第11話 女神聖教
「本当に来ちゃったんですね」
「よろしくね。さやかちゃん。私が主にお世話になるのはソフィアちゃんかな?」
警視庁捜査一課の刑事だった綾瀬さんは、警察を退職して静岡の平和な田舎町へとやって来た。
「女子高生の一人暮らしで一軒家だと、防犯上どうかな? と思ってた部分はあるから、警官だった綾瀬さんが来てくれたのは、ちょっと安心できます」
「私ももう来年で30歳だから、東京に居ると両親や親せきが色々とうるさいんだよね、だからこっちに来たのはそれもあるんだよ。今までは警官だったからまだ、かわせたけど、辞めちゃったら、どうでも結婚させたいらしくてさ」
「大変なんですね。でも別にお家賃とかはいらないですけど、畑のイチゴの世話とかは手伝って下さいよ?」
「それは大丈夫よ。ちょっと私なりにイチゴやミカンの栽培は勉強して来たんだよ? 今までの専業農家さんだと、生産効率とかの問題で取り組めなかった様な栽培方法でも、さやかちゃんのプライベートなイチゴ畑なら色々出来る事もあると思ってね」
「へー、そうなんですね。私も勉強中だから色々教えてくださいね」
「任せて! でも、全国の心霊現象の調査と対処の方もやって行きたいから、よろしくねソフィアちゃん」
「それに関しては、調査は綾瀬さんの担当で、対処に関してはソフィアって事でいいですか?」
「解ったわ。でもどうせそのうち繋がりがバレちゃうと思うから先に言って置くけど、殆どの依頼は警察庁の0課から廻って来るわ。民間案件だと値段交渉とか面倒だし」
「やっぱりそうなんですね」
「表立って心霊現象を認めちゃうと色々と問題があるのよね。重度な犯罪を犯しても心霊現象のせいにして逃げちゃうことも出来るし」
「なるほどぉ。じゃぁ綾瀬さんは完全に警察から切れた存在ではないと言う事ですか?」
「組織はきちんと退職してるけど、ソフィアちゃんの存在を認めた上で、仲良くしてもらう為の専属エージェントみたいなものかな」
「まぁいいです。さやかに危害が掛らない範囲であれば協力はするよ」
「そういえばソフィアちゃん。畑の端っこにちょっと立派な部屋みたいなのがあったのは何?」
「あれは女神様にお祈りを捧げる部屋です。私は女神聖教の聖女ですから」
「そうなんだ。その女神様の加護はこの世界でもあるの?」
「私の力が使えると言う事は、女神様に見守られている言う訳ですから、感謝の心は捧げてますよ」
「そうなんだね。ねぇそれは私も祈りを捧げていれば、加護がもらえたりするのかな?」
「どうでしょうね? 私は祈りたいから祈ってるだけです」
「そうなんだ。私も一緒にお祈りしても良いかな? お経とか呪文みたいなのはあるの?」
「そんなの無いですよ。ただ感謝をするだけの部屋です」
「そうなんだね。10年も経てば信者で溢れかえりそうな予感がするよ」
「別に布教したりはしませんよ? ただ大きな力を必要とする事態が起こる事があれば、信仰心を集める事に寄ってより強い力を発揮できる事も真実ですけど」
「そう言えば、ソフィアちゃんは聖魔法の他にも出来る事があるの?」
「生活魔法と言う属性魔法の基本の様な物が使えますね。後は錬金術と魔導具の制作も出来ます」
「凄いわね。魔導具は誰でも使える者なの?」
「魔力を流す事で使えるのが魔導具ですから、体内の魔力を感じ取って放出出来る人でないと使えないですね」
「そっか残念。でも、ソフィアちゃんの居た世界ではみんな使えたんだよね?」
「はい。女神様の洗礼を受ければ体内の魔力を感じる事が出来る様になりますから、向こうの世界では6歳の誕生日に必ず洗礼を受けていました。その時に様々な適性を授かり、優秀な方は神に仕える仕事や騎士として国を守る仕事に就いたりしていました」
「洗礼はこの世界の人では受けれないのかな?」
「少なくとも他の神を信じる人では難しいかも知れません。向こうの世界では女神様か魔神しか居なかったので殆どの方は女神様の洗礼を受けていましたね」
「この国では神様って沢山いて、神社でお参りをした事の無い日本人とか少ないと思いますけど、その場合は駄目って事?」
「私もこの世界の事にそこまで詳しくは無いですけど、洗礼を受けていない人。若しくは神様に誓って何らかの儀式を受けた人。解り易いのは結婚式ですね。あれは永遠の愛を神に誓っていますから立派な儀式です。それをしていない人なら、洗礼を受ける事は出来ます」
「洗礼の儀式ってもしかしてソフィアちゃんが出来たりするの?」
「それは……私は聖女ですから当然できます。質の良い水晶を手に入れて、錬金を施し魔導具としての【鑑定水晶】を用意すれば儀式自体は行えます。ただし他の神への祈りを捧げたりすると、全ての能力を失ってしまうので、この世界の様に沢山の神と呼ばれる存在が居る所では、難しいのではないでしょうか?」
「ねぇ私は幸いこの年齢まで結婚もしてないし、特定の宗教の信者になった事も無いけど、洗礼受けれないかな?」
「初詣とか行けなくなりますよ? 後は、友達の方の結婚式とかも、披露宴程度は大丈夫ですけど式に参加する事は出来なくなりますよ? それでもいいんですか?」
「構いません。それで力を手に入れる可能性があるのであれば、女神様に感謝をささげて忠誠を誓います」
「解りました、水晶が完成したら洗礼を行いましょう」
「ねぇソフィアちゃん。一つだけいいかな」
「今回の事。原田先生に相談して、宗教法人の設立準備に入った方が良いかも知れないよ」
「私布教するつもりは無いんですけど?」
「でもさっき言ってたじゃん。信仰の力を集めてより大きな敵に対処する事が出来るようになるって」
「この世界でそんなに大きな事件が起こるとも思えないですけど?」
「でも…… ソフィアちゃんがこの世界に来たように、魔神や魔王がこの世界に絶対に現れないと言う保証は無いんだよね?」
「それはそうですね……」
「あくまでもまさかの為の保険だよ。原田先生に相談して置いて損は無いって」
「解りました。一応相談はしてみます」
なんだか綾瀬さんってやっぱり刑事さんなだけあるよね。
聖女な私がすっかり誘導尋問みたいな感じで洗礼する事になっちゃったよ。
でも……この世界の人達に本当に加護が現れるのかどうかは解らないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます