第10話 新天地
「原田先生。美鈴さん。色々ありがとうございました」
事件後の色々な事が終わり、私は東京を離れる事にした。
伯父や叔母の遺族も居るし、東京で私が一人で過していくにはちょっと色々と面倒な事が多すぎるからだ。
静岡県の母の実家がある田舎町へと引っ越す事にした。
既に母方の祖父母も亡くなっているけど、母の弟が祖父の家を継いでいてイチゴ農家をしているので、その近所で生活を送る事にしたんだよ。
この叔父さんはイチゴの品種改良に人生を掛けているような人で、パールホワイトよりも白く美しく美味しい品種を開発するのが夢なんだって。
駿河湾沿いにある田舎町で、叔父さんの伝手でこじんまりとした一軒家を取得して貰って、原田先生が救った子猫二匹を連れて引っ越す事になった。
まだ築10年ほどの綺麗な家で敷地面積だけは広く、ここで私もイチゴを育てながら通信制の高校を卒業して、大学を目指す事にする。
未成年後見人は、そのまま原田先生に、お願いしているよ。
美鈴さんは「このままここで一緒に暮らしてくれても全然いいんだよ? こんな広いマンションに一人とか寂しいし」って言ってくれてたけど、迷惑を掛けちゃうのも悪いからと言って自分で静岡へ行く事を選択した。
なんだかんだ言っても命狙われたりしたのは確かだし、お嬢様な美鈴さんにまさかの被害が有ったりしたら、ご両親に殺されそうだし……
それに一人の方が、ソフィアの魔法とか遠慮なしに使えそうだしね!
大学では再び東京に戻る選択をするかもしれないけど、2年程の期間はこの静岡の土地でゆっくりと過ごそうと思う。
美鈴さんと買い物に行った時に買った、なんちゃって制服で過せるのは後1年くらいかな? 18歳過ぎてからの制服姿は駄目だよね?
そうそう二匹の子猫の名前は黒い男の子が「モンド」君。
白い女の子が「アー」ちゃんに決まったよ。
二人とも目が凄く綺麗なアーモンド形をしてるから、それで決めたんだ。
凄く仲良くて、いつも二人でじゃれあってる。
何時間でも見ていられるよ。
と、ここまでの流れを喋ってると円満なだけの様に見えるけど、実際は結構面倒な事もあったんだよね。
◇◆◇◆
「さやかちゃん。私に協力して貰えないかな?」
警視庁の女刑事さんの綾瀬さんだ。
明らかに瀕死の重傷を負っていたのを本人も自覚していて、救急車で搬送されて検査を受けた時に服は自身の血で汚れていたのに身体に傷一つないどころか、古傷まで綺麗に治っていた事実で私を疑って来た。
医療行為は継続的に業として行うのでなければ、これを処罰する法律は無い。
だから綾瀬さんの時の場合、仮にバレたとしてもそれで逮捕される事は無いと原田先生は教えてくれた。
静岡に引っ越す前に一度、事実を知っている三人で集まった。
「ねぇさやかちゃん? 私はね世界中で難病を抱えて苦しんでいる子供たちを応援してあげたいの。その為に協力して貰えないかな?」
まじで発想がソフィアよりも聖女様っぽいよこの人……
それに対して原田先生が助け舟を出してくれる。
「綾瀬さん。さやかちゃんの行為が許されるのは継続的でなく、業でも無いと言う事が前提です。今、さやかちゃんが綾瀬さんの言うような医療行為を継続的に行えば、それは犯罪行為に手を染めろと言ってるようなもんですよ? 私は法律に携わる者としてそれを見過ごすわけには行けません」
「だったらさ、さやかちゃんがお医者さんになっちゃえば良いじゃ無いの」
「綾瀬さん…… 何簡単に言ってるんですか。高校も留年確実になって静岡で通信制に変更するのに、お医者さんになるとか一体あと何年かかると思ってるんですか? それに私はお医者さんになろうとか思って無いですし、現代医学を学ぶ意味も必要も無いですから、そんな勉強をして貴重な時間を使うなら、イチゴ育ててる方がよっぽど納得いきます」
「だって…… そんな凄い力があるのにそれを世に出さないなんて、人類の損失だよ」
「でもその為に意味のない勉強を8年も強いられる私だって、一応人間ですから自分の意志でやりたいと思わない限りは、その力を使うつもりはありません」
「うーん。それが『遠藤さやか』さんの意見なのね。解ったわ。でもどうなの? もう一人のあなた『ソフィア』さんも同じ意見なの?」
そう問われて、ソフィアが私の身体を支配した。
「綾瀬さんが良い人なのはすっごく解るし、私も元の世界では綾瀬さんと同じような考え方で、教会での治療を続けて来たわ。でも、私一人ですべての人を治せるわけもないですし、私の治療が間に合わなかったの死を目前で沢山見てもきました。そうやって亡くなられる人の最後の言葉って解りますか? 全員がそうでは無いけど殆どの方は『お前のせいで俺は死ぬ。お前を恨み続ける』って言われるんですよ? その人とはその場で初めて出会うし、ただ沢山の人が運び込まれたりして魔力が足りなくなって間に合わないだけでも、私のせいでその人たちは死んでいくんだって言われるんです。そう言われる気持ちは理解できますか? そんな力もなく、ただ眺めている人ではなく私のせいにされるんですよ……」
「ごめんなさい。私にはその人たちの気持ちは理解できなかったです。どうやら私は無理な事を押し付けようとしただけみたいだね…… でも、それでも助かる可能性のある命を救ってあげたいんです。ねぇ私、警察を辞めてくるから、さやかちゃんの側に置いて貰えないかな? イチゴ畑も手伝うし、家事も得意だよ」
「なんで、そんな話になるんですか?」
「フフ。今までの話は建前よ」
「えっ? もしかして綾瀬さんって黒い人ですか?」
「黒いかどうかは別として法律が影響しない部分の話をしましょう。公にはなって無いけど、警察庁の中にはあるのよ」
「何がですか?」
「心霊現象専門の捜査課が」
「それって…… 能力を持った人たちが居るんですか?」
「能力を持ったと言えるかどうかは別として
「あの事件の時に、殺人犯の男や高城刑事が気が狂ったように笑ってたのは、心霊的な要因だよね?」
「間違いないです」
「そしてさやかさん。いえソフィアさんにはそれを退ける力がある」
「はい」
「現在この国の法律では、そう言う部分に置いて法的根拠のある対処は出来ないわ」
「そうでしょうね」
「でも警察庁では視える人たちによって悪霊や幽霊と呼ばれる存在を把握していますし、実際それによって苦しんだり呪い殺される人が年間に日本でどれくらいいるか想像できますか?」
「いえ、まったく」
「不確定な部分もあるけど、警察庁がそうだと認識する者だけでも年間1,000件に近いわ」
「そんなにあるんですね」
「それを専門に解決すれば凄いビジネスチャンスになるって思わない?」
「さっきまでの聖女様発想の綾瀬さんと違い過ぎますね」
「どちらも私の本当の姿よ、難病で苦しむ子供達を無償で救いたいと思ってるけど、お金も稼いで人生を楽しみたいの。ね、さやかちゃんから離れる理由が全くないでしょ?」
「コワッ」
黙って話を聞いてた原田先生も、流石に顔が引きつっていた。
でもソフィアが結構、開き直った綾瀬さんを気に入って、本当に辞めてくる気があるならいいよとか言っちゃったんだよね。
どうなる事やら……
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