につける事が出来ました。それではこの水晶の
「ソフィアって本当に聖女様なんだね。さっき私が洗礼を受けるときに、女神様の加護を頂いて何をしたいのかを言わせたじゃない?」
「はい」
「その時に女神様に誓う言葉次第で、与えられる力は変わる物なの?」
「その通りです。何を成し得るのかが、はっきりとしてない人には、それなりの加護です。綾瀬さんの様に成し得たい事がはっきりとしている方には、それに役立つ力が授かります。ただし最初は出来る事は少ないので、日々祈りを捧げながら訓練をする事も大事ですよ」
「解ったわ。ありがとうソフィア」
こうして綾瀬さんは、水の加護を得た。
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